Chris Redfield
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イチマイウワテ
その夜私はクリスの部屋で一人、ソファに寝転がっていた。支部までは車で十分ほど。クリスが今日の任務を終えると帰ってくる予定で、オフの私が先に部屋で待っている。
家主不在の少し乱雑な部屋にはまだ彼の気配が残っていて、ソファに座っているだけで安心するような、逆に胸がそわそわするような不思議な感覚になってしまう。
それにしても今日は「早めに帰る」と言っていたのに、時計の針はもう予定の時刻を大きく過ぎていた。壁掛けの秒針が一周するたびに、胸の中で淡い期待と不安がせめぎ合う。
「急にどこかに駆り出されたのかな……でも、そうなら連絡くれるよね」
テレビからはバラエティ番組の笑い声が響くが、まったく頭に入ってこない。
夕方にシャワーを浴びて髪を乾かし、部屋着に着替えてリラックスしている。待っている時間が長すぎてすっかり体がだらけてしまった。ソファからベッドへ移動し、連絡の入らないスマホを眺めてはため息をついた。
やがてまぶたが重くなり、思考も途切れがちになる。
(今日は一緒にゆっくり過ごせると思ったのにな…)
そんな寂しさを最後に、いつの間にか私はそのままベッドで眠りに落ちていた。
***
どれくらい時間が経ったのだろう。玄関の方で鍵が開く小さな音がして、私はふと目を覚ました。部屋の灯りは落としてあったから、外の光が差し込む気配でようやく「帰ってきた」と理解する。
胸の奥がほっと緩む。でもすぐに、ある悪戯心が頭をよぎった。
クリスを驚かせてやろう。
目を閉じたまま寝息を装う。シーツを軽く握りしめ、心臓の高鳴りを抑えようとした。
ジャケットを脱ぎハンガーに掛ける音。手を洗い、冷蔵庫から水を取る音。生活の音が少しずつ近づいてきた。私の耳は敏感になりすぎていて、クリスのひとつひとつの仕草が手に取るように伝わってくる。
「ナマエ?」
彼の声が廊下の方から聞こえた。心臓がドキリと跳ねる。足音がこちらに向かってきて、やがて寝室のドアが開いた。
「……寝てるのか」
少し残念そうな声。まぶたを閉じているのに、彼の姿が目に浮かぶようだった。
寝息を整えたまま、私は背中越しに彼の気配を感じ取っていた。ベッドの傍に腰を下ろす衣擦れの音がして、すぐに大きな手が私の頭を撫でた。
ごつごつした指先なのに、撫でられると驚くほど優しい。額から髪をすくい頬をなぞる仕草に、心臓の鼓動が速くなる。「おかえり!」と飛び起きようとしたのに、触れられる心地よさに体がすっかり固まってしまった。
手はやがて首筋から肩へ、ゆっくりと輪郭をなぞるように降りていく。腰のあたりまで辿りついたかと思うと、不意にその大きな手でお尻をキュッと掴まれた。
「……っ!」
声にならない声が喉から漏れる。呼吸が乱れないように必死で装いながら唇を噛んだ。
耳元にクリスの温かい吐息がかかり、すぐに唇の柔らかな感触が耳たぶに触れた。
さらに彼は私の服の中に手を入れお腹を少しさすったかと思えば、スルリと下着に指をかける。
「あっ……! ちょ、ちょっとストップ!!」
慌てて振り返ると、クリスが片眉を上げ悪戯っぽく笑っていた。
「……やっぱり起きてたか」
顔が一気に熱くなる。寝たふりをしていたことも、触れられて心が乱れたことも、全て見透かされていたのだと思うと恥ずかしくて仕方がなかった。
「そんなにわかりやすかった…?」
「寝息が普段と違う。あと……耳が赤かった」
ニヤリとからかうように囁かれ、私は彼の胸に顔を押しつけた。心臓が爆発しそうで、うまく言葉が出てこない。
クリスはそんな私の反応を楽しんでいるのか、ひとしきり笑ったあと立ち上がった。
「シャワーを浴びてくる。続きは後でな」
落ち着いた声がずるいと思った。憎たらしいほどの余裕と、甘い期待を残す言葉。
ドアが閉まる音がした後も、私は布団から動けなかった。
――「続き」ってどういう意味で言ったの……?
甘美な予感に、眠気などとうに吹き飛んでいた。
fin.
