Chris Redfield
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檻に閉じ込めて
夜の倉庫街は不気味なほど静かだ。
海風にかすかに錆びの匂いが混じり、街灯の影が長く伸びている。
私とクリスは並んで歩きながら、足音を極力殺して目的の建物へと近づいていた。本部の情報によれば、この倉庫には違法兵器とウイルスが密輸されている可能性があるらしい。
「……ナマエ、こっちだ」
クリスが手を上げる。彼の背にぴたりと付いて、私は狭い路地へと身を滑らせた。
その瞬間、倉庫の正面から二人組の兵士が姿を現す。思ったより近い。ライトが左右に揺れ、こちらの影を探しているようだった。
だめだ、見つかる――そう思ったとき。
クリスに腕をぐいっと引かれ、私はコンテナの物陰に押し込められた。クリスは片腕を私の頭上につき体を密着させてくる。
彼の大きな体は完全に私を覆い隠し、暗がりに二人分の影が溶けた。
顔を上げれば、わずか数センチ先にクリスの横顔が。硬く結ばれた口元。そして緊張で研ぎ澄まされた瞳は敵兵から目を離すまいと鋭く光っている。
「……動くな」
クリスは私に静かに囁いた。
兵士の足音が近づく。私は息を止め、見つからないように祈ることしかできなかった。けたたましく鳴る心臓の音。その音でバレるかもしれないと思うほどだった。
やがて足音は遠ざかり、巡回兵はどこかへ消えた。
「……よし、行くぞ」
クリスはすぐに体を離し、何事もなかったかのように前を向いた。
追いかけるように必死に足を動かしながら、思わず自分の胸に手を当てた。
……何今の。胸が苦しい。
心臓がバクバクして、さっきまでの緊張よりもずっと強く乱されてる。
もしかして、これって……クリスのせい?
***
あれから任務は無事に終了した。証拠品を押収し、倉庫街を後にする。
基地に戻って報告を済ませ、解散になったのは深夜を過ぎてからだった。
「お疲れ、ナマエ」
クリスがいつも通りの声でそう言った。
「うん……ありがとう、クリス」
普段と何も変わらない口調なのに、私はどうしてもさっきの出来事を思い出してしまう。彼は冷静に振る舞っていたけれど、私は全然平常心じゃなかった。思い出すだけで胸が早鐘を打つ。
……まさかあの数秒でクリスを好きになったとか?
いや、そんなことは…。
というのも彼とは長い付き合いだし、今更私がそんな気を起こすなんて少しも考えていなかった。でも、こんなドキドキは"恋"以外に知らない。
この気持ちが本当にそうなのかどうしても確かめたくなった。
「……ねえクリス」
「ん?」
歩き出そうとした彼を、思わず呼び止めていた。
「その……今からすんごく変なお願いをするんだけどね」
「なんだ?」
不思議そうに眉を寄せるクリス。
私は深呼吸をして、思い切って言った。
「もう一回壁ドンしてみて?」
クリスは分かりやすく目を見開いて固まった。
「……は?」
「いや、その……!さっきの任務のときのアレ! 私なんかドキドキしちゃって……」
自分でも顔が真っ赤になってるのがわかる。けど止められない。
「だからこれがどういう気持ちなのか……いま2人きりだし確かめたいなって……思って…」
馬鹿なお願いをしているのは百も承知だが、クリスが何も言わずに固まったままこちらを見ていることに耐えられず、声はどんどん尻すぼみになっていった。
「……本気で言ってるのか?」
「う、うん……。本気だよ…」
その言葉を聞き、ゆっくりと私に近づいてくるクリス。私は思わず後退りした。
自分から頼んだくせに逃げたのは、きっとクリスの熱っぽい視線のせいだ。
壁に背が付きこれ以上は逃げられない。彼が私の頭の上に左腕をつく。思わず押し返そうと出した私の手は、彼の右手でホールドされてしまい身動きが取れなくなってしまった。
「……こうか?」
耳のすぐ横で低く掠れた声。
「あ……」
腰のあたりがぞわりとした。
壁際に閉じ込められたまま、私はごくりと唾を飲み込んだ。クリスを見上げると、その瞳が真っ直ぐに私を射抜いている。こんなに近いのに彼は目を逸らさない。
「ナマエ……」
クリスは私の名前を呟くと、優しく私の頬に触れた。大きな手のひらは温かくて、少し荒れた指先が肌をなぞる。
「お前は……鈍感すぎる」
「え…?」
頬を包んでいた手は私の腰へと回される。
「こんなことを頼まれて、俺がどんな気持ちになるかお前に分かるか」
真剣な声なのに、いつものクリスとは違う人のようだった。
「俺たちの関係を崩したくなくて必死で気持ちを隠してきたんだ。それなのに」
腰を引き寄せられ、身体がぴたりと重なった。胸板の硬さと熱に触れ、頭が真っ白になる。
「どうして俺を煽る?」
「クリス…どういう……」
「自分で考えるんだな」
予想だにしなかった展開に、頭の中はぐるぐると忙しく動いている。
もしかしなくてもクリスは……私のことが好き?
