Chris Redfield
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心をほどく夜
私の恋人、クリス・レッドフィールドは、BSAAという対バイオテロ組織に所属している。一方の私はといえば、ごく普通の企業で働き、給料に見合ったアパートメントに住み、地道に貯金をしてはたまに旅行に行くような——そんな平凡な生活を送っている。命懸けで任務に向かうクリスとは、まるで正反対の人生だ。
クリスは仕事柄、1週間以上連絡が取れないこともあるし、せっかくのデートが急な任務で中止になることも珍しくない。正直に言えば、寂しい。でもこの気持ちを素直に伝えられないのは、彼の負担になりたくないからだ。もっと会いたい、もっと触れてほしいなどと可愛くお願いできない強がりな女。寂しさだけを募らせて、自分の気持ちを隠すのが随分と上手くなってしまった。
***
1ヶ月前のデートの日。
事前にクリスから「終日休みが取れたから、どこかへ出かけないか」と連絡が。その日を私は指折り数えて楽しみにしていた。
「クリス!ごめんね、待った?」
いつもと同じように、彼は車でアパートの前まで迎えにきてくれる。車の前に立っているクリスに駆け寄った。
「いや今来たところだ。……その服、似合ってるな」
「ふふ、ありがとう。行きましょ」
この日は街に行くことだけ決めていて、細かい予定は立てていなかった。街を歩きながら気になった店に入ったり、服に無頓着なクリスの為にいくつか見繕ったり……最後は私の家でゆっくり過ごす。きっとそんな素朴な一日になるだろう。
街のパーキングに車を停め、クリスがサッと私の手を取り歩く。私はこの大きくて無骨な手が好きだ。普段は銃を握っているとは思えないほど、私の手を優しく包んでくれる。彼の同僚は、彼がこんなにも大事に女性を扱うことを知っているのだろうか。
街を散策した後は夕飯をレストランで済ませ、再度クリスの車へ乗り込み私の自宅へと向かった。
「美味しかったわね」
「そうだな。ナマエと過ごしている時ぐらいしかゆっくり食事をしないから…沁みたよ」
「この後はウチに来るでしょ?飲み物が少ないから、途中どこかで——」
「いや、今日はお前を送ったら帰ろうと思う」
「……え」
思わず言葉が詰まる。「終日休み」だと言っていたから、当然のようにうちに寄るものだと思っていた。
「何か用事があるの?」
「ん……ああ、まあな」
クリスは曖昧に答えた。仕事の時は仕事だとハッキリ言う人だから、何かを隠している気がした。けれど、それ以上踏み込むのはためらわれて、私は小さく笑って「そっか。残念」とだけ返した。
アパートの前で車が停まる。
「今日はありがとう」
「楽しかったよ。ありがとう」
「気をつけて帰ってね。あと、喫煙は程々にね」
「耳が痛いな」
クリスはそう言って笑いながら苦い味のキスを私によこして、最後に強くハグをして帰っていった。
***
そして、10日前にしたお家デート。
夕方には帰るとクリスは言い、私の家でランチを食べ、映画を観て過ごすことになった。恋愛映画が苦手な私たちはいつもアクションものを選ぶ。今回も例外ではなく、スパイ映画の激しいカーチェイスと格闘が見どころだった。
「こんな動きって本当にできるものなの?」
「似たような動きは出来るかもしれない。でも実戦じゃ隙が大きくて、使えんだろうな」
クリスは私の肩に腕を回したまま答えた。
戦場を知るクリスの、そんなリアルなコメントを時折聞きながら映画を観進めていくと、男女の情熱的なラブシーンに突入した。いつもなら何とも思わない濡れ場なのに、今回はまるで本当にしているのではと思えてしまうほど生々しい描写だ。私は少し居心地が悪くなりモゾモゾと座り直す。するとクリスは、肩に回した手をほどき、私の顎を持ち上げた。唇が触れるだけの軽いキス。視線が一瞬だけ絡み微笑んだかと思えば、彼はその目線をすぐ映画に戻した。その間も彼の手は私の太ももに移り、親指の腹でそこをゆっくりと撫でている。
