祖国のタカラ
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「‥‥えーっと‥、もしかして‥お金、要らないの‥?」
少年はこくりと頷いた。
そんな都合の良い話があっていいのだろうか。
「えっと‥」
「頂いちゃいましょう。きっとこれも何かの縁ですよ」
そう沖田さんは言って、狐の少年の方を向いて屈んだ。
「彼女にあげてもいいですか?」
少年はまた黙って頷いて、静かに二つの木鈴を差し出した。
「私も‥頂いて良いんですか?」
少年は首肯して、更に手を前に突き出した。
お面のせいで、少年の表情は全く分からない。けれど、特に負の感情は抱いていないようだ。
沖田さんはにっこり笑んで、少年にお礼を言った。
「良かったですね、二つも貰えましたし」
はい、と沖田さんは私の手に 赤い紐の付いたほうの木鈴を置いた。
‥ ‥カラン‥‥コロン‥
相変わらず木鈴は澄んだ音色を奏でていた。
お金を取らないで、果たして少年はやっていけるのだろうか。
狐のお面といい、一言も喋らなかった事といい、謎の多い少年だ、と思って 何となくもう一度お店の方に振り返った。
が、
「‥あ、れ‥?」
店は跡形もなく消えていた。試しに、ベタに目を擦ってみても 目に異常があるわけじゃないらしく、何も見付ける事は出来なかった。
「はは、は‥はははは‥‥」
笑顔の横を、冷や汗が伝った。
「どうかしました?春華さん」
「い、いいえ! あ、そそろそろ帰りましょうか!『後ろを顧みずに』!」
「? はぁ」
「さぁ帰りましょ!!」
私達は本当に後ろを顧みずに、前だけを見て 帰路に着いた。
今度、あの神社にお稲荷さんでも持っていこうか。
この国には ゆっくりとした時間が流れる
島国だから、と言ってしまえばそれまでだけど
他の国には無い 何かが在ると思う
此処に吹く風
此処に咲く花
此処に生きる全てのもの
此処で出逢った全ての人々
これから迎えるだろう 激動の時代を乗り越えても尚、
これらの事は、移ろい行かないで欲しいと願う
『祖国のタカラ』-終