《第六.五輪》



君に伝えたい気持ちがあるんだ

溢れ出すこの気持ち
零れてしまう気持ち

ねえ
この気持ちを
乗せられる言葉が
見つからないから

溢れる想いを
乗せきられる言葉なんて
見つけられないから


花に込めた想いを汲み取って

募る想いを
どうか 受け取って

大好きな
その笑顔を 頂戴?








【花、時々キミ第六.五輪
 『愛を込めて花束を』】








 少し胸が弾むのは、きっとこの後の事を考えているから。いつもの約束の時間、約束の場所、そして──約束の人を想っているから。
 それでも仕事を疎かにしないのは、そこまで愚かになりたくないから。(馬鹿な女だと思われたくないから)


「はい、こちら善哉になります」


 それでも、いつもより笑顔が自然と零れるのは、貴方のことを想っているから。
 仕事をこなしながらそんなことを考えていると、思わず口元が綻ぶ。


「薫、薫」


 名前を呼ばれ 反応して、自然と溢れた笑顔のままお祖母ちゃんの方へ振り向けば、呆れたような顔をされた。


「仕事中にニヤニヤしてんじゃないよまったく。」

「え、あ、にやけてた?私」


 それでも悪びれもなくこのニヤつきを隠せないのは、(隠そうともしないのは) 貴方のことがいつもいつでも 頭の中から離れないから。
(それを幸せと感じている私がいるから)

 なんて、呆けた事を考えてみる。



「‥あーもうほら、薫、お客様だよ」


 店の戸に影が映ったのをいち早く察知したお祖母ちゃんは、私に呆れたような声で来客を教えた。
 私は変わらずニヤけた顔のまま、引かれた戸の方へ満開の笑顔を向けた。


「いらっしゃいませ!」

「‥っただいま‥っ!」



 聞き慣れた挨拶と共に 思い切り開かれた戸の向こうに姿を現したのは、今の今まで私の脳内で笑顔を浮かべてくれていた人。大切な人。


「‥‥ぁ‥‥と」

「‥‥‥」


 全く予想だにしてなかった来客に、思わず言葉を失う。と、向こうも何故か驚いた様子で言葉を失っている。──私の顔を見つめたまま。
 奇妙な沈黙に、思い切り向けた満開の笑顔のまま停止してしまった。
 あんまり真っ直ぐな瞳で見つめられると照れちゃうんですけど‥!


「あの‥藤堂さん?」


 堪らなくなって笑顔のまま声をかけると、今度は藤堂さんが顔を真っ赤に染め上げた。
 予想していなかった反応にあたふたしていると、停止していた藤堂さんの背後にひょっこり二つほど頭が出てきた。


「おい平助、何突っ立ってんだ?」
「早く中に入らせろヨ」


 あ、永倉さんに原田さんだ。と思ったその時、


 スパァァァアン!


 いっそ心地良い程の 戸が閉められる音が鳴り響いた。


「えぇぇえぇ!?何だ何だ平助!?」
「閉め出すなよおい!」

「ダメダメ絶対ダメ!!!」


 何故かいきなり戸を閉めてしまった藤堂さんは勢いよく私の方に振り返ると、相変わらず真っ赤な顔で私に告げた。


「こんな可愛い笑顔 皆に振りまいちゃダメだよ!?薫ちゃん!」

「えっ!?」


 当惑する中、都合の好い私の耳は一つの単語を拾い上げて、一気に顔が茹で蛸状態になった。だって、冗談でもお世辞でも嬉しい。

(かっ‥“可愛い”って‥!“可愛い”って‥!?)


 火照る頬を手で押さえて、阿呆みたいにその言葉を頭の中で繰り返していると、強い力で抱き寄せられた。


「可愛い! かーわーいーぃ!」


 思考回路、停止。

 突然の出来事に思考なんて作動するわけがない。

(だだだだだ抱ぁーっ!?)

 困惑して全く機能しなくなった頭。むしろ藤堂さんで頭がいっぱいになってしまっ‥──なんて馬鹿な事を考えていたら、頭上で空気を切るような不穏な音がした。


ゴンッ
スパァァンッ

「たわけ!!!」
「こんの馬鹿へーっ!!」

「ゔっ‥!?」


 きつく抱き締める温かい腕の戒めが解かれたかと思うと──愛しい人は空を舞った。

(えぇーっ!!?)


「店の中で何やってんじゃい!!」
「暴走してんじゃねぇー!!」


 お祖母ちゃんの鉄拳と永倉さんのハリセンを食らって、藤堂さんは撃沈した。
 手加減一切無し!?




「ほら、出ておいき!」

「えっ‥でも、皆さんいらしたばかりで‥」


 鼻息荒くいきなり言い捨てられた退室命令に少し口答えしようとしたら、お祖母ちゃんにいきなり指を差された。


「あ・ん・た・も、この“迷惑な客”を“追い出しに行く”の」


 ポカンと一瞬呆気にとられた後、数秒置いて、あぁ、と お祖母ちゃんの意図する事を知る。納得すると、永倉さんに目配せをし、接客用の前掛けを外して卓の上に置いた。


「ありがとうお祖母ちゃん! 行ってきます!」




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