(この映画の後は、もしかして……)
(私は今すぐでもいいんだけど)
胸の奥に期待が灯る。
けれど、その小さな火はすぐに消された。映画が終わりしばらくするとクリスは、「さて、名残惜しいが俺はこの辺で帰るよ」と言い出した。確かに夕方には帰ると言っていたけど、ずいぶん早い。
「そっ……か。もう少し一緒にいられると思ってた」
「……悪いな」
不満げな私を、クリスは優しく頬を撫でてなだめる。「また連絡する」と言い残し、彼は帰っていってしまった。
最近の彼は、私と"そういう"雰囲気になることを避けているように感じる。身体を重ねることなんてこれまで何度もあったのに、今更避ける理由は何だろう。考えても答えが出るはずもなく、募る疑問と寂しさを紛らわすように、私は黙々とクリスが去ったあとの部屋を掃除した。
***
今日。
クリスと1日デートをして、夜は彼の家で夕飯をとることになった。
私が家に上がることが事前にわかっていたから、部屋はきちんと整えられていた。久々に使うクリスの家のキッチン。普段あまり自炊をしない彼は調味料の減りも遅く、以前一緒に買ったスパイス類はほとんどそのまま棚に並んでいる。
「なんだかいっぱい作っちゃった」
「でも余るか分からないぞ?ずっといいにおいがしていて、腹が減ってるんだ」
テーブルに並んだ盛りだくさんの料理を見て思わず笑い合う。カトラリーを用意しながら、待ちきれない子どものようにワクワクした顔をしているクリス。こんな彼を毎日隣で見られたらな、とふと考えてしまった。
案の定2人ともお腹がいっぱいになり少し残してしまったけれど、クリスは「また明日も食べられるな」と言いながら、保存容器に移して冷蔵庫にしまってくれた。
食後はソファで並んでテレビを観る。
ただそれだけの時間なのに、久しぶりに会える日だからこそ、どんな瞬間も愛おしく感じるものだ。
クリスが私の肩を抱き寄せ、額にそっとキスを落とした。
「……クリス」
名前を呼ぶと、彼はゆっくりと私の髪を撫で、頬に触れた。そのまま唇が重なる。最初はやわらかく確かめるようなキスを。次第に呼吸は混じり合い、彼の腕に力がこもっていく。
私のからだがクリスを求めているのが分かった。
だけど。
彼はふとキスを解き、私の頭を撫でながら小さく言った。
「……そろそろ家まで送ろう」
心にずしりと重たいものをつけられたような感覚に陥る。ああ、やっぱり——最近感じていた小さな違和感が、今ハッキリと形になってしまった。
「……ねえ、クリス。正直に言って」
私の声は思った以上に弱く、震えていた。
「私とエッチするの、嫌になったの……?」
一瞬彼の目が見開かれるが、否定の言葉はすぐには出てこなかった。まるでその沈黙が答えのように感じられ、胸にグサリと突き刺さる。
「会える頻度が少ないのも、連絡が取れなくなるのも……仕方ないって、わかってるの」
気づけば、今まで心の奥にしまい込んでいた想いが堰を切ったように溢れ出していた。
「でも、だからこそ……会えたときは、時間が許す限りあなたと一緒にいたいの。いっぱい触れ合いたいのよ」
声が震え、喉の奥が熱くなる。
「寂しいの。……私に何か問題があるなら言ってよ」
その言葉にクリスの肩がわずかに揺れた。
彼は拳を握りしめ、ゆっくりと目を閉じた。
「ナマエのせいじゃない」
はっきりとした声だった。私はクリスの言葉を待った。
「問題があるのは俺のほうだ。確かに……その……避けてはいるが、絶対にお前のせいじゃない」
「……じゃあ、どうして」
逃げられないと悟ったのか、彼は大きく息を吐いた。観念したようなその仕草に、彼の中の葛藤が透けて見える。
「引かないか?」
「うん。大丈夫よ」
少しの沈黙の後、クリスは呟いた。
