Chris Redfield
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ミモザのブーケ
今日は結婚式に相応しく、からりと晴れた空に爽やかな風が吹く心地よい日だ。
「やっぱりこの花にしてよかった!」
そう言って笑うナマエから、クリスは目が離せない。アイボリーのエンパイアラインのドレスに身を包んだ婚約者は、息を呑むほど美しい。その手に持った花束……ミモザを中心に可憐にまとめられたブーケが、彼女によく似合っていた。
***
遡ること数ヶ月前。
久しぶりに二人の予定が揃った休日。ナマエは腕まくりをして、「さてやりますか」と呟いた。キッチンでコーヒーを淹れていたクリスは、その様子を横目に見て頬を緩めた。
ナマエの目の前のダイニングテーブルには、式場から送られてきた装花のカタログと、取り寄せた布見本、そして彼女の地元のガーデン会場の写真が広げられている。緑の芝生と白いアーチ、低い石垣の向こうに広がる青空。クリスと婚約する前から、結婚式を挙げるならそこがいいとナマエが決めていた場所だ。「私の地元だからここから少し遠いけど、この会場で結婚式を挙げたい」と言われた時、クリスが二つ返事でOKしたのはもう一年以上も前のこと。
結婚式には色々と準備が必要だ。現役エージェントのクリスは長期で出張することもあるし、しばらく前にエージェントを退いたナマエも若手育成に追われていた。その合間を縫ってドレスを選びに行ったり、料理を決めたり、招待客を調整する。そうこうしている間に、気付けば式までは残り三ヶ月となっていた。
机に広げられたたくさんのイメージ写真の中の、新郎新婦が向かい合っている一枚が目に留まる。花嫁姿のナマエを想像したクリスは、胸の奥がじんわりと温かくなった。
「装花の打ち合わせ、来週だろう?」
クリスはマグカップを置きながら隣に腰を下ろす。
「ええ。だからその前に、イメージをちゃんと決めておきたくて」
ナマエは指先で写真をなぞる。彼女の黒髪が肩を越えてさらりと落ち、顔に影を作ったが、すぐに耳へと掛け直された。その横顔は真剣そのものだ。
「私ね、花束にはミモザを入れてほしいの」
「ミモザ?黄色い、小さい花のあれか」
「そう」
クリスは少し考え込むように腕を組んだ。
「せっかくだから、もっと豪華なものでもいいんじゃないか。式だぞ。お前が主役なんだ」
ナマエはありがとうと言って笑った。
「豪華なのも素敵だけど……私が選んだドレスにもすごく合うと思うの。それに……」
言いかけて、彼女はほんの少しだけ視線を伏せる。
「それにミモザは、あなたとの思い出の花だから」
クリスは息を止めた。
――“その日”のことは、今でも鮮明に思い出せる。
***
春先の任務だった。まだ婚約どころか、互いの想いをきちんと言葉にする前のことだ。
エージェントとしての任務を終えたクリスとナマエは、郊外の小さな町で足止めを食らった。感染の疑いがある区域の封鎖が長引き、ヘリの到着は翌朝になると言われたのだ。
夕暮れ時、手配された古いホテルの裏庭を、二人で何気なく散歩した。柵の向こうでは、枝からこぼれ落ちそうなほどの無数の黄色い花が咲き誇り、辺りを柔らかく満たしていた。
「あ……ミモザ。キレイ」
ナマエは柵の向こうを見つめる。夕日を浴びたその花は、まるで光そのもののように柔らかく、静かに揺れていた。
「花言葉、知ってる?」
任務から解放され、まるで昼下がりのカフェで話しているかのようなのんびりとした声で、彼女が言った。
クリスは首を振る。
「“感謝”。それから……“秘密の恋”」
最後の言葉は、風に紛れるほど小さかった。
この頃の二人の距離はとても曖昧だった。任務では背中を預け合い、誰よりも互いを信頼していたが、それでもエージェントという立場が見えない線を引いていた。
「秘密の恋、か」
