Chris Redfield
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ひとつ残らず、君だから
任務帰りで互いに疲れているはずなのに、自然とクリスはナマエの部屋に立ち寄っていた。二人きりで過ごす時間は、恋人になってからますます欠かせないものになっていた。
ソファに並んで座り他愛もない話をする。不意にナマエの指先に触れる、クリスの大きな手。
目が合うと、その視線の奥には優しい愛情と、抑え込んでいる熱が見える。
「……ナマエ」
名前を呼ばれただけで彼女の胸は高鳴った。
唇が触れあい、静かな部屋は甘い空間へと変わる。
クリスの手はナマエの太ももへと伸び、何を求めているのかその手つきで理解する。
けれど――その瞬間、心臓をぎゅっと掴まれるような恐怖がナマエの胸をよぎった。
彼に見られてしまうかもしれない。
服の下に刻まれた無数の傷跡を。
そして幻滅されてしまうのではないかという、どうしようもない不安が彼女を支配した。
ナマエはクリスの胸を押した。
「……や、やっぱり……ごめん」
そう言って俯いた。
2人の間には沈黙だけ。
何度目だろう。
いつもいつも、同じことの繰り返しだ。
寸前で拒んでしまう。
自分でもわかっている。その度にクリスを傷つけているのだと。
静まり返った部屋に、ナマエの2度目の「ごめん」という声だけが残った。
ゆっくりと身体を離し、深く息を吐くクリス。
彼女を見つめる眼差しはかすかに揺れている。
「……ナマエ。俺には…まだ何か足りないのか?」
その声には、焦燥と戸惑いが滲んでいた。
「……え?」
「何度も……その、一線を越えようとするたびに止められる。お前を大事にしたいし、無理にやりたいわけじゃない。けど……」
言葉を探すように、クリスは握った拳を膝に置いた。今までに無い彼の様子に、ナマエは思わず息を呑む。
「拒まれるたびに、俺は……まだその資格が無いのかと…信頼されていないのかと思ってしまうんだ」
「ち、違う……!クリスは……全然そんなこと……!」
慌てて首を振る。ようやく気づいた。
自分が恐怖に縛られて拒み続けたせいで、彼をここまで不安にさせてしまっていたことに。
クリスは苦しげに目を伏せた。
「なら理由を聞かせてくれないか。それとも、恋人だから全部知りたいと思うのはわがままか?」
その一言が、ナマエの胸に深く突き刺さった。
心臓が痛いほどに鳴る。彼をこれ以上傷つけないためにも、もう隠してはいられなかった。
ナマエは唇を噛みしめ、震える声で口を開く。
「……違うの。あなたのせいじゃない。……私の問題なの」
ゆっくりと顔を上げ、彼を見つめ返す。
「私……体に、たくさん傷があるの。任務でついたものが。左肩には火傷があるし、他にも……切り傷の跡が、あちこちに……」
言葉にするほどに、胸が苦しくなった。
「それを……あなたに見られたら、幻滅されるんじゃないかって……」
こんなことを聞かされても、クリスは困るだけなのに。
クリスがゆっくりと口を開く。
「……それが理由だったのか」
静かな声は、同情や戸惑いではなく、むしろ安堵を含んでいた。顔を上げると、真っ直ぐにナマエを見ているクリスが居た。
「……俺はナマエの全部が好きだと、いつも言ってるだろ」
「……でも、綺麗じゃない……」
クリスは小さく首を振り、彼女の頬を撫でた。
「綺麗だ。どんなお前も」
その真剣な瞳に、ナマエの胸が熱くなる。
怖さよりも、彼の愛情に包まれる感覚の方が強くなっていった。
「後ろを向いてくれるか?」
ぎこちなく頷き、彼に背を向ける。
クリスはそっとナマエの肩に触れた。ゆっくりと彼女の服を脱がし、左肩に残る大きな傷跡を露わにする。
ナマエは思わず目を閉じ、身体を強張らせた。
しかし次の瞬間、そこに彼の温かい唇が触れた。
「あ……っ」
驚きに声が漏れる。
クリスはナマエの傷に、ひとつ、またひとつと口づけを落としていく。
「全部、俺にとっては大事なものだ」
彼の声が、肌に触れるたびに低く響いた。
唇は肩から背中へ、そして腕の小さな傷跡へ。
まるでひとつひとつを数えるように、ていねいに辿っていく。
「ここも……ここも……お前の一部だ。大切で、愛しい」
ナマエの瞳から、思わず涙がこぼれた。
傷を恥じて隠し続けてきた心が、少しずつほどけていく。
「……クリス……」
彼へ向き直り、震える声で名前を呼んだ。
「ようやくわかってくれたか。俺はお前を全部、愛してるって」
クリスは優しく微笑んだ。
ナマエの頬に残る涙を、クリスが指先でそっと拭った。その眼差しには彼の優しさと、そして長い時間押し込めてきた深い想いが滲んでいた。
「……まだ逃げたいか?」
「ううん、……もう大丈夫」
「全部……俺に預けてくれ」
そして――その夜、二人はようやく恋人として次の一歩を踏み出した。
クリスはナマエの身体に残るどんな小さな傷跡にも口づけを落としながら、愛していると伝え続けた。
***
ナマエはクリスの腕の中で目を閉じ、大きな安堵に包まれていた。彼の胸に耳を当てれば、規則正しい鼓動が心地よい子守歌のように響く。
まぶたが重くなり眠りに落ちる寸前、彼女は呟いた。
「……クリス」
「ん?」
「ありがとう……」
彼は優しく髪を撫で、おやすみのキスを落とす。
ふわふわとした幸福感に包まれながら、ナマエは意識を手放した。
fin.