「で、どうなんだ」
「どうって?」
「確かめるんだろう?ドキドキした意味を」
「えっと……ちょっと…今ちゃんと考えられない……一旦ストップ、」
「ナマエ……だめだ。逃さん」
熱い吐息がかかり、次の瞬間、唇を塞がれた。
驚いてクリスを押しのけようとするも、私の力では彼に勝てるはずもない。
必死に彼の腕に縋ると、腰をがっちりと掴まれて逃げ場を奪われた。
「待っ……く、クリス……っ」
どうにか名前を呼んだとき、彼は一度だけ唇を離し切なげに私を見つめた。
しかしすぐさま彼の手が後頭部へ回り、また口づけを深められる。私はされるがままに彼の欲を受け入れていた。
しばらくして、名残惜しそうに唇が離れた。
乱れた呼吸を整えながらクリスを見上げる。彼はやってしまったと言わんばかりの苦しげな表情をしていた。
それがなんとも愛しく思えて、思わず彼の頭を撫でた。
――あぁ、そうか。
「……私やっぱりクリスのこと好きなんじゃん……」
いつの間にかそう口からこぼれていた。
それを聞いた彼の瞳が大きく揺れたかと思うと、すぐに深い安堵の色が浮かんだ。強く抱きしめられ、背中に回った腕の力が増す。
「………よかった……っ」
彼の声は少し震えていて、それがどれほどの想いを押し殺してきたのかを物語っていた。
彼の腕の中で、私はただその温もりに包まれていた。広い胸板に額を押しつけると、規則正しい鼓動が耳に響いてくる。けれどそのリズムは少し早くて――私の心臓と同じ速さで打っていた。
今度は彼が私の頭を撫でて、体の奥からじんわりと幸福感が満ちていく。
私はもう、クリスから離れられない。
そんな確信が自然に心に芽生えた。
***
「急にあんなことしちゃダメだよ」
「キスの話か?」
「うん」
「ナマエが泣いて俺を拒否してたら、BSAAを辞めてたかもしれないな」
「後先考えずに行動しすぎじゃない……?」
fin.
夜の倉庫街は不気味なほど静かだ。
海風にかすかに錆びの匂いが混じり、街灯の影が長く伸びている。
私とクリスは並んで歩きながら、足音を極力殺して目的の建物へと近づいていた。本部の情報によれば、この倉庫には違法兵器とウイルスが密輸されている可能性があるらしい。
「……ナマエ、こっちだ」
クリスが手を上げる。彼の背にぴたりと付いて、私は狭い路地へと身を滑らせた。
その瞬間、倉庫の正面から二人組の兵士が姿を現す。思ったより近い。ライトが左右に揺れ、こちらの影を探しているようだった。
だめだ、見つかる――そう思ったとき。
クリスに腕をぐいっと引かれ、私はコンテナの物陰に押し込められた。クリスは片腕を私の頭上につき体を密着させてくる。
彼の大きな体は完全に私を覆い隠し、暗がりに二人分の影が溶けた。
顔を上げれば、わずか数センチ先にクリスの横顔が。硬く結ばれた口元。そして緊張で研ぎ澄まされた瞳は敵兵から目を離すまいと鋭く光っている。
「……動くな」
クリスは私に静かに囁いた。
兵士の足音が近づく。私は息を止め、見つからないように祈ることしかできなかった。けたたましく鳴る心臓の音。その音でバレるかもしれないと思うほどだった。
やがて足音は遠ざかり、巡回兵はどこかへ消えた。
「……よし、行くぞ」
クリスはすぐに体を離し、何事もなかったかのように前を向いた。
追いかけるように必死に足を動かしながら、思わず自分の胸に手を当てた。
……何今の。胸が苦しい。
心臓がバクバクして、さっきまでの緊張よりもずっと強く乱されてる。
もしかして、これって……クリスのせい?
***
あれから任務は無事に終了した。証拠品を押収し、倉庫街を後にする。
基地に戻って報告を済ませ、解散になったのは深夜を過ぎてからだった。
「お疲れ、ナマエ」
クリスがいつも通りの声でそう言った。
「うん……ありがとう、クリス」
普段と何も変わらない口調なのに、私はどうしてもさっきの出来事を思い出してしまう。彼は冷静に振る舞っていたけれど、私は全然平常心じゃなかった。思い出すだけで胸が早鐘を打つ。
……まさかあの数秒でクリスを好きになったとか?
