Chris Redfield
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Good Night, My Sweetie.
原因のわからない高熱が、もう数日間続いていた。ソファに横になりながらテレビを眺めても、頭痛が響いて内容はまったく入ってこない。何か胃に入れても胸焼けがするだけ。横になっているのが一番楽なはずなのに、時間だけはとてつもなく長く感じられた。足の間に丸くなって眠っている愛猫の体温だけが、ぼんやりとした意識をかろうじて繋いでくれている。
「しんどい……」
そう呟いた声すら、自分のものじゃないみたいにかすれていた。
そんな時だった。テーブルのスマホが震え、メッセージの受信を知らせる。画面には恋人のクリスの名前が。
『任務が終わった。あと数時間で帰還できる。ナマエ、体調崩してるって本当か?』
その文面だけで胸がぎゅっと掴まれたような気分だった。もちろん隠すつもりはなかったけれど、知られてほしくもなかった。忙しいクリスに、余計な心配をかけたくなかったからだ。
『病院には行ったよ。原因はわからないって言われて、薬だけもらった。』
すぐに電話がかかってくる。数日ぶりのクリスの声に、鉛のように重たい体が少し和らぐようだった。
「──熱が続いているのに、原因も分からないまま帰されたのか? 本当に大丈夫か?」
声が低く、明らかに焦っている彼。
「うーーん……大丈夫だって信じたいけど…」
「今日は遅くなるかもしれないが、なるべく早くお前の家に行く。食べられそうな物も買っていく」
「えっ、わざわざ……」
シャワーも適当に浴びてボサボサのノーメイクの自分。断りたい気持ちはあった。でも体は正直で、助けがほしくてたまらない。
「来てほしい……」
小さくそう言うと、電話の向こうでクリスがふっと息を抜く音がした。
「それでいい。任せろ」
夜10時ごろ、玄関の鍵が回る音がした。
猫はぱっと起きて音のする方へ駆けていく。
そしてすぐに、クリスを連れてリビングへと戻ってきた。
「悪い。遅くなった」
クリスは疲れの色を隠さず、それでも優しい表情で立っていた。その手に持っているいくつかの買い物袋に乱雑に詰め込まれた食材は、彼が急いで来てくれたことを物語っていた。
「任務おつかれさま。疲れてるのにごめんね」
「いいんだ。俺が会いたかったから」
ソファに横になるナマエの頬に触れた指先は、信じられないほど優しくて、熱でぼんやりした視界が一瞬だけ鮮明になったような気分がした。
「何か食べられそうか?」
「……あんまり食欲なくて……」
「そうだろうな。スープを作っておくから、食べられそうな時に食べてくれ。あとゼリーをいくつか買ってきたから冷蔵庫に入れておく」
「ありがとう。助かるよ」
「明日も来るから、何か必要なものがあれば昼のうちにメールしてくれるか?」
「うん」
テキパキと台所に向かうクリスの背中を目で追いかける。彼も任務で疲れているはずなのに優しくて、当然のように世話を焼いてくれて。クリスはいつだってこうだ。
「ソファじゃなくてベッドで寝たほうがいい」
食材を仕舞い終えたクリスがリビングへ戻ってくる。
「だるくて動きたくない……運んでくれるなら行くんだけど」
クリスは小さく笑って頭を撫でた。
「はいはい。お望みとあらば」
次の瞬間には体がふわりと浮いて、お姫様抱っこで持ち上げられる。
「ほら、暖かくしてちゃんと寝ろ。寒気があるだろう?」
「うん…ありがとう」
「スープを作り終えたら、また声をかけに来る」
寝室の扉を一つ隔てて、キッチンからカチャカチャと調理器具の音が聞こえ始める。それが妙に心地よくて、ナマエはいつの間にか眠りに落ちていた。
