良い所、悪い所
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「此処は餡蜜が絶品なんですよ」
私と沖田さんは京都の町をぶらぶら歩いた。
沖田さん行きつけのお店や、生活に役立ちそうなお店を教えてもらいながら。
私は、隣から時折聞こえてくる咳に気を配りつつ、これを楽しんでいた。
「春華さん」
「何ですか?」
沖田さんは私の足を指差して 言った。
「足、痛くないですか?」
「え?」
「向こうじゃ草履とか履かなかったんでしょう? 久し振りで疲れてたりしませんか?」
その気遣いに驚いた。そんな事まで考えてくれていたなんて。
「全然大丈夫です!ありがとうございます」
軽くお辞儀すると、沖田さんは少し寂しそうに笑った。
「なんだかよそよそしいですよー? もっと楽に構えて下さい」
「え?」
「敬語とか」
「沖田さんもじゃないですか」
「これは私の性分ですから」
「じゃあ私だってそうです」
一瞬沈黙があって、それからどちらからともなく笑った。
「じゃあお互い様ってことで」
「そうですね」
とても優しい人。魅力のある人だと 思った。
良い所=優しい所
「‥ねぇ沖田さん?」
「はい?」
「なんか 道行く人が私のことを見ている気がするのは‥やっぱりこの着物のせいですよね」
替わりの着物が無くて、結局昨日の(例の)着物の中の襦袢を替えただけなのだ。 ‥つまり、外見は昨日の日本離れした着物のまま。
「いえいえ、きっと貴女が素敵だからですよ」
「それは無いですから」
はっきり答えた。
「やっぱり失敗だったなー‥この着物」
早めに新しいのを調達しないと、と独り言のように言っていると、沖田さんは私の髪を剥いてきた。
「髪も斬新だから目立つのかもしれませんね」
確かに。周りの女性は椿脂を使って綺麗に結い上げているのに、私は下ろしっぱなし。
「あー‥でも今更結い上げるのもなんだか気恥ずかしいですし‥、そもそも動きにくいですよね、あの髪型って」
ははは、と沖田さんは笑った。
「良いんじゃないですか? そのままでも」
「えぇ?」
「ほら、私だって土方さんだって髷にしないで好きにやってますし」
本当だ。現に沖田さんも今は髪を楽に下ろしたまま。
「自分の好きなようにすれば良いんですよ。貴女らしく在れば良い」
「そう‥ですよね!」
「でも、もしそのままじゃあ気になるって言うなら‥、そうですね――――」
ちょっと待ってて下さい、と言い残して 沖田さんはすぐ近くの何かのお店に入って行った。
「はい、コレ!」
そう言って沖田さんが見せたのは、綺麗な髪結いの紐。すっと私の後ろに回り込むと、沖田さんは手慣れた手つきで私の髪を結い上げた。
「簡単にですけど、こっちの方が目立たないでしょう」
手鏡で見てみると、とても綺麗に結い上げられていた。
「‥‥ってわざわざ買ってくださったんですか!?」
こんな高価そうな物貰えません!と解いて返そうとしたら、制されてしまった。
「今日付き合ってくれたお礼ですよ」
「でも‥!」
「ほら、男が女性に贈り物をしているんですから、恥をかかせちゃいけませんよ」
「ぅ‥」
ね、と沖田さんは首を少し傾けて笑った。
なんだかそんな事をされてはかなわない。
「‥分かりました。大事に使わせてもらいます」
「よしよし」
本当にこの人にはかないそうにない。
「さ、そろそろ戻りましょうか」
「そうですね」
この時、私は気付いていなかった。
自分の頭上の看板が、不安定にぐら付いている事に。
ガタッ‥
「‥!!!―――春華さ‥――っ!!!!」
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