クリスもまた小さな声で、そう繰り返しただけだった。ふと視線をナマエにやると、彼女の頬に小さな擦り傷があるのに気がついた。任務の戦闘で負ったものだろう。
「傷がある。じっとしてろ」
そう言って、クリスは彼女の頬に触れた。痛みを忘れていたほどナマエにとってはどうでもいい傷だったが、それを確かめるクリスの指先を少しでも長く感じていたかった。
夕暮れ、ミモザを眺めながら、クリスは改めて思ったのだ。
ナマエにはもう傷ついてほしく無い。彼女を守る盾が必要なら、自分がそれになりたいと。
ひとつ任務が終わっても、生物災害を根絶する戦いは終わらない。明日も明後日も、きっと死と隣り合わせだ。それでも、クリスはナマエと歩む未来を望まずにはいられなかった。
「……俺は、誰よりも近くでお前を守りたい。ずっと前からそう思っているのに、こうやって触れることすら緊張するんだ」
告白というには少し不器用な言葉が、気付けば口から出ていた。
オレンジに染まる街に負けじと光る黄色を目に映し、ナマエは安心したような、あるいは泣きそうな顔で微笑んだ。
「私、十分守ってもらってるわ。……ずっと前から」
クリスは彼女を抱き寄せ、腕の中の温もりを確かめるように深呼吸をした。期待の眼差しで見上げられるが、外でこんなことをしていることにクリスはすこし気恥ずかしくなり、彼女のつるんと形の良い額にそっと唇をあてた。
「秘密の恋は終わりね」
それが、最初のキスだった。
***
「覚えてるかしら?」
現実に引き戻され、クリスはナマエの顔を見た。
「ああ。小さな町のホテルだった。ヘリが遅れた日」
ナマエは目を見開き、それから嬉しそうに笑った。
「ちゃんと覚えてたのね」
「忘れるわけないだろ?」
あの日、クリスは覚悟を決めた。バイオテロとの戦いに人生を捧げる男が、誰かの手を取る覚悟を。
「一緒に見た夕陽が綺麗で」クリスは静かに言う。「俺はこんなにも美しい世界を守ってきたんだなと、初めて誇らしく思ったんだ」
ナマエはそっとカタログを閉じ、クリスの手に自分の手を重ねた。
「じゃあミモザにしましょう?私たちの思い出の花」
「そうしよう。お前によく似合うよ」
「せっかくのドレス姿だもん。当日はしっかり見ててね」
「もちろん。むしろ目が離せないかもな」
2人はクスクスと笑い合った。
***
「クリス」
ナマエは姿見でドレスの最終チェックをしながら、少しだけ声を低くした。
「怖くない?」
「何がだ?」
「この幸せはいつまで続くんだろうって」
その言葉に、クリスは一瞬黙った。鏡越しに目が合ったナマエは、式直前の緊張感が高まってきたのか、先ほどまでよりも少し硬い表情をしている。
「怖いさ。でも……」
クリスはゆっくりと言葉を選ぶ。
「失うのが怖いから、最初から持たないという選択は、もうしない」
ナマエを抱きしめたあの日から。
「どんなに怖くても、俺はお前との未来を選ぶよ」
ナマエはドレッサーの上のブートニアを手に取り、クリスの前に立った。ミモザの花が折れてしまわないように、タキシードの襟に慎重にそれをつけた。
「ミモザの花言葉はね、」
「──秘密の恋だと言っていたな」
「そうよ。それと、"感謝"。私と居てくれてありがとう」
ブートニアを付け終え、ナマエはクリスの手を握った。
「世界を守ってくれて、ありがとう」
クリスは、自分の大切な人たちが少しでも傷付かない世界にしたいと、がむしゃらに任務をこなしてきた日々を想った。ナマエに出会えたおかげで、守ってきたものはしっかりと誰かの幸せへと続いていたことを知れた。そして「その幸せの中にはあなたも居るのだ」と、ナマエは教えてくれた。
クリスは彼女の指先へキスをした。
「さあ、本番だ。いこう」
あの日柵越しに見た黄色。二人で選び取った幸せの色は今日、ナマエの腕の中、そしてクリスの胸元で誇らしく揺れていた。
fin.
