天国と地獄
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「英国‥に帰るって‥」
一番言われたくない言葉だった。
「もう分かっているだろう‥? 幕府が開国の意を決しない限り、幕府は‥‥」
――――嫌だ―――
―――やめて―――
「倒れる」
分かってる分かってる分かってる‥!
そんな事、痛いぐらい 分かってる。
でも‥
「幕府が倒れれば、自ずと‥」
「やめて!!!!」
―――聞きたくない――
目の前が真っ暗になった。
分かってる、幕府がもう保たない事ぐらい。
そうなると 何処にどう皺寄せがくるのかも分かってる。
分かってるよ。
でも、‥‥引けない
義務とか責任感とかなんかじゃない
この道は
この運命は、未来は
私が 私自身が選んだ事
たとえその結果どんな終末を迎えようとも
後悔なんてしない
決めたんだ
皆と運命を共にすると
分かってる
でも 引く事は私自身が許さない
この手に光が戻った。
ああ、だって‥
皆の笑顔が
そうだ、
私はこの人達を
「守‥りたい」
「え‥?」
いや、違う
「共に‥在りた‥い‥」
私の居場所はあそこだと思ったから
「春華‥」
「ご免なさい‥父さん‥」
でも
「私一人、皆を置いて逃げる事は出来ない」
もう出逢ってしまった
「大切な人を置いて行く事なんて出来ない」
父は私の方を真っ直ぐに見、私もまた 真っ直ぐに父を見た。
「ご免なさい‥。私は、帰れない‥」
「春華‥」
「ちゃんと分かってるよ、父さんが私の事を思って言ってくれてる事は‥。でも‥!」
「春華。聞きなさい」
いつの間にか逸らしていた視線を戻すと、父は笑っていた。
優しいけれど、悲しそうな笑み。自分がそうさせているんだと思うと、胸が痛んだ。
「春華、‥無理にとは‥言わない」
「父さん‥」
「“道”は、自分で決めるものだから
‥‥もう、決めたんだろう‥?」
「‥‥うん。‥‥‥決めた」
引く事は、私自身が許さない。
「‥分かった。‥‥でもね、‥でも‥」
父の目が、揺らいだ。
私がそれを見るのは 生まれて二度目だった。
「嫌な‥予感が、するんだ。」
初めて見たのは、母の臨終。
「胸騒ぎが‥するんだよ‥」
ご免なさい
ご免なさい
親不孝で、本当に‥ご免‥‥――――
「春華‥、たとえ、行き着く先が‥」
父の言葉を耳で聞くのと同時に、視界の端に 浅葱の色を捕らえた。
「行き着く先が‥この世の地獄だとしても‥‥、進むんだね」
浅葱の色は、まだ遠い。
けれど、私に決心させるには 十分だった。
「進むよ。」
彼がいない平和なんて‥
「‥大切な人が居ない天国を行くぐらいなら‥ 共に在れる、地獄を選ぶ」
地獄など、怖くない。
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