生まれ出づる意味
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そんなどうでもいい事は置いておくとして、私は本当に頭を悩ませた。
生誕日
おめでたい日
お祝い
贈り物?
いや、時間がない。無理。
「あ゙ーっもう!!」
「ど、どうしたんだ?」
いきなり唸った私に驚いたのか、鉄はビクッと肩を震わせた。
「‥鉄は知ってた? 沖田さんの生誕日」
「あ、あぁ。明日だろ?」
鉄ですら知ってたのに‥。
「あー‥っと、もしかして‥知らなかったのか‥?」
「‥うるさい」
そんな風に鉄に八つ当たりしているうちに、回診の時間になってしまった。
回診中、頭の中はお祝いについて考えるので一杯で、何度も烝に叱られた。
患者である平隊士の人には気を使わせる始末で、これじゃあ医者失格どころか もう人間失格だ。
「相内、元気だせよ! 今夜は宴会だし、な!」
いや、それのせいでもあるんですけどね。
「はぁ‥。お大事に‥」
日は確実に沈んでいった。
「時は金なり」
「は?」
「間違えた、“光陰矢の如し”だ」
溜め息をつきながら烝と診察室を片付け、重い足取りで広間へと向かった。
広間に着くともう殆どの人が席に着いていて、上座の方に沖田さんが座っていた。
その横には座が一人分きっちりと空いていて、沖田さんは私の姿を見捉えると 笑顔で手招きをした。
私は観念して、示された通り いそいそと座へ向かった。
「よし、野郎共 皆揃ったな!」
佐之さんの豪快な前振り演説と腹踊りの末、宴会は始められた。
「‥沖田さん、結構飲んでません?」
「えぇ? 私お酒苦手ですのに」
そう言いながら、その手のお猪口は一体何回空になっただろう。
「ほら、春華さんのお酌だと酒が進んじゃって」
「はいはい」
最近になって 沖田さんのおちゃらけを受け流す術を身に付けた。
「じゃあもう注ぎませんからね、下戸の人には」
「えーっ」
やっぱり少しは酔っているのか、沖田さんはいつもに増して 終始陽気だった。
「‥それにしても、皆見事に酔ってますね」
「えぇ」
佐之さんは再び着物を上半分脱いで皆に腹の傷を見せ、切腹し損なった時の話を大声でしているし、辰之助さんに限っては 空き瓶十数本を並べながら、辺りの隊士に鉄の愚痴をこぼしまくっていた。
そして、当の本人はいつの間にお酒を飲まされたのか 大の字で寝ている。
「‥明日は診察室に二日酔い共が殺到しそうな予感です」
「あはは」
まぁ、確かに明日の事は思いやられるけれど、普段は死と隣り合わせで生きている皆だから、こんな日ぐらい好きにやらせてあげても良いだろうと思った。
「春華さんは一滴も飲まないんですか?」
薄く火照った顔の沖田さんが、まだまだありますよ?という顔で覗き込んできた。
「えーっと、ほら、一人ぐらい素面な人がいないと」
医者が二日酔いじゃ示しがつかない、と笑って言い加えると、沖田さんも笑った。
「じゃあ私も酔いを覚ましてきましょうかね。一緒にどうです?月下の夕涼み」
沖田さんはそう言って縁側を示した。
暗い屋外を、煌々とした月が照らしていた。
「良いですね、お供しましょう」
時は子の刻を告げようとしていた。
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