Chris Redfield
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Don't Let Me Go|後編
帰宅してから、どれくらいの時間泣いていたかわからない。いつのまにか眠っていて、ふと目が覚めると22時を過ぎた頃だった。
これからシャワーも浴びなきゃいけないし、明日の準備もしないと。目はやっぱり腫れちゃうかな。
クリスと別れたことをすこしでも考えると泣いてしまうから、考えないように一生懸命別のことに頭を動かした。
そこへ玄関のチャイムが鳴った。
「はい……?」
「俺だ。クリスだ。おまえが落としたPDAを届けに来た」
どうやらクリスのところから立ち去る時に落としてしまっていたらしい。
全く気づかなかった。
個人配布されているPDAを無くしたとなると始末書ものだ。今この世で1番顔を合わせたくない人物だったが、せっかく届けてくれた手前受け取るほかなかった。
ゆっくりと玄関のドアを開け、なるべく目は合わせないようにしてそれを受け取った。
「遅いのにありがとう。……じゃあ」
そう言って扉を閉めようとしたが、クリスがそれを許してくれなかった。
扉が閉まらないよう隙間に足を入れたかと思うと、驚いて固まる私をよそにするりとこちらに入り、後ろ手に玄関の鍵をかけた。
「な、何してるの……!?」
「悪い。やっぱり最後にどうしても……理由を聞きたかった」
「理由って?」
「ナマエが俺と別れたがっていた理由だ」
私がクリスと別れたがっていた?
「あなたがフったくせに……何言ってるの」
「――は?それは違う。ナマエが俺とさっさと別れたがっていると耳にしたから、話し合う時間を作ってもらおうとさっき廊下で声をかけたんだ。そしたら……」
「え……」
クリスと私はどうも話が噛み合っていないようだった。
「そしたらお前が……。『話し合いは必要ない。これで終わりだから』って去って行ったんだろ」
クリスの声は真剣そのもので、嘘はついていないようだ。
「未練がましいのは分かってる」
「………………」
「でも俺はまだ愛しているんだ。ナマエのことを」
彼の瞳に捕らえられ、視線を逸らそうとしても逸らせない。
「だから、納得できる理由が欲しい」
クリスの口から1番聞きたかった言葉。"ナマエを愛している"。
これが何の涙なのかもう分からなかったが、嬉しいことだけは確かだった。
「クリス、私たちきっと何か勘違いしてるよ……」
「……どういうことだ?」
クリスの厚い胸に飛び込むと、彼は驚きながらも受け止めてくれた。ぎゅっと抱きつき、クリスもまた私の背中に腕を回し、優しくさすってくれる。
「私は……クリスが私に飽きたって聞いたから、もう別れたいんだって思ってた」
「な……!俺がいつそんな話をしたんだ」
クリスは驚きながら、私の肩を持って引き剥がした。
「……だって!あなたが、あの新しくきた女の子と……親しそうに話してた。
何回もそれを見たのよ。
しかも彼女が遠回しに、私に"クリスがあなたに飽きたんだって"って言ってきたから……私…….」
言葉が震え、声がかすれる。
胸の奥から溢れ出る思いを抑えきれず、私は必死に言葉をぶつけた。
「もしそれが本当なら……私、耐えられないと思ったの」
「……ナマエ」
しばしの沈黙のあと、クリスは私の名前を呼んだ。その声は優しく説得するような声だ。
「彼女と話したのは……クレアのことだ」
「クレア?」
「お前も知ってるだろ、妹だ。
クレアはまだ俺のことを心配していて、支部の知り合いに俺の近況を色々聞くらしい。彼女はクレアの知り合いで……何度か話しただけだ」
私は目を見開いた。
「それに、恋人はいるかと聞かれて答えはしたが、飽きたなんて一言も言っていない」
「……でも、じゃあ私、……」
「お前を不安にさせるために吹き込んだんだろう。……そんなものを信じて、俺を疑ったのか」
苦い色を浮かべた彼の瞳に、胸が締め付けられる思いだった。クリスは改めて私を強く抱きしめ、深く息を吸った。耳にかかる吐息がくすぐったい。
「心配なら俺に直接聞けばよかっただろう?」
「だって彼女の言葉が本当だったらって思って…」
「……ナマエだけだ。俺にはお前しかいない」
抱きしめられた身体が痛いほどで、その痛みは私を安心させるには十分過ぎるものだった。
「他人の言葉じゃなくて俺を信じて欲しい」
「……クリス……」
呼びかけた途端頬に熱い吐息がかかる。
顔を上げるより早く、唇を塞がれた。
深く、強く。
まるで不安や嫉妬をすべて飲み込んでしまうようなキスだ。
「んぅ……っ……」
背に回された腕が、逃がさないと訴えるようにさらに強くなる。唇が離された時には、乱れた息を整えるのがやっとだった。
「……伝わったか?」
「うん……」
真っ赤になった私の頬に、クリスの大きな手が添えられる。私を愛おしく思ってくれていることが、その指先から伝わった。
「……でもね、クリス……」
「うん?」
「連絡は…もっとまめに欲しい。
朝の挨拶でもいいし、テキストが苦手なら短い電話でもいいし。そしたら私もクレアもきっと、不安にならずに済むから」
「ゔぅっ………すまん、気をつける…」
罰の悪そうな顔をするクリスが可愛いと思った。
「もう一個わがまま言っていい?」
「何だ?」
「もうあの子と2人で喋ったりしないでよね。どんな変なこと言われるかわかったもんじゃ無いんだから」
「ははっ……分かってるさ。もう不安にさせるようなことはしないと誓うよ」
すれ違っていた日々を埋めるように、私たちは強く抱きしめ合った。
fin.
