Chris Redfield
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昼休みの食堂は、訓練の合間の腹を空かせた隊員たちで賑わっている。ナマエは人混みを避けて端の席に座った。そこへ、席を探していたクリスがやってきて、彼女を見つけて小さく手を挙げる。
「ここ空いてるか?」
「クリス!は、はい、どうぞ」
クリスは短く礼を言い、向かいに座った。急に憧れの人と相席になってしまったナマエは、何を話そうかと脳の回路を精一杯動かしながらランチを口に運ぶ。
「ナマエ、それで足りるのか?」
「むしろちょっと多く取りすぎたかなと思っているんですが。……クリスはまたお肉ばかりですね?」
ナマエは向かいに置かれた皿を見て言った。
「身体を使うんだ。エネルギーを補給しないとな」
「補給しすぎでは?」
「はは、かもしれん」
いつものように軽い冗談を交わす2人。こういった雑談は、たとえ短いあいだでも、互いにとっての何よりの癒しとなっている時間だった。
「ナマエ」
「はい?」
「またタイミングが合えば、相席してもいいか?」
「え?あ……はい!もちろんです」
「いつもお互い慌ただしいだろう。たまにはこうして、落ち着いて話せるのもいい」
クリスは少し視線を逸らして笑った。その言葉に、ナマエは一瞬、どう返していいか分からなかった。
(そんな風に言われるなんて……)
頬がほんのり熱くなる。
「……はい。嬉しいです。私ももっとお話ししたいので」
「そうか」
クリスはナマエの答えに、安心したように微笑んだ。
***
数日後、作戦会議室にて。
各部隊の資料が整然と並んでおり、隊員たちはそれぞれの席で定刻を待っている。
ナマエはノートPCを開き、時計を見る。もうすぐ隊長たちが入ってくる時間だ。小さく息を整えて背筋を伸ばしたとき、廊下の奥からバタバタと足音が響いてきた。
「すまない、少し遅れた」
「データは行き渡ってるか?」
隊長たちが部屋に入ってきて、場の空気が一瞬で引き締まるのを感じた。
「……ではさっそく始めようか」
落ち着いた低音で号令を出したのはクリスだ。彼の凛々しい顔に見惚れていると、バチっと目が合ってしまった。
一瞬の間。
するとクリスはふっと笑って、小さく頷いた。その笑顔があまりにも優しくて。ナマエは一拍遅れて、頬が熱くなるのを感じながらどうにか笑みを返した。
(落ち着け……。きっと、ただの挨拶よ)
彼は誰にでも平等なのは、日頃から痛いほど分かっていた。きっと相手が私じゃなくても、あの柔らかい笑顔を見せる。勘違いして舞い上がらないようにと自分に言い聞かせた。
***
クリスは資料に目を落としながら、ほんの数秒前のナマエの表情を思い出していた。こちらを見ていたナマエ。目が合った瞬間彼女は少し目を丸くして驚いたような素振りを見せた。その反応が可愛くて、思わず笑みがこぼれてしまったのだ。
だが、すぐに思い直す。ナマエは部下だし、年齢も自分の妹と同じぐらいだ。彼女にとって俺なんて、ただの上司……せいぜい兄のような存在だろう。対して自分は、随分と長いこと彼女のことを1人の女性として大切に想っている。この気持ちに決着がつく日は来るだろうか……。
「ではクリス。資料の説明を」
「……!!わかった」
今は目の前の任務に集中しなければ。クリスは姿勢を正した。
***
任務は滞りなく終了し、負傷者もなく撤収することができた。夕焼けに染まった空が窓の外を流れていく。緊張の解けた隊員たちは軽口を叩き合っていた。
「早く帰ってうまい酒が飲みてぇな」
「そういえばお前、通信部隊のさ、ナマエって子はどうなった?」
その名を聞いた瞬間、クリスの心臓がばくんと跳ねた。背もたれに預けていた身体はわずかに強張る。
「おまえっみんなの前で聞くなよ」
「いいじゃねえか、どうせ撃沈したんだろ」