***
ハッと目を覚ましたナマエが時計を見ると、深夜3時。隣にはいつの間にか猫だけで、部屋に人の気配はない。
「クリス……?」
起き上がってリビングへ行くと、照明は落とされ静まり返っていた。冷蔵庫を開ければ、作ってくれたスープと買ってきてくれたゼリーが、丁寧に並んでいた。
(ちゃんと見送りもできなかった……)
落ち込んでずるずるとベッドルームへ戻る。その時、リビングとベッドルームに置いてある、ペット用カメラの存在を思い出した。それを見れば、クリスがいつ帰ったか残っているかもしれない。
ペット用カメラの履歴をスマホから確認すると、案の定そこにはクリスの姿が。リビングのカメラから見切れてはいるものの、キッチンで料理をしてくれている様子が録画されていた。
しばらく洗い物などをしたあとは、寝室に移動してきたクリス。音声こそ入っていないものの、寝ているナマエに声をかけているようだ。そしてナマエがぐっすり眠りこんでいると判断したのだろう。クリスはそっとベッドに腰を下ろし、ナマエの頭を、髪を、頬を――ゆっくり何度も撫でた。
なんて事はない仕草なのに、胸の奥がむず痒くて、見てはいけないものを見ているような気がした。クリスのその表情は柔らかくて、切なくて、慈しむようで。まるで、繊細なものに触れるときのような。
そして最後に、クリスはそっと身体を寄せてナマエの耳元に何かを囁いた。それはおやすみなのか、また来るなのか、短い言葉のようだ。そして額にゆっくりとキスをした。
ナマエは思わず自分のおでこの、キスをされた部分にそっと指を当てる。
……やがてクリスは帰って行った。
体はまだ熱くて重い。それでも心は軽くなっていた。朝になったら、ありがとうってメールを送ろう。部屋も少し片付けて。元気になったら、ぎゅっと抱きついて「愛してる」って言おう。
昨日まで泥のように沈んでいた身体の底に、久しぶりにエネルギーが湧いてくるのを感じながら――ナマエは静かに目を閉じた。
fin.
原因のわからない高熱が、もう数日間続いていた。ソファに横になりながらテレビを眺めても、頭痛が響いて内容はまったく入ってこない。何か胃に入れても胸焼けがするだけ。横になっているのが一番楽なはずなのに、時間だけはとてつもなく長く感じられた。足の間に丸くなって眠っている愛猫の体温だけが、ぼんやりとした意識をかろうじて繋いでくれている。
「しんどい……」
そう呟いた声すら、自分のものじゃないみたいにかすれていた。
そんな時だった。テーブルのスマホが震え、メッセージの受信を知らせる。画面には恋人のクリスの名前が。
『任務が終わった。あと数時間で帰還できる。ナマエ、体調崩してるって本当か?』
その文面だけで胸がぎゅっと掴まれたような気分だった。もちろん隠すつもりはなかったけれど、知られてほしくもなかった。忙しいクリスに、余計な心配をかけたくなかったからだ。
『病院には行ったよ。原因はわからないって言われて、薬だけもらった。』
すぐに電話がかかってくる。数日ぶりのクリスの声に、鉛のように重たい体が少し和らぐようだった。
「──熱が続いているのに、原因も分からないまま帰されたのか? 本当に大丈夫か?」
声が低く、明らかに焦っている彼。
「うーーん……大丈夫だって信じたいけど…」
「今日は遅くなるかもしれないが、なるべく早くお前の家に行く。食べられそうな物も買っていく」
「えっ、わざわざ……」
シャワーも適当に浴びてボサボサのノーメイクの自分。断りたい気持ちはあった。でも体は正直で、助けがほしくてたまらない。
「来てほしい……」
小さくそう言うと、電話の向こうでクリスがふっと息を抜く音がした。
「それでいい。任せろ」
夜10時ごろ、玄関の鍵が回る音がした。
