《第五輪》



全てのものは
名前を付けてもらった日に
存在を認めてもらった日に

“生きる力”をも貰うのだと

生きていて良いのだという証を貰うのだと


君は 教えてくれた








《花、時々キミ/第五輪》








 声にならない気持ちが胸を支配していた。


「~~~っ」


 声にならないのだ。言葉にも表せない。この気持ちは!


「藤堂さん?」


 少し遅れて姿を現した薫ちゃんの顔を見るや、俺のこの“気持ち”は限界値を突破。考えるより先に、彼女に抱きついていた。


「わっ、藤堂さん!?」

「~~~っ、薫ちゃん!」


 もう堪えきれません!この気持ち!



「芽が出た!!」










 そう、芽が出たのです。


「わぁ本当だ!」


 ちょこんと地面から頭を出した白百合の芽に感動して、薫ちゃんは頬を紅潮させて見入っていた。多分、俺も今同じような顔してる。


「季節考えないで植えちゃったから、一時はどうなるかと思いましたよ」


 そう言って嬉しそうに笑う薫ちゃんを見ていると、こっちまで幸せになってしまう。
 俺も再び芽の方に視線を移す。と、不思議な感情が胸いっぱいに広がった。

(──あ、れ‥?)



「なんだか我が子のように可愛いですねー、藤堂さん」

「‥う ん」

「いつ頃花が咲くんでしょうね」

「‥‥ん」

「?藤堂さん?」

「‥‥」

「え!? 藤堂さん!?」


 驚いたような薫ちゃんの声にハッとすると、頬を何かが伝うのを感じた。


「泣いてるんですか‥!?」


 頬に触れると、指先に光る雫が移った。

(本当だ、泣いてる。)

 やっと気付いた。


「‥あっ‥れー‥?」


 涙は次々と流れた。
 悲しい訳でも、苦しい訳でもないのに。何故か止まらない。

 涙を含んだ瞳に飛び込んできたのは、生命の息吹。

(──あぁ‥そうか)



「‥俺、初めてなんだ‥」


 これまで 刀を握り、それを振るうことで生きてきた。
 “何か”を奪うことで、生きてきた。

 ──‥だから


「‥モノを生み出すことなんて、初めてなんだ」


 こんな温かい感情は初めてで。こんな優しい気持ちも初めてで。
 それを思うと、自然と涙が流れた。


「‥どうしよ‥。止まんない」


 この涙も、この気持ちも。

 込み上げる涙が、溢れる感情に代わって 零れ落ちた。


 情けなく泣く俺の背中を、薫ちゃんは静かにさすってくれた。
 それは酷く優しくて、温かくて。この胸を支配している気持ちと、どこか似ていた。




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