今日は結婚式に相応しく、からりと晴れた空に爽やかな風が吹く心地よい日だ。
「やっぱりこの花にしてよかった!」
そう言って笑うナマエから、クリスは目が離せない。アイボリーのエンパイアラインのドレスに身を包んだ婚約者は、息を呑むほど美しい。その手に持った花束……ミモザを中心に可憐にまとめられたブーケが、彼女によく似合っていた。
***
遡ること数ヶ月前。
久しぶりに二人の予定が揃った休日。ナマエは腕まくりをして、「さてやりますか」と呟いた。キッチンでコーヒーを淹れていたクリスは、その様子を横目に見て頬を緩めた。
ナマエの目の前のダイニングテーブルには、式場から送られてきた装花のカタログと、取り寄せた布見本、そして彼女の地元のガーデン会場の写真が広げられている。緑の芝生と白いアーチ、低い石垣の向こうに広がる青空。クリスと婚約する前から、結婚式を挙げるならそこがいいとナマエが決めていた場所だ。「私の地元だからここから少し遠いけど、この会場で結婚式を挙げたい」と言われた時、クリスが二つ返事でOKしたのはもう一年以上も前のこと。
結婚式には色々と準備が必要だ。現役エージェントのクリスは長期で出張することもあるし、しばらく前にエージェントを退いたナマエも若手育成に追われていた。その合間を縫ってドレスを選びに行ったり、料理を決めたり、招待客を調整する。そうこうしている間に、気付けば式までは残り三ヶ月となっていた。
机に広げられたたくさんのイメージ写真の中の、新郎新婦が向かい合っている一枚が目に留まる。花嫁姿のナマエを想像したクリスは、胸の奥がじんわりと温かくなった。
「装花の打ち合わせ、来週だろう?」
クリスはマグカップを置きながら隣に腰を下ろす。
「ええ。だからその前に、イメージをちゃんと決めておきたくて」
ナマエは指先で写真をなぞる。彼女の黒髪が肩を越えてさらりと落ち、顔に影を作ったが、すぐに耳へと掛け直された。その横顔は真剣そのものだ。
「私ね、花束にはミモザを入れてほしいの」
「ミモザ?黄色い、小さい花のあれか」
「そう」
クリスは少し考え込むように腕を組んだ。
「せっかくだから、もっと豪華なものでもいいんじゃないか。式だぞ。お前が主役なんだ」
ナマエはありがとうと言って笑った。
「豪華なのも素敵だけど……私が選んだドレスにもすごく合うと思うの。それに……」
言いかけて、彼女はほんの少しだけ視線を伏せる。
「それにミモザは、あなたとの思い出の花だから」
クリスは息を止めた。
――“その日”のことは、今でも鮮明に思い出せる。
***
春先の任務だった。まだ婚約どころか、互いの想いをきちんと言葉にする前のことだ。
エージェントとしての任務を終えたクリスとナマエは、郊外の小さな町で足止めを食らった。感染の疑いがある区域の封鎖が長引き、ヘリの到着は翌朝になると言われたのだ。
夕暮れ時、手配された古いホテルの裏庭を、二人で何気なく散歩した。柵の向こうでは、枝からこぼれ落ちそうなほどの無数の黄色い花が咲き誇り、辺りを柔らかく満たしていた。
「あ……ミモザ。キレイ」
ナマエは柵の向こうを見つめる。夕日を浴びたその花は、まるで光そのもののように柔らかく、静かに揺れていた。
「花言葉、知ってる?」
任務から解放され、まるで昼下がりのカフェで話しているかのようなのんびりとした声で、彼女が言った。
クリスは首を振る。
「“感謝”。それから……“秘密の恋”」
最後の言葉は、風に紛れるほど小さかった。
この頃の二人の距離はとても曖昧だった。任務では背中を預け合い、誰よりも互いを信頼していたが、それでもエージェントという立場が見えない線を引いていた。
「秘密の恋、か」
