《第一輪》




 初めて会ったのは、隠れ家みたいなお店

 これは運命かも、と俺は思ったけれど


 出逢いは史上最悪だった。






《花、時々キミ/第一輪》






 元治元年。山南さんに連れられて、一軒の茶屋に入る。茶屋は古風な趣のある外装・内装で。普段なら気に入りそうな所だった。
 けれど俺はその時、何故か不機嫌で。第一声はとんでもなかったと、今は思う。

「辛気くさい店ですね」

 どうせ料理場から顔を出すのは しわくちゃのお婆ちゃんなんだろ、なんて馬鹿にしてた。
 今は全国のお婆ちゃんに謝りたい。

「お婆ちゃーん、俺餡蜜ね」

 お品書きもろくに見ずにそう言うと、返ってきたのは予想だにしなかった声だった。

「‥お婆ちゃんじゃあないんですけど」

 心臓を射抜かれたような衝撃。馬鹿みたいに丸くなった目が捉えたのは、嘘みたいに可憐な女の子。
 思考回路、完全停止。

「餡蜜ですね。はいはい。あ、山南さんは何にしますー?」

 自分にだけ冷たい態度をとられて、かなり凹んだ。
 何で俺だけ‥‥って

──理由作ったの俺じゃん!

 今更ながら、数分前の自分を死ぬほど恨んだ。
 山南さんの注文を聞き終わると、彼女は山南さんには笑顔を、そして俺には一言残して去っていった。

「“辛気くさい店”ですが、ごゆっくりどうぞ」

 本当に、最悪。
 情けない顔で彼女の背中を追う姿を哀れに思ったのか、山南さんは俺の背中を撫でてくれたけれど、かえって一層悲しくなった。

 次に台所から顔を出したのは、さっき期待していたのと寸分違わぬしわくちゃのおばあちゃんで、出された餡蜜は味がよく分からなかった。

 お情け程度に山南さんが教えてくれた彼女の名前以外、その日俺が得た物は皆無。
 失ったのは俺の信頼と、きらきらの第一印象。

 とにかく出逢いは最悪だった。





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回想話が続きます。
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