「……そうなんだよ。食事に誘ったが、あっさり断られちまった」
それを聞いた周りの隊員たちは茶化すように笑った。
「折を見てまた誘ってみようとは思ってるんだが」
すると別の隊員が会話に入ってきた。
「そういえば、あの子には好きな奴がいるらしいぞ。誰かは知らねぇけど」
「はぁ!?どこ情報だよ?」
「どこもなにも本人さ。たまたま聞こえちまったんだ。ほらナマエちゃんって子、あのジル・バレンタインと仲がいいだろ?前に2人が──」
「おい」
クリスは我慢ならず、思わず口を挟んだ。
隊員たちは一斉に口をつぐむ。
「人のことを勝手にベラベラ喋るのは、そのくらいにしておかないか」
短くそう告げて、視線を窓の外に戻した。流れる景色を見つめながら考える。
(……ナマエには好きな奴がいる。……そうだったのか。)
夕焼けの美しさに反して、胸の奥は冷たく暗くなっていく。彼女がこちらに向ける笑顔や弾んだ声は、もしかして自分だけが知っているんじゃないかと期待してしまっていた。
クリスは周りに悟られないように、短い溜息を零した。
***
数日後。
ナマエとまた一緒にランチをとれるかもしれない、と頭の片隅で考えながら、クリスは食堂に足を運んだ。しかしこの日、出会ったのはジルだった。
「珍しいわね、あなたが食堂に来るなんて」
「そうか?最近はよく来る」
………ナマエ目当てで。とは口が裂けても言えないが。
近くの空いていた席にジルと2人で座る。軽い世間話のあと、クリスは我慢できずにナマエの話題を出した。
「なあ、ジル。……その、……ナマエとは頻繁に会ってるか?」
「ええもちろん。3日ぐらい前かしら、退勤が被ったから食事に行ったわよ。どうかした?」
「いや……何というか…」
「何よ。……あ。誘ってほしかった?」
「誘っ……まぁそうだな。次回誘ってくれたら嬉しいが……」
ジルはしばらく彼をじっと見つめていたが、言い淀んでいるクリスについに痺れを切らして尋ねた。
「聞きたいことがあるならハッキリ言ってもらえるかしら、隊長サン?」
「………ナマエに好きな人が居ると聞いた」
「………」
ジルはクリスから視線を外さないまま、言葉を探している顔をしている。
「お前なら、その好きなやつってのが誰なのか知っているかと思ってな」
「あら。どうしてそんなに気になるのかしら」
「……その……部下がそう話していたのを思い出して、ふと気になっただけだ」
ジルの視線に耐えられず、居心地の悪さを誤魔化すようにプレートに盛った肉を頬張った。
「彼女は私を信頼して話してくれているのよ。だから、私が勝手にアレコレ言えないわ」
「……そうか。そうだよな。すまない。変なことを聞いた」
ジルは小さく笑って言った。
「ま、あなたが”その人”なんだけどね」
驚いたクリスが勢いよく顔を上げると、こちらを見透かしたような笑顔のジルと目が合う。
「——あ、今のは独り言よ。気にしないで」
言葉の意味を何度も反芻する。もしかしてナマエが、俺を?胸の奥で何かがはじけたように、鼓動が早くなる。今すぐにでも彼女に会いに行きたい気分だ。
「……ジル。ありがとう」
「何のことかしら。……あ!噂をすれば」
ジルは食堂の入り口をクイっと顎で指した。振り向いて見てみれば、そこには休憩をとりに来たナマエの姿が。
「素敵な報告が聞けるのを楽しみにしてるわね」
そう笑いながら、ジルはコーヒーを持って席を立った。
キョロキョロと見回し席を探しているナマエへ、クリスが手をあげて合図を送った。目が合った瞬間彼女の顔にパッと花が咲き、こちらに駆け寄ってくる。
「クリス。ご一緒してもいいですか」
「もちろんだ」
──自分の気持ちに素直になろう。クリスはそう決意した。まずはナマエを2人きりの食事に誘って、それから。そのあとにどう進むか分からないけれど、きっと悪くない未来が待っているだろう。
fin.