クリスもまた小さな声で、そう繰り返しただけだった。ふと視線をナマエにやると、彼女の頬に小さな擦り傷があるのに気がついた。任務の戦闘で負ったものだろう。
「傷がある。じっとしてろ」
そう言って、クリスは彼女の頬に触れた。痛みを忘れていたほどナマエにとってはどうでもいい傷だったが、それを確かめるクリスの指先を少しでも長く感じていたかった。
夕暮れ、ミモザを眺めながら、クリスは改めて思ったのだ。
ナマエにはもう傷ついてほしく無い。彼女を守る盾が必要なら、自分がそれになりたいと。
ひとつ任務が終わっても、生物災害を根絶する戦いは終わらない。明日も明後日も、きっと死と隣り合わせだ。それでも、クリスはナマエと歩む未来を望まずにはいられなかった。
「……俺は、誰よりも近くでお前を守りたい。ずっと前からそう思っているのに、こうやって触れることすら緊張するんだ」
告白というには少し不器用な言葉が、気付けば口から出ていた。
オレンジに染まる街に負けじと光る黄色を目に映し、ナマエは安心したような、あるいは泣きそうな顔で微笑んだ。
「私、十分守ってもらってるわ。……ずっと前から」
クリスは彼女を抱き寄せ、腕の中の温もりを確かめるように深呼吸をした。期待の眼差しで見上げられるが、外でこんなことをしていることにクリスはすこし気恥ずかしくなり、彼女のつるんと形の良い額にそっと唇をあてた。
「秘密の恋は終わりね」
それが、最初のキスだった。
***
「覚えてるかしら?」
現実に引き戻され、クリスはナマエの顔を見た。
「ああ。小さな町のホテルだった。ヘリが遅れた日」
ナマエは目を見開き、それから嬉しそうに笑った。
「ちゃんと覚えてたのね」
「忘れるわけないだろ?」
あの日、クリスは覚悟を決めた。バイオテロとの戦いに人生を捧げる男が、誰かの手を取る覚悟を。
「一緒に見た夕陽が綺麗で」クリスは静かに言う。「俺はこんなにも美しい世界を守ってきたんだなと、初めて誇らしく思ったんだ」
ナマエはそっとカタログを閉じ、クリスの手に自分の手を重ねた。
「じゃあミモザにしましょう?私たちの思い出の花」
「そうしよう。お前によく似合うよ」
「せっかくのドレス姿だもん。当日はしっかり見ててね」
「もちろん。むしろ目が離せないかもな」
2人はクスクスと笑い合った。
***
「クリス」
ナマエは姿見でドレスの最終チェックをしながら、少しだけ声を低くした。
「怖くない?」
「何がだ?」
「この幸せはいつまで続くんだろうって」
その言葉に、クリスは一瞬黙った。鏡越しに目が合ったナマエは、式直前の緊張感が高まってきたのか、先ほどまでよりも少し硬い表情をしている。
「怖いさ。でも……」
クリスはゆっくりと言葉を選ぶ。
「失うのが怖いから、最初から持たないという選択は、もうしない」
ナマエを抱きしめたあの日から。
「どんなに怖くても、俺はお前との未来を選ぶよ」
ナマエはドレッサーの上のブートニアを手に取り、クリスの前に立った。ミモザの花が折れてしまわないように、タキシードの襟に慎重にそれをつけた。
「ミモザの花言葉はね、」
「──秘密の恋だと言っていたな」
「そうよ。それと、"感謝"。私と居てくれてありがとう」
ブートニアを付け終え、ナマエはクリスの手を握った。
「世界を守ってくれて、ありがとう」
クリスは、自分の大切な人たちが少しでも傷付かない世界にしたいと、がむしゃらに任務をこなしてきた日々を想った。ナマエに出会えたおかげで、守ってきたものはしっかりと誰かの幸せへと続いていたことを知れた。そして「その幸せの中にはあなたも居るのだ」と、ナマエは教えてくれた。
クリスは彼女の指先へキスをした。
「さあ、本番だ。いこう」
あの日柵越しに見た黄色。二人で選び取った幸せの色は今日、ナマエの腕の中、そしてクリスの胸元で誇らしく揺れていた。
fin.