「……ナマエをめちゃくちゃにしたいと、思ってしまうからだ」
時間が止まったようだった。
予想もしなかった答えに、頭の中が真っ白になる。何も言わない私の様子を伺いながら、彼は恥ずかしそうに眉を寄せて言葉を続けた。
「最初はこんな性欲、我慢して時がたてば落ち着くと思ってた。でも……逆だった」
クリスはとつとつと話す。
「我慢すればするほど、その気持ちが強くなった。それで今は……抱くタイミングが分からなくなってる」
強く求めすぎてお前を傷つけるんじゃないかと怖いんだ、と言うクリス。その告白は、不器用で、真っ直ぐで、彼らしかった。胸の奥で張り詰めていた不安は、もうとっくに溶けて消えていた。
「よかった。別れたいとか……そういう理由じゃないのね」
「そんなわけないだろう」
即答する彼の声はあまりにも真剣で。私は笑いながら、そっとクリスの胸に頬を寄せた。クリスの手が優しく私の背を撫で、二人の間にあたたかな静けさが満ちていく。
「そんな馬鹿げた理由で避けてたなんてね」
「バカって、抱いたら抱いたでお前に嫌われたりするんじゃないかと俺は本気で…!」
「私の身体を心配してくれるのは嬉しいけど」
「……ああ」
「あなたに無茶苦茶にされるほうが、もっと嬉しい」
今の自分の率直な気持ちを伝えた。
クリスの体が強張ったのを頬越しに感じ、普段素直になれないくせに、「無茶苦茶にされたい」などと随分と大胆なことを言ったもんだと他人事のように思った。
「ナマエ」
「なあに?」
顔を上げた途端、クリスが片手で私の顎をつかんだ。ムニッと押し上げられた口元がヒヨコのようになっているのを自覚し、戸惑いがちに彼を見上げる。
「今日は家に帰してやれそうにない…」
「んん……?」
「抱き潰す」
クリスの言葉に全身が痺れ、「ふぁぃ、」と間抜けな声で返事するのが早いか、噛み付くようなキスをされる。息もつけない激しいキスに絡め取られながら、そのままソファへと押し倒された。
長く焦がれた濃厚な夜は、ついに幕を開けた。
fin.
私の恋人、クリス・レッドフィールドは、BSAAという対バイオテロ組織に所属している。一方の私はといえば、ごく普通の企業で働き、給料に見合ったアパートメントに住み、地道に貯金をしてはたまに旅行に行くような——そんな平凡な生活を送っている。命懸けで任務に向かうクリスとは、まるで正反対の人生だ。
クリスは仕事柄、1週間以上連絡が取れないこともあるし、せっかくのデートが急な任務で中止になることも珍しくない。正直に言えば、寂しい。でもこの気持ちを素直に伝えられないのは、彼の負担になりたくないからだ。もっと会いたい、もっと触れてほしいなどと可愛くお願いできない強がりな女。寂しさだけを募らせて、自分の気持ちを隠すのが随分と上手くなってしまった。
***
1ヶ月前のデートの日。
事前にクリスから「終日休みが取れたから、どこかへ出かけないか」と連絡が。その日を私は指折り数えて楽しみにしていた。
「クリス!ごめんね、待った?」
いつもと同じように、彼は車でアパートの前まで迎えにきてくれる。車の前に立っているクリスに駆け寄った。
「いや今来たところだ。……その服、似合ってるな」
「ふふ、ありがとう。行きましょ」
この日は街に行くことだけ決めていて、細かい予定は立てていなかった。街を歩きながら気になった店に入ったり、服に無頓着なクリスの為にいくつか見繕ったり……最後は私の家でゆっくり過ごす。きっとそんな素朴な一日になるだろう。
街のパーキングに車を停め、クリスがサッと私の手を取り歩く。私はこの大きくて無骨な手が好きだ。普段は銃を握っているとは思えないほど、私の手を優しく包んでくれる。彼の同僚は、彼がこんなにも大事に女性を扱うことを知っているのだろうか。
街を散策した後は夕飯をレストランで済ませ、再度クリスの車へ乗り込み私の自宅へと向かった。