「ここ空いてるか?」
「クリス!は、はい、どうぞ」
クリスは短く礼を言い、向かいに座った。急に憧れの人と相席になってしまったナマエは、何を話そうかと脳の回路を精一杯動かしながらランチを口に運ぶ。
「ナマエ、それで足りるのか?」
「むしろちょっと多く取りすぎたかなと思っているんですが。……クリスはまたお肉ばかりですね?」
ナマエは向かいに置かれた皿を見て言った。
「身体を使うんだ。エネルギーを補給しないとな」
「補給しすぎでは?」
「はは、かもしれん」
いつものように軽い冗談を交わす2人。こういった雑談は、たとえ短いあいだでも、互いにとっての何よりの癒しとなっている時間だった。
「ナマエ」
「はい?」
「またタイミングが合えば、相席してもいいか?」
「え?あ……はい!もちろんです」
「いつもお互い慌ただしいだろう。たまにはこうして、落ち着いて話せるのもいい」
クリスは少し視線を逸らして笑った。その言葉に、ナマエは一瞬、どう返していいか分からなかった。
(そんな風に言われるなんて……)
頬がほんのり熱くなる。
「……はい。嬉しいです。私ももっとお話ししたいので」
「そうか」
クリスはナマエの答えに、安心したように微笑んだ。
***
数日後、作戦会議室にて。
各部隊の資料が整然と並んでおり、隊員たちはそれぞれの席で定刻を待っている。
ナマエはノートPCを開き、時計を見る。もうすぐ隊長たちが入ってくる時間だ。小さく息を整えて背筋を伸ばしたとき、廊下の奥からバタバタと足音が響いてきた。
「すまない、少し遅れた」
「データは行き渡ってるか?」
隊長たちが部屋に入ってきて、場の空気が一瞬で引き締まるのを感じた。
「……ではさっそく始めようか」
落ち着いた低音で号令を出したのはクリスだ。彼の凛々しい顔に見惚れていると、バチっと目が合ってしまった。
一瞬の間。
するとクリスはふっと笑って、小さく頷いた。その笑顔があまりにも優しくて。ナマエは一拍遅れて、頬が熱くなるのを感じながらどうにか笑みを返した。
(落ち着け……。きっと、ただの挨拶よ)
彼は誰にでも平等なのは、日頃から痛いほど分かっていた。きっと相手が私じゃなくても、あの柔らかい笑顔を見せる。勘違いして舞い上がらないようにと自分に言い聞かせた。
***
クリスは資料に目を落としながら、ほんの数秒前のナマエの表情を思い出していた。こちらを見ていたナマエ。目が合った瞬間彼女は少し目を丸くして驚いたような素振りを見せた。その反応が可愛くて、思わず笑みがこぼれてしまったのだ。
だが、すぐに思い直す。ナマエは部下だし、年齢も自分の妹と同じぐらいだ。彼女にとって俺なんて、ただの上司……せいぜい兄のような存在だろう。対して自分は、随分と長いこと彼女のことを1人の女性として大切に想っている。この気持ちに決着がつく日は来るだろうか……。
「ではクリス。資料の説明を」
「……!!わかった」
今は目の前の任務に集中しなければ。クリスは姿勢を正した。
***
任務は滞りなく終了し、負傷者もなく撤収することができた。夕焼けに染まった空が窓の外を流れていく。緊張の解けた隊員たちは軽口を叩き合っていた。
「早く帰ってうまい酒が飲みてぇな」
「そういえばお前、通信部隊のさ、ナマエって子はどうなった?」
その名を聞いた瞬間、クリスの心臓がばくんと跳ねた。背もたれに預けていた身体はわずかに強張る。
「おまえっみんなの前で聞くなよ」
「いいじゃねえか、どうせ撃沈したんだろ」
「……そうなんだよ。食事に誘ったが、あっさり断られちまった」
それを聞いた周りの隊員たちは茶化すように笑った。
「折を見てまた誘ってみようとは思ってるんだが」
