それぞれの風
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英国を発った船般は、大海原を巡りに巡って、長い船旅の末 長崎に辿り着いた。
『‥帰って‥来たんだな』
数年振りの祖国の空気を吸って、私は今度は京都を訪ねる旅路に着いた。
長州藩領内に足を踏み入れて、間もない頃だった。
『ナイスとぅーミーちゅーじゃき。ワンダフルガール』
人込みの中を歩いていたら 突然手首を掴まれて、下手くそな英語で話し掛けられた。
坂本龍馬。だった。
彼の話によると、やはり私のこの着物が目に留まったらしく、同じ匂いを感じたとか。
『一緒に日本をウォッしんぐじゃ!』
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「でも私は“新撰組”に行くって決めてたから‥丁寧に断っちゃった」
ちりん、とまた風鈴が鳴る。
---おーのー!!それは残念ぜよ。‥でも新撰組とは なかなか‥。
‥そうじゃ!それならちくと頼みがあるぜよ----
「‥龍馬さんがね」
---新撰組に市村鉄之助っちゅうボーイがおるきに、早く“こっち”に来るよう言って欲しいきの---
風が止んで、静寂が戻った。
「‥迷ってるの‥?」
鉄は一瞬私の方を見て、それから俯いた。
「‥分からない」
--おまんはワシと来るべきぜよ
他の誰が見んでも、おんしだけは見とかんといけん
“PEACE MAKER”になるがじゃろ!?--------
「‥‥」
鉄は縁側に足を投げ出して、悪戯にぶらつかせた。
「‥時間が‥迫ってるよ」
「‥うん、分かってる‥」
鉄は足を止めて、勢い良く前へ飛び出した。
「でもやっぱり、まだ分からないんだ。‥だから今は、とことん考えてみる!」
その、明日への希望で満ちた瞳が 眩しかった。
「うん‥。頑張れ」
へへへ、と鉄は少し照れるように笑った。
「春華ってなんか姉ちゃんみてぇ!」
「えぇ?」
「ははっ、おやすみ!」
大きく手を振りつつ、鉄は走り去っていった。私が お休み、と返した時には、もう既にその後ろ姿は小さくなっていた。
静かに立ち上がって、ふと、さっきまでは凛と鳴り響いていた風鈴に目を遣るが、既に風は無く、もうぴくりとも動かなかった。
「‥時間が‥迫ってる」
それぞれの身に
それぞれの風が吹き付ける
それは
追い風になるのか
それとも
向かい風になるのか
それは
これから その人が選ぶ
道 次第。
『それぞれの風』-終