「美味しかったわね」
「そうだな。ナマエと過ごしている時ぐらいしかゆっくり食事をしないから…沁みたよ」
「この後はウチに来るでしょ?飲み物が少ないから、途中どこかで——」
「いや、今日はお前を送ったら帰ろうと思う」
「……え」
思わず言葉が詰まる。「終日休み」だと言っていたから、当然のようにうちに寄るものだと思っていた。
「何か用事があるの?」
「ん……ああ、まあな」
クリスは曖昧に答えた。仕事の時は仕事だとハッキリ言う人だから、何かを隠している気がした。けれど、それ以上踏み込むのはためらわれて、私は小さく笑って「そっか。残念」とだけ返した。
アパートの前で車が停まる。
「今日はありがとう」
「楽しかったよ。ありがとう」
「気をつけて帰ってね。あと、喫煙は程々にね」
「耳が痛いな」
クリスはそう言って笑いながら苦い味のキスを私によこして、最後に強くハグをして帰っていった。
***
そして、10日前にしたお家デート。
夕方には帰るとクリスは言い、私の家でランチを食べ、映画を観て過ごすことになった。恋愛映画が苦手な私たちはいつもアクションものを選ぶ。今回も例外ではなく、スパイ映画の激しいカーチェイスと格闘が見どころだった。
「こんな動きって本当にできるものなの?」
「似たような動きは出来るかもしれない。でも実戦じゃ隙が大きくて、使えんだろうな」
クリスは私の肩に腕を回したまま答えた。
戦場を知るクリスの、そんなリアルなコメントを時折聞きながら映画を観進めていくと、男女の情熱的なラブシーンに突入した。いつもなら何とも思わない濡れ場なのに、今回はまるで本当にしているのではと思えてしまうほど生々しい描写だ。私は少し居心地が悪くなりモゾモゾと座り直す。するとクリスは、肩に回した手をほどき、私の顎を持ち上げた。唇が触れるだけの軽いキス。視線が一瞬だけ絡み微笑んだかと思えば、彼はその目線をすぐ映画に戻した。その間も彼の手は私の太ももに移り、親指の腹でそこをゆっくりと撫でている。
(この映画の後は、もしかして……)
(私は今すぐでもいいんだけど)
胸の奥に期待が灯る。
けれど、その小さな火はすぐに消された。映画が終わりしばらくするとクリスは、「さて、名残惜しいが俺はこの辺で帰るよ」と言い出した。確かに夕方には帰ると言っていたけど、ずいぶん早い。
「そっ……か。もう少し一緒にいられると思ってた」
「……悪いな」
不満げな私を、クリスは優しく頬を撫でてなだめる。「また連絡する」と言い残し、彼は帰っていってしまった。
最近の彼は、私と"そういう"雰囲気になることを避けているように感じる。身体を重ねることなんてこれまで何度もあったのに、今更避ける理由は何だろう。考えても答えが出るはずもなく、募る疑問と寂しさを紛らわすように、私は黙々とクリスが去ったあとの部屋を掃除した。
***
今日。
クリスと1日デートをして、夜は彼の家で夕飯をとることになった。
私が家に上がることが事前にわかっていたから、部屋はきちんと整えられていた。久々に使うクリスの家のキッチン。普段あまり自炊をしない彼は調味料の減りも遅く、以前一緒に買ったスパイス類はほとんどそのまま棚に並んでいる。
「なんだかいっぱい作っちゃった」
「でも余るか分からないぞ?ずっといいにおいがしていて、腹が減ってるんだ」
テーブルに並んだ盛りだくさんの料理を見て思わず笑い合う。カトラリーを用意しながら、待ちきれない子どものようにワクワクした顔をしているクリス。こんな彼を毎日隣で見られたらな、とふと考えてしまった。
案の定2人ともお腹がいっぱいになり少し残してしまったけれど、クリスは「また明日も食べられるな」と言いながら、保存容器に移して冷蔵庫にしまってくれた。
食後はソファで並んでテレビを観る。
ただそれだけの時間なのに、久しぶりに会える日だからこそ、どんな瞬間も愛おしく感じるものだ。
