共に歩む道
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翌日、天気はお誂え向きの快晴だった。
土方さんの指示で、隊士の人達は素早く動いてくれて、割と円滑に事は進められた。
「えっと、次の方。‥って、烝だね」
「俺か? 最後に回してええのに」
「だってあと三人だけなんだもの。土方さんは全員済ませてからで良いって言うし、沖田さんは何故か姿現さないし‥」
「‥ ‥‥じゃあ、頼むわ」
「うん」
流石は隊医。何処にも異常は見当たらなかった。
「よし、異常無し。至って健康だね。まるで佐之さんみたいに」
「やめてくれ‥」
「ははっ」
佐之さんはカルテ通り至って健康だったし、永倉さんの精神面は大分穏やかになったよう。
鉄の成長痛は報告通り大変そうだけど、それは健康な証。
他の隊士は、怪我人が多く居るけれど、これからの処置でなんとかなりそう。病気は‥少し難しいけれど。
「前回のカルテより悪くなってる人があんまり居なくて‥少し安心した」
「あぁ」
特設のお風呂みたいな物があったから、衛生面に気を配るようになって 回復しやすくなったのかもしれない。
それでも、医療の器具などの面においては、まだまだ日本は未発展だ。
「早く‥開化すると良いな‥」
「?」
失礼します、と声が掛かって 開かれた襖の先には 沖田さんが立っていた。
「あ、沖田さん! 遅刻ですよ?」
「ああ、ごめんなさい」
沖田さんが力無く笑むと、烝が口を開いた。
「沖田さん‥」
すると、沖田さんは更に力無く笑った。
「大丈夫‥‥ですよ」
烝は眉間に皺を寄せ、視線を落とした。
私に、この二人の交信の意味は分からない。
「えっと‥じゃあ、まずは目を見せて下さい。それから 喉を」
「‥‥はい」
目眩が した。
「‥‥か‥ぜ‥です、かね」
「‥‥‥えぇ」
「薬‥調合するんで、飲んで下さい、ね」
特効薬は 未だ見つかって、いない
私は、沖田さんの『闇』を知ってしまった。
私は土方さんの検診を終えると、ただ闇雲に部屋から走り出した。
「春華!!!」
烝の呼び止める声も、聞こえないフリをした。
「‥‥はっ‥はぁ‥っ」
だだっ広い境内を横切って、裏の方に回り込むと、足に力が入らなくなって 私はその場に崩れた。
「っ‥‥」
まさか、彼が。
私には―――医者の私には――― 彼の病状の進行が 手に取るようにわかってしまう。
「‥嫌‥だ‥‥っ」
彼を失いたくない。
私は、自分の 医者としての運命を呪った。
『‥でもね、春華‥』
脳裏に、数年前の父の言葉が響いた。
― ― ― ― ― ― ― ― ―
「‥でもね、春華‥」
父は私の肩から手を離し、少し前へ歩み出て 先程墓前に備えた花に触れた。
ひどく、優しく。
「父さんは、医者である事を‥後悔してないよ」
「‥‥」
「だってね、少しだって‥僅かにだって‥ 確かに、彼女の力になれたから。
人はね、きっと‥何かやりたい事が出来た時に、何も出来ないのが一番辛いんだ。その時に、力がないと‥苦しいんだよ」
ただの独りよがりかもしれないけどね、と言って 父は視線を落とした。
「彼女の『最期』を知っていたからこそ、出来る事もあった。最も愛した人だったからこそ‥一番傍に居てあげられて ‥良かったと思うよ」
父は 強い眼差しで私を射抜いた。
「父さんがするのは、一つの『道』の提示だけだ。強要じゃない。選ぶのは、全てお前なのだから‥―――」
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