残されるモノ
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秋風‥というより、冬風に近いけれど、それが身に吹き付ける度に肌が寒い。
「何見てるんですか?沖田さん」
「あぁ、コレですか?」
沖田さんは開いていた本を一旦閉じて、表紙を見せてくれた。
それは、誰かの手記のような物。
「豊 玉‥発句集?」
「えぇ。ふふふ、身の安全の為にもう作者は誰か明かせないですけどね」
「?はあ‥」
作者不明の句集には、とても素直な俳句が並んでいた。
「俳句とかって、作る人の人柄が出ますよね」
「ええ」
「この俳句の作者は‥どんな人なんですか?」
そうですねぇー、と言って沖田さんは少し空を見つめた。
「春華さんはどんな人だと思います?」
「ええ?」
逆に訊かれるとは思っていなかった。
「えーっと‥、取り敢えず‥純粋な感じ?」
ぶっ、と隣で沖田さんが吹き出した。
「え、違いましたか?」
「い、いえ、大丈夫です。続けて下さい」
笑いを堪えてきりっとした表情を装っているけれど、口の端が笑っていた。
そんな様子に、こっちが笑ってしまいそうになる。
「あとは‥‥、なんか 照れ屋な感じですかね」
沖田さんはとうとう大笑いし始めた。
一体この俳句は誰が書いたのだろう。
「この句集、誰が作ったのか知りませんけど‥後の世まで残ると良いですね」
「ええ?」
「こんなに想いが込められてるんですもの」
沖田さんはもう一度視線を『豊玉発句集』に移した。
「想い‥ですか?」
「ええ。凄く想いがつまってる」
一句一句。一語一語に、その人の想いを感じられた。
「人の想いって、何十年も 何百年も残ると思うんです」
「何百年も?」
「ええ。ほら、例えば 百人一首とか」
数百年の年月を経ても尚、今の世に残されている。
それは、言葉を紡いだ人々の 大切な想いが『今』迄伝わったから。
「人の強い“想い”は残されると思うんです」
そしてそれは、詩歌だけじゃない。
絵画や音楽、信念や‥‥
『新撰組』だって きっと‥‥―――
そんな願いと微かな不安は口に出される事無く。私はそれを静かに受け入れた。
「想いは年月を経て‥ですか」
「ええ。私がそう思ってるだけですけどね」
そう言って自嘲すると、沖田さんは微笑んだ。
「名前とかも残りますかね?」
「名前、ですか?」
形の無いモノも残るのだから、名前だって例外じゃない筈だ。
「残るんじゃないでしょうか?」
「ふふ、残ると良いなー‥」
そう言って沖田さんは空を見上げた。
「‥‥それって、もしかして近藤さんとか土方さんの事考えてます?」
「あれ、わかります?」
本当にもう、この人は。
自分の事をなおざりにして、いつだって人の事ばかり。
本当に‥――
「‥お人好しだなぁ‥」
「え?」
「いえ。
‥大丈夫ですよ、土方さんは。きっと『鬼の副長』としていつまでも語り継がれますよ」
あはは、と穏やかに笑う。そんな沖田さんの隣が心地よくて。
私は暫く瞳を閉じてみた。
貴方の名だって、きっと‥ね―――
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