Chris Redfield
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
温もりはまだ消えない|前編
カウンターの向こうでグラスを拭くナマエの手元を、今夜も目で追っていた。
この町に来てからの数週間、ほぼ毎晩のように足を運んだ小さなバー。
任務で張り詰めた神経を解きほぐすためというのもあったが、気づけば俺は、この場所そのものよりも彼女に会うために来ていた。
***
「いらっしゃいませ」
ナマエに初めて会った日のことを鮮明に覚えている。
美味い酒を一杯飲みたくて町の通りを夜遅くに歩いていた俺は、明かりが灯った小さな店の前で足を止めた。
ちょうどゴミを出しに現れた彼女と鉢合わせになった。
頬を撫でる夜風に髪を揺らしながら、彼女は少し首をかしげて問いかけてきた。
「……この辺りは初めてですか?」
「…ああ。軽く酒が飲める場所を探していてな」
「そうなんですね。よかったら、これ」
差し出されたのはその店のメニュー。
「読み終わったらこの辺りにでも置いていってくださいね」
そう言ってすぐ店に戻る彼女。俺に気を遣わせないように添えられた一言と、ふっと咲く笑顔が印象に残った。
メニューを見る。内容に申し分ない。
俺は店のドアを開けた。
「あ!よかった。来てくれた」
また朗らかな笑顔。
ボックス席が3つとカウンター席が8つの、小さいが居心地の良さそうな店だ。ボックス席では1組のカップルが酒と食事を楽しんでいる。どうぞ、とカウンター席へと通された。
「小さな町でしょう?」
「そうだな。だが活気がある」
「…ただこの時間を過ぎるとほとんど人も来なくなるから、早く店を閉める日も多いの。でも今日は開けていてよかった!あなたが来てくれたから」
「ここは……きみの、」
「ナマエよ」
「ナマエの店なのか?」
「ええ、そうよ。細々だけどなんとかやってるわ」
そう言いながら、チーズとナッツを皿に出して俺の前に置いた。
「これは私から。初めましての挨拶がわり」
「!……悪いな。頂くよ」
「うふふ。ごゆっくり」
その笑顔に、胸の奥が少し温かくなった。
***
次に店を訪れたのは3日後。
雨の夜だった。
肩を濡らしながら店のドアをくぐると、中には俺以外の客は居なかった。彼女が言っていた通り、この遅い時間に客はほとんど来ないみたいだ。
「…あら!また会えて嬉しいわ」
「もう店を閉めるところだったか?」
「あなたなら歓迎よ。あ、でも……今日は雨のせいで人も来ないし、もうあなたでラストにしようかしら」
ナマエはそう言って俺にタオルを手渡すと、表の看板をクローズに変えていた。
「自由な営業スタイルなんだな」
「私の店だからいいのよ。…そういえば、まだお名前を聞いてなかったわね」
「クリスだ」
「クリス。今夜は貸切よ。好きなだけ飲み食いして、売り上げに貢献してよね」
小さな冗談を交える無邪気な仕草に、俺も自然と笑みがこぼれる。
「ははっ。俺に務まるかどうか……」
彼女のジョークや会話のテンポはとても心地が良い。まだしばらくナマエとの会話を楽しんでいたくて酒を追加した。
「ところでクリス、あなたは……軍人かしら?」
「!」
「ごめんなさい、詮索するような聞き方をしてしまって」
「いいんだ。
軍人か……まあ、似たようなもんだな」
仕事に関する詳しいことは一市民には言えなかった。
「にしても、どうして分かったんだ?仕事の話はしていないはずだが」
「なんとなくあなたの雰囲気でね。……私もかつて、軍人だったから」
聞けば、彼女は数年前まで軍に所属していたという。親友を失った悲しみから立ち直れずそこを去り、しばらくして憧れだった小さい店を持つために勉強を始めたのだと。
有言実行で店を開き、こうしてひとりで店を切り盛りしているのだから大したものだ。
