良い所、悪い所
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気付いた時には、もう事は終わっていた。
私はさっき居た場所から一歩右の所に倒れていて、その上には沖田さんが私を庇うように覆い被さっている。
沖田さんの肩越しに、さっきまでは頭上にあった筈の看板が 地面に横たわっているのを見て、やっと自分の身に起きた事態を理解した。
「――っつ‥――」
後から押し寄せてきた驚きで 上手く声が出なかった。
「びっ‥‥っっくりしましたね」
「‥お‥き‥たさん‥!」
「怪我、無いですか?」
「無いです‥!!」
そっか、と微笑んで、沖田さんは私の上から退き 体を起こした。
「ごめんなさい‥! 私がぼうっとしてたから‥」
「え?いえいえ全然大丈夫ですよ。二人とも無事だったんですし」
ほら 私も大丈夫!と言って、沖田さんは笑って右手をぶんぶん振った。
ねぇ、貴方はこんな時でさえ そんなにも優しいの‥?
ねぇ、そんなにも笑顔で居てくれるの‥?
‥でも、これでも私は医者の端くれだから
わかるんですよ
「‥左手‥」
「え?」
「左手、見せて下さい」
「え゛」
「早く」
「‥‥」
はい‥、と渋々答えて、沖田さんは左腕をおもむろに私の方へ差し出した。
私はその袖を思い切り上までたくし上げた。
「‥打撲。」
「いやぁ、あははは」
「あははは、じゃないですよ!」
私はまだ笑う沖田さんに一括してから、看板が落ちたことで急いで店から出てきた店主に、氷水で浸した手拭いを持ってこさせた。
患部を診ると、かなり赤く腫れていた。
「流石はお医者さん。ばれちゃいましたね」
そう言って沖田さんは笑うから、私は渡された手拭いを思い切り患部に当てた。
「痛っ!」
「ほらやっぱり痛いんじゃないですか!」
何でそんなに強がるの
何でそんなに無理するの
「‥‥」
「春華さん‥?」
優しくて、強い人だけど‥――――――
「‥沖田さんの良い所は‥、優しくて 強い所だけど‥」
でも
「悪い所も、優しくて強い所です‥っ」
人の為に 自身を犠牲にする人は、いつもいつも無理をする。
「無理に微笑わないで下さい」
「‥‥」
「嫌、ですからね」
沖田さんは一瞬困った顔をして、それから笑った。それは強がりの笑顔ではなかった。
「貴女にはかないそうにありませんね」
良い所は、優しくて 強い所
悪い所も、優しくて 強い所
矛盾しているようだけれど、きっとそれは 紙一重
貴方の事、少しだけ分かった気がする
でもこれは、まだほんの一部 でしょう?
だって貴方は とても大きな人だから
貴方の事、もっと知りたい――――
『良い所、悪い所』-終