常春の華、現る
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「お久し振りです、近藤さん!」
あれから客人として迎え入れられた私は、屯所内へと通された。
久しぶりの正座に少し不安を感じつつ、二人には笑顔を向ける。
「いやぁ、立派になりすぎて一瞬誰だか分からなかったぞ、春華」
「いえいえ、そんな」
豪快に笑う近藤さんにつられて 私も思わず笑ってしまった。
「歳が驚いたのも無理は無いな」
「‥‥」
強い視線に気付いて顔を上げてみると、土方さんが無言で私の方を見ていた。ばったり目が合っても、逸らそうとしない。
「どうした?歳」
「‥いや‥」
そう言うと、土方さんは煙管を口にくわえて 蒸かし始めた。
「こんなに美人になるんだったら 先に唾付けときゃ良かったな、と」
「‥歳‥」
相変わらずな土方さんを見て、私は笑いを堪えきれなかった。
「‥そういやお前、“こっち”に帰って来たっていうことは、留学の件は‥‥」
蒸かしていた煙管を口から離しながら、土方さんが訊いてきた。先を促すような目を向けられて、私は笑顔で返した。
「終わりました。ばっちり盗んできましたよ。医療技術」
土方さんが手に持っていた煙管がポロリと落ちそうになって、私はすかさずそれを受け止めた。
「お、落としましたよ?」
それでも二人は変わらず放心状態。私は堪らなくなって話を切り出した。
「あ‥あの‥?」
すると近藤さんが先に口を開いた。
「‥西洋の医学は 会得するのに少なくとも二十歳まではかかると言っていなかったか‥?」
そういえば父がそんな事を言っていたような気がする。
「ああ、‥でも覚えちゃいました。あははは」
二人は再び、鳩が豆鉄砲喰らったような顔をした。
気を取り直したのか、土方さんは私の手から煙管を受け取り、一服吸って 吐いた。
「‥で、手ぇ貸してくれんのか?春華」
土方さんは私の方を見て、ニヤリと笑った。前にも増して 板に付いた、悪巧みを思いついたような笑み。
それに負けじと、私も悪戯っぽく笑ってみせた。
「何の為に“こっち”に帰ってきたとでも?」
お互い見つめ合い、そしてどちらからともなく笑い出した。くっくっと少し抑え目な土方さんの笑いと、豪快な近藤さんの笑い。どちらも懐かしくて、胸が熱くなった。
それから暫く笑った後、土方さんは手を差し出して、こう言った。
「“新撰組”は、春華を歓迎する」
この時から、運命は決まっていたのかも知れない。
でも、私は この手を取った事を、決して後悔しない。
『常春の華、現る』-終