《第五輪》
「いいなぁ、薫ちゃん。良い名前! 俺なんてなんか優男な名前だからさぁ」
「えっ? すごく素敵な名前じゃないですか」
「どこがー!?」
もっと男らしくて格好良い名前が良かったよ、と愚痴を零すと、薫ちゃんはさっき書いた俺の名前に視線を移した。
「素敵じゃないですか。
“平らに 人を助ける”
藤堂さんにぴったりの名前です」
ね。と 首を傾けて笑いかける薫ちゃん。きっと俺は今、鳩が豆鉄砲食らったような顔してる。
(だって、思いもしなかったんだ)
俺の存在をこの世界に確かなものとする標号が、そんなに優しいものだったなんて。
「藤堂さんのご両親は きっと、そんな人になって欲しいと願って名付けたんでしょうね」
素敵。と、微笑む君に、返せる言葉がない。
どうしよう。こんなにも君は俺に欲しい言葉全てをくれるんだ。
(君が、大切なんだ)
再認識する。
(君が、好きだ)
「あっ、平助の“平”は“平和”の“平”でもありますね! “平和を助ける人”。これも藤堂さんらしくて素敵」
ねぇ、名前が大切だっていう意味が、よく分かったよ。
君が俺の名を呼ぶ度、幸せになれるんだ。
此処に居て良いんだって、思えるんだ。
俺の存在の 証なんだ。
今日、この世界に命を始動させた新芽がある。
「薫ちゃん。俺、こいつに名前、付けてみようかな」
刀を振るって生きてきた俺にも、生命の息吹に携われることが分かったから。
「是非!お願いします」
この“名前”を持つ俺は、存在を認められているのだと。人を助けられる存在なのだと、気付けたから。
(教えてくれたから)
「ありがとう、薫ちゃん」
この日の幸せと温かい感情は、花々の香りと 君の名前にそっと詰め込んで。
俺は君の名前を何度も呼ぶよ。
『──薫ちゃん』
君に出逢えたこと、感謝します。
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名前を持っているということ。それだけでも人は、その存在を認められていると感じられるのではないかと、信じています。
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