それぞれの風
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色んな人と
色んな場所で
一つの時代に出逢う
それは“今”まで
何千年も繰り返されてきた
一つの“奇跡”
そんな一つの
素敵な“奇跡”を感じつつ
更に
出逢った人々全員の
沢山の“幸せ”を願うのは
贅沢でしょうか
《それぞれの風》
美しくて、儚い。
これが“彼”の第一印象。
「可愛いお客さんですね、山崎さん」
彼は陽気に、ふんわりとした口調で話した。ついさっきは刀を振るっていたから、そのギャップで とても心地良い声に安心した。
「見事ですね、沖田さん。
‥この方は近藤局長と土方副長の客人で‥」
“沖田さん”に気を取られていたら、烝が私に話を振ってきている事に気付くのが少し遅れてしまった。
「あっ、は初めまして‥!相内春華と申します!」
慌てて頭を下げて、そのままの勢いで顔を上げると、優しい瞳と再び目が合った。
「春華さん、ですか。お名前も可愛いんですね!
初めまして、私は沖田総司と申します」
この時私に向けられた笑顔が、彼の全てを語っていたような気がする。
温かくて、柔らかい。穏やかな 彼。
「あ、そうだ。山崎サン、さっき松本先生が見えていたようですよ。
そうそう、今回のお土産は子豚だそうです」
沖田さんがそう言うと、何処から入り込んだのか 小さな豚が沖田さんのお腹に突進してきた。
「ごふっ‥。
‥おや、サイゾー」
飼い豚なのだろうか。沖田さんは攻撃を喰らったお腹を押さえつつ、その豚のことを“サイゾー”と呼んだ。
心なしかサイゾーは小さく震えているように見えた。
「早めにお師匠さんの所へ行った方が良いんじゃないですか?」
「そう‥なんですが」
烝はちらりと私の方を横目で見た。その様子から、私に遠慮しているのだという事が伺えた。
「もう全部案内してもらったし、私は大丈夫。何か用があるんだよね? 後は平気だから行ってきて」
「そうか‥?」
「うん」
少し申し訳なさそうな表情をしつつ、烝は沖田さんに軽く会釈をしてから駆けていった。遠ざかる烝の背を見送っていると、微かに着物の裾が引っ張られるのを感じて、視線を落としてみた。
「ブキキ、ブキ」
ピンクの 可愛らしい‥‥ とは掛け離れているけど、何所か憎めない顔の豚・サイゾーが裾を引っ張っていた。
「こらこら、サイゾー」
そう言って沖田さんはサイゾーをひょいと持ち上げた。
「珍しい着物だから気になるんでしょうね」
沖田さん自身も気になっているのか、私の着物を上から下までまじまじと見ている。
「あ、えっと、これは つい先日英国の留学から帰ってきたので‥着物の調達を向こうでしたら こんなのしかなかったんです」
本当にこれは失敗だったと思う。
「外国に留学してたんですか!?」
「はい。西洋の医学を学びに。それで、これからこちらで働かせて頂くことになりました」
宜しくお願いします、と言いながら これで二度目になるお辞儀をすると、沖田さんはまた優しい笑顔を向けてくれた。
「こちらこそ、これから宜しくお願いしますね、春華さん」
むしろお世話になるのはワタシ達の方でしょうし、と言って笑う沖田さんの笑顔が、眩しかった。
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