生まれ出づる意味
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見事な月の下、私と沖田さんは縁側に腰掛けた。背からはまだ賑やかな声が聞こえてくる。
「皆本来の目的忘れてますよね」
「はは、宴なんてそんなものですよ」
佐之さんが切腹未遂事件の話を終えたのが聞こえた。
「一応祝ってくれてるには変わり無いですし」
「まぁ、そうなんですけどね」
もうすぐ日付が変わろうとしている。
「あっ」
「? どうかしました?春華さん」
思わず声が出ていた事に少し恥ずかしくなり、私は口を手で押さえた。
「えーっと‥、大したことじゃないんですけど‥」
「どうぞどうぞ」
それじゃあ、と切り出して、私は言葉を繋いだ。
「沖田さんは‥知っています?生誕日の前日にやる事」
「生誕日の前日?」
沖田さんは少し頭を捻って考えて、それからすぐに答えた。
「知らないですね。何かやるものなんですか?」
そう、素敵なジンクスがあるそうだ。あれは何処の国のものだったか、覚えていないけれど、私はその慣習がとても気に入っている。
沖田さんには、外国の文化だということは伏せておこう。
「生誕日前日はですね、これまで支えてきてくれた周りの人に、感謝の気持ちを伝える日なんだそうです」
「へぇー」
「親とか、友達とか、恩人とか」
すると沖田さんは擽ったそうに笑った。
「それなら、私は沢山の人達にお礼を言わないとですね」
「えぇ?」
「幼いとき、私に“力”の意味を与えてくれた土方さんに。兄弟のように助けてくれた近藤さんに。それと、いつも支えてくれている隊の皆に」
沖田さんは目を瞑って言った。きっとその瞳の裏に、皆の事を 大切に大切に映しているんだろう。
「あれ、私には無いんですか?」
そうふざけて言ってみると、沖田さんの眼が私を捕らえた。
酷く澄んだ 真っ直ぐな眼差しに、動けなくなる。
「春華さんは、"私に出逢ってくれてありがとう”です」
「え‥?」
「あと 私の両親には、"春華さんと出逢う為に私を産んでくれてありがとう”です」
沖田さんは語尾にハートマークでも付きそうな口調で言ってのけた。
顔から火が出るのではないかと思った。
そんな事を言うなんて‥反則ですよ、沖田さん。
まあるい まあるい月だけが見ていた。
「好きですよ。春華さん」
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