店に俺以外がいないこともあり、彼女と深い時間まで会話を弾ませた。お互いの過去のこと。彼女の親友だった人のこと。俺の妹のこと。
気づけば俺はナマエのことをもっと知りたくなっていた。任務が終わればすぐに撤退する町だ。親密になればなるほど離れがたくなってしまうのに。
ふと時計を見る。
ここに来てすでに3時間も経っていたらしい。彼女は俺が時計に目をやったのに気づき水を入れてくれた。
「明日も仕事かしら?長く引き止めてしまってごめんなさいね」
「いや、楽しかったよ。…少しは売り上げに貢献できたか?」
「あはは!お陰様で大繁盛よ。帰らせるのが惜しいわね」
ナマエは口に手を当てて笑った。
「…また来る。明日も開いてるか?」
「あなたのために開けておくわね」
「口が上手いな」
「あら、本当のことなのに」
美味い酒がそうさせていたのかもしれないが、まだ少しナマエの傍にいたいと思った。でも明日も任務があるし、何より彼女は仕事で俺に付き合ってくれているんだ。自分にそう言い聞かせ、また来る約束をして去った。
***
それからの日々。
任務の合間を縫うように彼女の店を訪れた。
自分でも可笑しいと思うが、彼女に会う夜は少しだけ身なりに気を遣った。
俺しか客がいない日は、決まって彼女は看板を仕舞い俺の隣に腰掛ける。そして店の明かりを落としたあとは、彼女のアパートの前まで二人で歩いた。
特別な約束を交わしたわけではない。
それでも、その時間は確かに二人だけのものだった。
――もう、とっくにナマエを愛していた。
任務が終わればこの町を去らねばならない。
彼女と近づけば近づくほど別れが怖くなる。
任務をこなして少しでも早く成果を上げたい一方で、少しでも長く彼女との時間を過ごせたらと願った。
だがついに終わりが見えてしまった。
現場の緊張も増し、俺は拠点である町に帰れない日々が続いた。
ナマエは今頃どうしているだろう。
1週間以上も店に顔を出さないのは初めてかもな。
頭の片隅で考えながら、今は任務に集中せねばと自分を切り替えた。
そして、あっけなく"最後の日"は訪れた。
カウンターの向こうでグラスを拭くナマエの手元を、今夜も目で追っていた。
この町に来てからの数週間、ほぼ毎晩のように足を運んだ小さなバー。
任務で張り詰めた神経を解きほぐすためというのもあったが、気づけば俺は、この場所そのものよりも彼女に会うために来ていた。
***
「いらっしゃいませ」
ナマエに初めて会った日のことを鮮明に覚えている。
美味い酒を一杯飲みたくて町の通りを夜遅くに歩いていた俺は、明かりが灯った小さな店の前で足を止めた。
ちょうどゴミを出しに現れた彼女と鉢合わせになった。
頬を撫でる夜風に髪を揺らしながら、彼女は少し首をかしげて問いかけてきた。
「……この辺りは初めてですか?」
「…ああ。軽く酒が飲める場所を探していてな」
「そうなんですね。よかったら、これ」
差し出されたのはその店のメニュー。
「読み終わったらこの辺りにでも置いていってくださいね」
そう言ってすぐ店に戻る彼女。俺に気を遣わせないように添えられた一言と、ふっと咲く笑顔が印象に残った。
メニューを見る。内容に申し分ない。
俺は店のドアを開けた。
「あ!よかった。来てくれた」
また朗らかな笑顔。
ボックス席が3つとカウンター席が8つの、小さいが居心地の良さそうな店だ。ボックス席では1組のカップルが酒と食事を楽しんでいる。どうぞ、とカウンター席へと通された。
「小さな町でしょう?」
「そうだな。だが活気がある」
「…ただこの時間を過ぎるとほとんど人も来なくなるから、早く店を閉める日も多いの。でも今日は開けていてよかった!あなたが来てくれたから」
「ここは……きみの、」
「ナマエよ」
「ナマエの店なのか?」
「ええ、そうよ。細々だけどなんとかやってるわ」
そう言いながら、チーズとナッツを皿に出して俺の前に置いた。
「これは私から。初めましての挨拶がわり」