任務帰りで互いに疲れているはずなのに、自然とクリスはナマエの部屋に立ち寄っていた。二人きりで過ごす時間は、恋人になってからますます欠かせないものになっていた。
ソファに並んで座り他愛もない話をする。不意にナマエの指先に触れる、クリスの大きな手。
目が合うと、その視線の奥には優しい愛情と、抑え込んでいる熱が見える。
「……ナマエ」
名前を呼ばれただけで彼女の胸は高鳴った。
唇が触れあい、静かな部屋は甘い空間へと変わる。
クリスの手はナマエの太ももへと伸び、何を求めているのかその手つきで理解する。
けれど――その瞬間、心臓をぎゅっと掴まれるような恐怖がナマエの胸をよぎった。
彼に見られてしまうかもしれない。
服の下に刻まれた無数の傷跡を。
そして幻滅されてしまうのではないかという、どうしようもない不安が彼女を支配した。
ナマエはクリスの胸を押した。
「……や、やっぱり……ごめん」
そう言って俯いた。
2人の間には沈黙だけ。
何度目だろう。
いつもいつも、同じことの繰り返しだ。
寸前で拒んでしまう。
自分でもわかっている。その度にクリスを傷つけているのだと。
静まり返った部屋に、ナマエの2度目の「ごめん」という声だけが残った。
ゆっくりと身体を離し、深く息を吐くクリス。
彼女を見つめる眼差しはかすかに揺れている。
「……ナマエ。俺には…まだ何か足りないのか?」
その声には、焦燥と戸惑いが滲んでいた。
「……え?」
「何度も……その、一線を越えようとするたびに止められる。お前を大事にしたいし、無理にやりたいわけじゃない。けど……」
言葉を探すように、クリスは握った拳を膝に置いた。今までに無い彼の様子に、ナマエは思わず息を呑む。
「拒まれるたびに、俺は……まだその資格が無いのかと…信頼されていないのかと思ってしまうんだ」
「ち、違う……!クリスは……全然そんなこと……!」
慌てて首を振る。ようやく気づいた。
自分が恐怖に縛られて拒み続けたせいで、彼をここまで不安にさせてしまっていたことに。
クリスは苦しげに目を伏せた。
「なら理由を聞かせてくれないか。それとも、恋人だから全部知りたいと思うのはわがままか?」
その一言が、ナマエの胸に深く突き刺さった。
心臓が痛いほどに鳴る。彼をこれ以上傷つけないためにも、もう隠してはいられなかった。
ナマエは唇を噛みしめ、震える声で口を開く。
「……違うの。あなたのせいじゃない。……私の問題なの」
ゆっくりと顔を上げ、彼を見つめ返す。
「私……体に、たくさん傷があるの。任務でついたものが。左肩には火傷があるし、他にも……切り傷の跡が、あちこちに……」
言葉にするほどに、胸が苦しくなった。
「それを……あなたに見られたら、幻滅されるんじゃないかって……」
こんなことを聞かされても、クリスは困るだけなのに。
クリスがゆっくりと口を開く。
「……それが理由だったのか」
静かな声は、同情や戸惑いではなく、むしろ安堵を含んでいた。顔を上げると、真っ直ぐにナマエを見ているクリスが居た。
「……俺はナマエの全部が好きだと、いつも言ってるだろ」
「……でも、綺麗じゃない……」
クリスは小さく首を振り、彼女の頬を撫でた。
「綺麗だ。どんなお前も」
その真剣な瞳に、ナマエの胸が熱くなる。
怖さよりも、彼の愛情に包まれる感覚の方が強くなっていった。
「後ろを向いてくれるか?」
ぎこちなく頷き、彼に背を向ける。
クリスはそっとナマエの肩に触れた。ゆっくりと彼女の服を脱がし、左肩に残る大きな傷跡を露わにする。
ナマエは思わず目を閉じ、身体を強張らせた。
しかし次の瞬間、そこに彼の温かい唇が触れた。
「あ……っ」
驚きに声が漏れる。
クリスはナマエの傷に、ひとつ、またひとつと口づけを落としていく。
「全部、俺にとっては大事なものだ」
彼の声が、肌に触れるたびに低く響いた。
唇は肩から背中へ、そして腕の小さな傷跡へ。
まるでひとつひとつを数えるように、ていねいに辿っていく。
「ここも……ここも……お前の一部だ。大切で、愛しい」
ナマエの瞳から、思わず涙がこぼれた。
傷を恥じて隠し続けてきた心が、少しずつほどけていく。
「……クリス……」
彼へ向き直り、震える声で名前を呼んだ。
「ようやくわかってくれたか。俺はお前を全部、愛してるって」
クリスは優しく微笑んだ。
ナマエの頬に残る涙を、クリスが指先でそっと拭った。その眼差しには彼の優しさと、そして長い時間押し込めてきた深い想いが滲んでいた。
「……まだ逃げたいか?」
「ううん、……もう大丈夫」
「全部……俺に預けてくれ」
そして――その夜、二人はようやく恋人として次の一歩を踏み出した。
クリスはナマエの身体に残るどんな小さな傷跡にも口づけを落としながら、愛していると伝え続けた。
***
ナマエはクリスの腕の中で目を閉じ、大きな安堵に包まれていた。彼の胸に耳を当てれば、規則正しい鼓動が心地よい子守歌のように響く。
まぶたが重くなり眠りに落ちる寸前、彼女は呟いた。
「……クリス」
「ん?」
「ありがとう……」
彼は優しく髪を撫で、おやすみのキスを落とす。
ふわふわとした幸福感に包まれながら、ナマエは意識を手放した。
fin.