すると別の隊員が会話に入ってきた。
「そういえば、あの子には好きな奴がいるらしいぞ。誰かは知らねぇけど」
「はぁ!?どこ情報だよ?」
「どこもなにも本人さ。たまたま聞こえちまったんだ。ほらナマエちゃんって子、あのジル・バレンタインと仲がいいだろ?前に2人が──」
「おい」
クリスは我慢ならず、思わず口を挟んだ。
隊員たちは一斉に口をつぐむ。
「人のことを勝手にベラベラ喋るのは、そのくらいにしておかないか」
短くそう告げて、視線を窓の外に戻した。流れる景色を見つめながら考える。
(……ナマエには好きな奴がいる。……そうだったのか。)
夕焼けの美しさに反して、胸の奥は冷たく暗くなっていく。彼女がこちらに向ける笑顔や弾んだ声は、もしかして自分だけが知っているんじゃないかと期待してしまっていた。
クリスは周りに悟られないように、短い溜息を零した。
***
数日後。
ナマエとまた一緒にランチをとれるかもしれない、と頭の片隅で考えながら、クリスは食堂に足を運んだ。しかしこの日、出会ったのはジルだった。
「珍しいわね、あなたが食堂に来るなんて」
「そうか?最近はよく来る」
………ナマエ目当てで。とは口が裂けても言えないが。
近くの空いていた席にジルと2人で座る。軽い世間話のあと、クリスは我慢できずにナマエの話題を出した。
「なあ、ジル。……その、……ナマエとは頻繁に会ってるか?」
「ええもちろん。3日ぐらい前かしら、退勤が被ったから食事に行ったわよ。どうかした?」
「いや……何というか…」
「何よ。……あ。誘ってほしかった?」
「誘っ……まぁそうだな。次回誘ってくれたら嬉しいが……」
ジルはしばらく彼をじっと見つめていたが、言い淀んでいるクリスについに痺れを切らして尋ねた。
「聞きたいことがあるならハッキリ言ってもらえるかしら、隊長サン?」
「………ナマエに好きな人が居ると聞いた」
「………」
ジルはクリスから視線を外さないまま、言葉を探している顔をしている。
「お前なら、その好きなやつってのが誰なのか知っているかと思ってな」
「あら。どうしてそんなに気になるのかしら」
「……その……部下がそう話していたのを思い出して、ふと気になっただけだ」
ジルの視線に耐えられず、居心地の悪さを誤魔化すようにプレートに盛った肉を頬張った。
「彼女は私を信頼して話してくれているのよ。だから、私が勝手にアレコレ言えないわ」
「……そうか。そうだよな。すまない。変なことを聞いた」
ジルは小さく笑って言った。
「ま、あなたが”その人”なんだけどね」
驚いたクリスが勢いよく顔を上げると、こちらを見透かしたような笑顔のジルと目が合う。
「——あ、今のは独り言よ。気にしないで」
言葉の意味を何度も反芻する。もしかしてナマエが、俺を?胸の奥で何かがはじけたように、鼓動が早くなる。今すぐにでも彼女に会いに行きたい気分だ。
「……ジル。ありがとう」
「何のことかしら。……あ!噂をすれば」
ジルは食堂の入り口をクイっと顎で指した。振り向いて見てみれば、そこには休憩をとりに来たナマエの姿が。
「素敵な報告が聞けるのを楽しみにしてるわね」
そう笑いながら、ジルはコーヒーを持って席を立った。
キョロキョロと見回し席を探しているナマエへ、クリスが手をあげて合図を送った。目が合った瞬間彼女の顔にパッと花が咲き、こちらに駆け寄ってくる。
「クリス。ご一緒してもいいですか」
「もちろんだ」
──自分の気持ちに素直になろう。クリスはそう決意した。まずはナマエを2人きりの食事に誘って、それから。そのあとにどう進むか分からないけれど、きっと悪くない未来が待っているだろう。
fin.