「!……悪いな。頂くよ」
「うふふ。ごゆっくり」
その笑顔に、胸の奥が少し温かくなった。
***
次に店を訪れたのは3日後。
雨の夜だった。
肩を濡らしながら店のドアをくぐると、中には俺以外の客は居なかった。彼女が言っていた通り、この遅い時間に客はほとんど来ないみたいだ。
「…あら!また会えて嬉しいわ」
「もう店を閉めるところだったか?」
「あなたなら歓迎よ。あ、でも……今日は雨のせいで人も来ないし、もうあなたでラストにしようかしら」
ナマエはそう言って俺にタオルを手渡すと、表の看板をクローズに変えていた。
「自由な営業スタイルなんだな」
「私の店だからいいのよ。…そういえば、まだお名前を聞いてなかったわね」
「クリスだ」
「クリス。今夜は貸切よ。好きなだけ飲み食いして、売り上げに貢献してよね」
小さな冗談を交える無邪気な仕草に、俺も自然と笑みがこぼれる。
「ははっ。俺に務まるかどうか……」
彼女のジョークや会話のテンポはとても心地が良い。まだしばらくナマエとの会話を楽しんでいたくて酒を追加した。
「ところでクリス、あなたは……軍人かしら?」
「!」
「ごめんなさい、詮索するような聞き方をしてしまって」
「いいんだ。
軍人か……まあ、似たようなもんだな」
仕事に関する詳しいことは一市民には言えなかった。
「にしても、どうして分かったんだ?仕事の話はしていないはずだが」
「なんとなくあなたの雰囲気でね。……私もかつて、軍人だったから」
聞けば、彼女は数年前まで軍に所属していたという。親友を失った悲しみから立ち直れずそこを去り、しばらくして憧れだった小さい店を持つために勉強を始めたのだと。
有言実行で店を開き、こうしてひとりで店を切り盛りしているのだから大したものだ。
店に俺以外がいないこともあり、彼女と深い時間まで会話を弾ませた。お互いの過去のこと。彼女の親友だった人のこと。俺の妹のこと。
気づけば俺はナマエのことをもっと知りたくなっていた。任務が終わればすぐに撤退する町だ。親密になればなるほど離れがたくなってしまうのに。
ふと時計を見る。
ここに来てすでに3時間も経っていたらしい。彼女は俺が時計に目をやったのに気づき水を入れてくれた。
「明日も仕事かしら?長く引き止めてしまってごめんなさいね」
「いや、楽しかったよ。…少しは売り上げに貢献できたか?」
「あはは!お陰様で大繁盛よ。帰らせるのが惜しいわね」
ナマエは口に手を当てて笑った。
「…また来る。明日も開いてるか?」
「あなたのために開けておくわね」
「口が上手いな」
「あら、本当のことなのに」
美味い酒がそうさせていたのかもしれないが、まだ少しナマエの傍にいたいと思った。でも明日も任務があるし、何より彼女は仕事で俺に付き合ってくれているんだ。自分にそう言い聞かせ、また来る約束をして去った。
***
それからの日々。
任務の合間を縫うように彼女の店を訪れた。
自分でも可笑しいと思うが、彼女に会う夜は少しだけ身なりに気を遣った。
俺しか客がいない日は、決まって彼女は看板を仕舞い俺の隣に腰掛ける。そして店の明かりを落としたあとは、彼女のアパートの前まで二人で歩いた。
特別な約束を交わしたわけではない。
それでも、その時間は確かに二人だけのものだった。
――もう、とっくにナマエを愛していた。
任務が終わればこの町を去らねばならない。
彼女と近づけば近づくほど別れが怖くなる。
任務をこなして少しでも早く成果を上げたい一方で、少しでも長く彼女との時間を過ごせたらと願った。
だがついに終わりが見えてしまった。
現場の緊張も増し、俺は拠点である町に帰れない日々が続いた。
ナマエは今頃どうしているだろう。
1週間以上も店に顔を出さないのは初めてかもな。
頭の片隅で考えながら、今は任務に集中せねばと自分を切り替えた。
そして、あっけなく"最後の日"は訪れた。