猫はぱっと起きて音のする方へ駆けていく。
そしてすぐに、クリスを連れてリビングへと戻ってきた。
「悪い。遅くなった」
クリスは疲れの色を隠さず、それでも優しい表情で立っていた。その手に持っているいくつかの買い物袋に乱雑に詰め込まれた食材は、彼が急いで来てくれたことを物語っていた。
「任務おつかれさま。疲れてるのにごめんね」
「いいんだ。俺が会いたかったから」
ソファに横になるナマエの頬に触れた指先は、信じられないほど優しくて、熱でぼんやりした視界が一瞬だけ鮮明になったような気分がした。
「何か食べられそうか?」
「……あんまり食欲なくて……」
「そうだろうな。スープを作っておくから、食べられそうな時に食べてくれ。あとゼリーをいくつか買ってきたから冷蔵庫に入れておく」
「ありがとう。助かるよ」
「明日も来るから、何か必要なものがあれば昼のうちにメールしてくれるか?」
「うん」
テキパキと台所に向かうクリスの背中を目で追いかける。彼も任務で疲れているはずなのに優しくて、当然のように世話を焼いてくれて。クリスはいつだってこうだ。
「ソファじゃなくてベッドで寝たほうがいい」
食材を仕舞い終えたクリスがリビングへ戻ってくる。
「だるくて動きたくない……運んでくれるなら行くんだけど」
クリスは小さく笑って頭を撫でた。
「はいはい。お望みとあらば」
次の瞬間には体がふわりと浮いて、お姫様抱っこで持ち上げられる。
「ほら、暖かくしてちゃんと寝ろ。寒気があるだろう?」
「うん…ありがとう」
「スープを作り終えたら、また声をかけに来る」
寝室の扉を一つ隔てて、キッチンからカチャカチャと調理器具の音が聞こえ始める。それが妙に心地よくて、ナマエはいつの間にか眠りに落ちていた。
***
ハッと目を覚ましたナマエが時計を見ると、深夜3時。隣にはいつの間にか猫だけで、部屋に人の気配はない。
「クリス……?」
起き上がってリビングへ行くと、照明は落とされ静まり返っていた。冷蔵庫を開ければ、作ってくれたスープと買ってきてくれたゼリーが、丁寧に並んでいた。
(ちゃんと見送りもできなかった……)
落ち込んでずるずるとベッドルームへ戻る。その時、リビングとベッドルームに置いてある、ペット用カメラの存在を思い出した。それを見れば、クリスがいつ帰ったか残っているかもしれない。
ペット用カメラの履歴をスマホから確認すると、案の定そこにはクリスの姿が。リビングのカメラから見切れてはいるものの、キッチンで料理をしてくれている様子が録画されていた。
しばらく洗い物などをしたあとは、寝室に移動してきたクリス。音声こそ入っていないものの、寝ているナマエに声をかけているようだ。そしてナマエがぐっすり眠りこんでいると判断したのだろう。クリスはそっとベッドに腰を下ろし、ナマエの頭を、髪を、頬を――ゆっくり何度も撫でた。
なんて事はない仕草なのに、胸の奥がむず痒くて、見てはいけないものを見ているような気がした。クリスのその表情は柔らかくて、切なくて、慈しむようで。まるで、繊細なものに触れるときのような。
そして最後に、クリスはそっと身体を寄せてナマエの耳元に何かを囁いた。それはおやすみなのか、また来るなのか、短い言葉のようだ。そして額にゆっくりとキスをした。
ナマエは思わず自分のおでこの、キスをされた部分にそっと指を当てる。
……やがてクリスは帰って行った。
体はまだ熱くて重い。それでも心は軽くなっていた。朝になったら、ありがとうってメールを送ろう。部屋も少し片付けて。元気になったら、ぎゅっと抱きついて「愛してる」って言おう。
昨日まで泥のように沈んでいた身体の底に、久しぶりにエネルギーが湧いてくるのを感じながら――ナマエは静かに目を閉じた。
fin.
