《第六輪》



どっちも本当なんだ

君と共に生きていきたい、と思う気持ちと

信念に命を差し出してもいいと思う気持ち


どちらも捨てられないのに
共存も出来ないから

だから
こんなにも苦しいのかな








《花、時々キミ/第六輪》








 燦々と太陽が若葉を照らす。力強く根を張り、葉を天へと伸ばす白百合は、どうしてだろう、途轍もなく愛おしい。


「“純”も大きくなりましたね」


 命名、“純”。
 名付け親、俺。

 純粋の“純”。
 純白の“純”。


 その名の通り、真っ白な花が無事咲きますようにと願いを込めて。


「最初“シロ”にするとか言うから驚きましたよ」


 そう、『それじゃまるで犬じゃないですか!』とのダメ出しがあったのだ。
 名付けの才能の無さに感服。


「純~。早く花咲かせろよ~」


 そう言って若葉に触れようと手を伸ばした、その時だった。




「藤堂さん、腕どうしたんですか?」


 言われた瞬間、ドキリ。
 着物の袖が隠してくれるだろうと油断していたから。──どうして君には全てバレてしまうのか。


「包帯‥。怪我したんですか?」

「あっ、いや、うんっ、稽古でちょっとへましてね」


 日常茶飯事だから、大丈夫大丈夫、と笑って誤魔化すと 薫ちゃんの表情が曇った。
 ゆっくりと顔が近付いてきたと思うと、そっと優しい手が頬に触れてきた。


「この、額の傷も‥‥“日常茶飯事”ですか‥?」


 きっと以前から気にしていたのだろう。ずっと話題に触れようとしなかったけれど、今は真っ直ぐ 俺の額を見ている。

 痛ましい程悲しそうな表情の薫ちゃんを見ると、言葉が失われた。
 額まで移ろうとしている薫ちゃんの手を、俺はただぼうっと見ていた。


「嫌だな‥‥、男の人はいつも無茶をする‥」


 額に触れようとするのを止め、薫ちゃんは手を胸の前で握った。


 下がっている眉が彼女の気持ちを物語っていて、思わず俺は彼女の髪を撫でつけた。


「男は、意地で生きているようなもんだからさ」

「‥‥命を投げ出す程のものですか」


 彼女らしくない程の低い声色に、少し怯んだ。──でも、ここは譲れない“意地”だから。



「‥そう。命を掛けても惜しくない程」

「‥‥っ」


 言葉を飲み込んだ彼女に、少し微笑む。ありがとう。こんなにも、俺のことを想ってくれて。
 感謝と同時に、罪悪感も生まれることを感じた。


「──命よりも大切なものだって、あるんだ」

「そんなの‥っ「あるんだよ」」


 言われる前に言葉を塞ぐ。狡い方法。
 弱いからだ、と分かっている。弱いから、彼女の言葉を聞いて 揺らいでしまうことが怖いから。

 それでも、揺らがせたくない想いが、ある。


「‥だってね」


 どうしてだろうね。俺自身、何度も自分に問いかけ続けてきた。
 けれど、行き着く答えは、実に簡潔的で。答えとしてはあまりに簡潔すぎるかもしれないけれど、でも、それしかないから これが答えなんだと自分に言い聞かせるんだ。




「だって俺は、武士、だから」





 たった二文字が、俺の前に突き付けられる。




1/2ページ
スキ