いや、そんなことは…。
というのも彼とは長い付き合いだし、今更私がそんな気を起こすなんて少しも考えていなかった。でも、こんなドキドキは"恋"以外に知らない。
この気持ちが本当にそうなのかどうしても確かめたくなった。
「……ねえクリス」
「ん?」
歩き出そうとした彼を、思わず呼び止めていた。
「その……今からすんごく変なお願いをするんだけどね」
「なんだ?」
不思議そうに眉を寄せるクリス。
私は深呼吸をして、思い切って言った。
「もう一回壁ドンしてみて?」
クリスは分かりやすく目を見開いて固まった。
「……は?」
「いや、その……!さっきの任務のときのアレ! 私なんかドキドキしちゃって……」
自分でも顔が真っ赤になってるのがわかる。けど止められない。
「だからこれがどういう気持ちなのか……いま2人きりだし確かめたいなって……思って…」
馬鹿なお願いをしているのは百も承知だが、クリスが何も言わずに固まったままこちらを見ていることに耐えられず、声はどんどん尻すぼみになっていった。
「……本気で言ってるのか?」
「う、うん……。本気だよ…」
その言葉を聞き、ゆっくりと私に近づいてくるクリス。私は思わず後退りした。
自分から頼んだくせに逃げたのは、きっとクリスの熱っぽい視線のせいだ。
壁に背が付きこれ以上は逃げられない。彼が私の頭の上に左腕をつく。思わず押し返そうと出した私の手は、彼の右手でホールドされてしまい身動きが取れなくなってしまった。
「……こうか?」
耳のすぐ横で低く掠れた声。
「あ……」
腰のあたりがぞわりとした。
壁際に閉じ込められたまま、私はごくりと唾を飲み込んだ。クリスを見上げると、その瞳が真っ直ぐに私を射抜いている。こんなに近いのに彼は目を逸らさない。
「ナマエ……」
クリスは私の名前を呟くと、優しく私の頬に触れた。大きな手のひらは温かくて、少し荒れた指先が肌をなぞる。
「お前は……鈍感すぎる」
「え…?」
頬を包んでいた手は私の腰へと回される。
「こんなことを頼まれて、俺がどんな気持ちになるかお前に分かるか」
真剣な声なのに、いつものクリスとは違う人のようだった。
「俺たちの関係を崩したくなくて必死で気持ちを隠してきたんだ。それなのに」
腰を引き寄せられ、身体がぴたりと重なった。胸板の硬さと熱に触れ、頭が真っ白になる。
「どうして俺を煽る?」
「クリス…どういう……」
「自分で考えるんだな」
予想だにしなかった展開に、頭の中はぐるぐると忙しく動いている。
もしかしなくてもクリスは……私のことが好き?
「で、どうなんだ」
「どうって?」
「確かめるんだろう?ドキドキした意味を」
「えっと……ちょっと…今ちゃんと考えられない……一旦ストップ、」
「ナマエ……だめだ。逃さん」
熱い吐息がかかり、次の瞬間、唇を塞がれた。
驚いてクリスを押しのけようとするも、私の力では彼に勝てるはずもない。
必死に彼の腕に縋ると、腰をがっちりと掴まれて逃げ場を奪われた。
「待っ……く、クリス……っ」
どうにか名前を呼んだとき、彼は一度だけ唇を離し切なげに私を見つめた。
しかしすぐさま彼の手が後頭部へ回り、また口づけを深められる。私はされるがままに彼の欲を受け入れていた。
しばらくして、名残惜しそうに唇が離れた。
乱れた呼吸を整えながらクリスを見上げる。彼はやってしまったと言わんばかりの苦しげな表情をしていた。
それがなんとも愛しく思えて、思わず彼の頭を撫でた。
――あぁ、そうか。
「……私やっぱりクリスのこと好きなんじゃん……」
いつの間にかそう口からこぼれていた。
それを聞いた彼の瞳が大きく揺れたかと思うと、すぐに深い安堵の色が浮かんだ。強く抱きしめられ、背中に回った腕の力が増す。
「………よかった……っ」
彼の声は少し震えていて、それがどれほどの想いを押し殺してきたのかを物語っていた。
彼の腕の中で、私はただその温もりに包まれていた。広い胸板に額を押しつけると、規則正しい鼓動が耳に響いてくる。けれどそのリズムは少し早くて――私の心臓と同じ速さで打っていた。
今度は彼が私の頭を撫でて、体の奥からじんわりと幸福感が満ちていく。
私はもう、クリスから離れられない。
そんな確信が自然に心に芽生えた。
***
「急にあんなことしちゃダメだよ」
「キスの話か?」
「うん」
「ナマエが泣いて俺を拒否してたら、BSAAを辞めてたかもしれないな」
「後先考えずに行動しすぎじゃない……?」
fin.