クリスが私の肩を抱き寄せ、額にそっとキスを落とした。
「……クリス」
名前を呼ぶと、彼はゆっくりと私の髪を撫で、頬に触れた。そのまま唇が重なる。最初はやわらかく確かめるようなキスを。次第に呼吸は混じり合い、彼の腕に力がこもっていく。
私のからだがクリスを求めているのが分かった。
だけど。
彼はふとキスを解き、私の頭を撫でながら小さく言った。
「……そろそろ家まで送ろう」
心にずしりと重たいものをつけられたような感覚に陥る。ああ、やっぱり——最近感じていた小さな違和感が、今ハッキリと形になってしまった。
「……ねえ、クリス。正直に言って」
私の声は思った以上に弱く、震えていた。
「私とエッチするの、嫌になったの……?」
一瞬彼の目が見開かれるが、否定の言葉はすぐには出てこなかった。まるでその沈黙が答えのように感じられ、胸にグサリと突き刺さる。
「会える頻度が少ないのも、連絡が取れなくなるのも……仕方ないって、わかってるの」
気づけば、今まで心の奥にしまい込んでいた想いが堰を切ったように溢れ出していた。
「でも、だからこそ……会えたときは、時間が許す限りあなたと一緒にいたいの。いっぱい触れ合いたいのよ」
声が震え、喉の奥が熱くなる。
「寂しいの。……私に何か問題があるなら言ってよ」
その言葉にクリスの肩がわずかに揺れた。
彼は拳を握りしめ、ゆっくりと目を閉じた。
「ナマエのせいじゃない」
はっきりとした声だった。私はクリスの言葉を待った。
「問題があるのは俺のほうだ。確かに……その……避けてはいるが、絶対にお前のせいじゃない」
「……じゃあ、どうして」
逃げられないと悟ったのか、彼は大きく息を吐いた。観念したようなその仕草に、彼の中の葛藤が透けて見える。
「引かないか?」
「うん。大丈夫よ」
少しの沈黙の後、クリスは呟いた。
「……ナマエをめちゃくちゃにしたいと、思ってしまうからだ」
時間が止まったようだった。
予想もしなかった答えに、頭の中が真っ白になる。何も言わない私の様子を伺いながら、彼は恥ずかしそうに眉を寄せて言葉を続けた。
「最初はこんな性欲、我慢して時がたてば落ち着くと思ってた。でも……逆だった」
クリスはとつとつと話す。
「我慢すればするほど、その気持ちが強くなった。それで今は……抱くタイミングが分からなくなってる」
強く求めすぎてお前を傷つけるんじゃないかと怖いんだ、と言うクリス。その告白は、不器用で、真っ直ぐで、彼らしかった。胸の奥で張り詰めていた不安は、もうとっくに溶けて消えていた。
「よかった。別れたいとか……そういう理由じゃないのね」
「そんなわけないだろう」
即答する彼の声はあまりにも真剣で。私は笑いながら、そっとクリスの胸に頬を寄せた。クリスの手が優しく私の背を撫で、二人の間にあたたかな静けさが満ちていく。
「そんな馬鹿げた理由で避けてたなんてね」
「バカって、抱いたら抱いたでお前に嫌われたりするんじゃないかと俺は本気で…!」
「私の身体を心配してくれるのは嬉しいけど」
「……ああ」
「あなたに無茶苦茶にされるほうが、もっと嬉しい」
今の自分の率直な気持ちを伝えた。
クリスの体が強張ったのを頬越しに感じ、普段素直になれないくせに、「無茶苦茶にされたい」などと随分と大胆なことを言ったもんだと他人事のように思った。
「ナマエ」
「なあに?」
顔を上げた途端、クリスが片手で私の顎をつかんだ。ムニッと押し上げられた口元がヒヨコのようになっているのを自覚し、戸惑いがちに彼を見上げる。
「今日は家に帰してやれそうにない…」
「んん……?」
「抱き潰す」
クリスの言葉に全身が痺れ、「ふぁぃ、」と間抜けな声で返事するのが早いか、噛み付くようなキスをされる。息もつけない激しいキスに絡め取られながら、そのままソファへと押し倒された。
長く焦がれた濃厚な夜は、ついに幕を開けた。
fin.
