強い、ということ
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今まで 考えた事がなかった
考える必要がなかった
人の強さというもの
無関係で生きてきた私には
“刀”というのは“力”の象徴であって
只只、“強い”という認識だけが
先走りしていた
《強い、という事》
只純粋に、そう思ったんだ。
只、純粋に。
「御用‥ですか?」
「ええ、御用改め」
まだ暑さが留まっていつつ、風が仄かに秋の気配を運んで来た頃だった。
「長州藩藩士が一騒動企てようと集会をしているという商屋が割れたので」
「そう‥ですか」
御用改め、という事は 普段の巡回なんて比じゃないぐらい 危険だという事。
「‥‥」
いくら最近調子が良いからと言って、心配が無い訳ではない。
「春華さん?」
十中八九、刀を交える事になるのだ。危なくない筈がない。
「春華さん、大丈夫‥ですよ?」
「‥‥」
血を流す事だって十分にあり得るのだ。
「‥嫌‥だな‥」
「春華‥さん?」
私も側に居たい
「‥私も‥烝みたいに戦闘技術があったら、その場に行けるのに‥」
貴方の側に
「‥‥そんな必要、無いですよ」
「え?」
「貴女が戦場に出るなんて危険な事、する必要が無いです」
「‥‥」
「生きるか死ぬか、殺さなきゃ殺される。そんな血生臭い場に、来なくて良いんです」
「でも‥」
沖田さんが私の身を思ってくれている事は分かっている、けれど。
「沖田さんが思ってくれているぐらい、私だって皆の事・沖田さんの事が心配なんですよ‥」
「‥‥」
「危なくなったら助けられるし、傷を負ったら対応出来る‥のに‥」
“刀”は“力”
人が傷付くのを事前に防げる方法。
それは憧れにも似た感情だった。
「それでも、貴女は来ちゃいけない‥。ただ私達がちゃんと“此処”に帰ってくれば済む話です」
「‥‥必ず無傷だなんて保証、何処にも無いじゃないですか‥」
ただ 歯痒かった。
医者である私は、皆についていく事すら出来ない。
皆が、大切な人が、傷付いて帰ってくるのを待っている事しか出来ない。
歯痒くて、もどかしくて‥
そんな気持ちを分かって欲しくて、ただの我が儘のように、沖田さんにぶつけてしまった。
「‥‥」
「‥‥」
お互い睨み合う‥ までは勿論いかないけれど、目を合わせたまま離そうとしなかった。
「‥‥ねぇ、春華さん」
「‥はい?」
少しだけ沖田さんの瞳が優しくなった。
それでも尚、凛とした力強さが表に出ているけれど。
「屯所を出る時、隊の皆が『一番隊、出動する』とか『参る』とか言うでしょう?」
「?‥はい」
「『行ってきます』と言っているんです。つまりは」
「‥?」
よく意味が解せなかった。
すると沖田さんはそれに気付いたのか、いつもの笑顔で続けた。
「『行ってきます』と言った人には、必ず帰ってくるっていう責任があるんです」
「‥‥責任‥」
「ええ。そして その責任と、信念が私達を前に進める」
沖田さんの瞳は 力強い。
いつだって真っ直ぐだ。
「だから、春華さんはそれを信じて、待っていて下さい」
「‥でも」
「春華さん」
「‥‥」
「信じてくれないんですか」
「そういう意味じゃ‥」
只、心配なんだ
皆が傷付くのではないかと
「ちゃんと帰ってきます」
只、怖いんだ
もしもの時に私が間に合わなかったら と
「‥‥た‥さんの‥‥‥」
「はい?」
只、怖いんだ
大切な人を失うのが
「――っ沖田さんの馬鹿!!」
「え゙」
「バカーー!!」
「ちょっ‥」
餓鬼か私は
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