その夜私はクリスの部屋で一人、ソファに寝転がっていた。支部までは車で十分ほど。クリスが今日の任務を終えると帰ってくる予定で、オフの私が先に部屋で待っている。
家主不在の少し乱雑な部屋にはまだ彼の気配が残っていて、ソファに座っているだけで安心するような、逆に胸がそわそわするような不思議な感覚になってしまう。
それにしても今日は「早めに帰る」と言っていたのに、時計の針はもう予定の時刻を大きく過ぎていた。壁掛けの秒針が一周するたびに、胸の中で淡い期待と不安がせめぎ合う。
「急にどこかに駆り出されたのかな……でも、そうなら連絡くれるよね」
テレビからはバラエティ番組の笑い声が響くが、まったく頭に入ってこない。
夕方にシャワーを浴びて髪を乾かし、部屋着に着替えてリラックスしている。待っている時間が長すぎてすっかり体がだらけてしまった。ソファからベッドへ移動し、連絡の入らないスマホを眺めてはため息をついた。
やがてまぶたが重くなり、思考も途切れがちになる。
(今日は一緒にゆっくり過ごせると思ったのにな…)
そんな寂しさを最後に、いつの間にか私はそのままベッドで眠りに落ちていた。
***
どれくらい時間が経ったのだろう。玄関の方で鍵が開く小さな音がして、私はふと目を覚ました。部屋の灯りは落としてあったから、外の光が差し込む気配でようやく「帰ってきた」と理解する。
胸の奥がほっと緩む。でもすぐに、ある悪戯心が頭をよぎった。
クリスを驚かせてやろう。
目を閉じたまま寝息を装う。シーツを軽く握りしめ、心臓の高鳴りを抑えようとした。
ジャケットを脱ぎハンガーに掛ける音。手を洗い、冷蔵庫から水を取る音。生活の音が少しずつ近づいてきた。私の耳は敏感になりすぎていて、クリスのひとつひとつの仕草が手に取るように伝わってくる。
「ナマエ?」
彼の声が廊下の方から聞こえた。心臓がドキリと跳ねる。足音がこちらに向かってきて、やがて寝室のドアが開いた。
「……寝てるのか」
少し残念そうな声。まぶたを閉じているのに、彼の姿が目に浮かぶようだった。
寝息を整えたまま、私は背中越しに彼の気配を感じ取っていた。ベッドの傍に腰を下ろす衣擦れの音がして、すぐに大きな手が私の頭を撫でた。
ごつごつした指先なのに、撫でられると驚くほど優しい。額から髪をすくい頬をなぞる仕草に、心臓の鼓動が速くなる。「おかえり!」と飛び起きようとしたのに、触れられる心地よさに体がすっかり固まってしまった。
手はやがて首筋から肩へ、ゆっくりと輪郭をなぞるように降りていく。腰のあたりまで辿りついたかと思うと、不意にその大きな手でお尻をキュッと掴まれた。
「……っ!」
声にならない声が喉から漏れる。呼吸が乱れないように必死で装いながら唇を噛んだ。
耳元にクリスの温かい吐息がかかり、すぐに唇の柔らかな感触が耳たぶに触れた。
さらに彼は私の服の中に手を入れお腹を少しさすったかと思えば、スルリと下着に指をかける。
「あっ……! ちょ、ちょっとストップ!!」
慌てて振り返ると、クリスが片眉を上げ悪戯っぽく笑っていた。
「……やっぱり起きてたか」
顔が一気に熱くなる。寝たふりをしていたことも、触れられて心が乱れたことも、全て見透かされていたのだと思うと恥ずかしくて仕方がなかった。
「そんなにわかりやすかった…?」
「寝息が普段と違う。あと……耳が赤かった」
ニヤリとからかうように囁かれ、私は彼の胸に顔を押しつけた。心臓が爆発しそうで、うまく言葉が出てこない。
クリスはそんな私の反応を楽しんでいるのか、ひとしきり笑ったあと立ち上がった。
「シャワーを浴びてくる。続きは後でな」
落ち着いた声がずるいと思った。憎たらしいほどの余裕と、甘い期待を残す言葉。
ドアが閉まる音がした後も、私は布団から動けなかった。
――「続き」ってどういう意味で言ったの……?
甘美な予感に、眠気などとうに吹き飛んでいた。
fin.
