狂い咲き
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
どれくらいの時間そうしていただろうか。幾ばかりか泣いた後、藤堂さんの方から私を離した。
「‥‥あーあ‥、こんなに目ぇ腫らしちゃって」
そう言って藤堂さんは、優しく私の涙の痕を拭ってくれた。
「藤堂さんだって‥」
「もう‥ 何泣いちゃってんだろね、俺も、君も‥。初対面の相手に向かってさ」
「時間なんて‥関係ないじゃないですか」
「おっ、キザな事言ってくれるねぇ」
「もうっ」
少しだけ‥
少しだけだけれど‥藤堂さんは、本当の笑顔を見せてくれたようだった。
これが本来の藤堂さんの笑顔‥。
それでも、やはりどこか闇があるのだ。
時代の‥せいで‥
「‥そろそろ‥帰らなきゃな、俺の“家”に」
何故自分はこの時代に生まれてきたのか
何の為に、この時代を生きるのか
この時代を駆ける人々には、何一つ
何一つ分からなくて
只只、自分の定義を探し求め
足掻き 彷徨い もがきながら
只只
新しい時代を 待ち望んでいた
「―――っ藤堂さん!!」
去り行こうとする藤堂さんの背に、声を絞り出して その名を呼び掛けた。
「‥‥何? 春華ちゃん」
藤堂さんは振り返らずに応えた。
桜が咲き乱れる。
時を違えて狂い咲き、酷く美しく 酷く悲しく舞い散って行く
「‥‥新しい‥時代が、‥来ます‥」
「‥‥‥」
「すぐ‥っ、すぐ‥そこまで‥来ています‥」
どうか
「今度は‥‥間違えないで下さい‥」
どうか
「一度狂い咲いた桜だって 春の日の光で、元に戻れるんです‥‥っ」
どうか 光を失わないで
せめても、一雫の希望を――――
「‥‥うん‥」
消え入るような声が聞こえた。
「‥うん‥‥」
光を‥
「‥じゃあね、春華ちゃん。‥また。」
「えぇ、また。」
私達は意図的に『また』という言葉を使った。
絶対に 再び逢おうという誓いと、願い、祈りを 込めて。
桜が舞う
桜が散る
時代という風に吹かれて
その風を止める術など知らない
だから
春よ 教えて
その術を
咲く時を
どうか
崩れた世界に安寧を
狂い咲く桜に光を
たった一雫だけでも良いから
《狂い咲き》-終