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壱 月の顕現

「確か、護衛の依頼だったか」

 太宰さんを何処かへ放置したまま、国木田さんが応接間へ戻ってくる。そして零さんの座るソファの正面に腰を下ろしたので、僕もそれに習って国木田さんの隣の空いた空間に座った。

「まあー、そんなとこですかね」

 恰も他人事のように彼女がそう云う。ナオミさんの出してくれた紅茶を一口飲み、僕は聞いた。

「矢っ張り、仕事絡みですか?」
「それが大半の理由ですかね。ライブも近いし、『いい加減しっかりとしたところに警護を頼め』と社員に云われてしまいまして」

 眉をハの字に下げ、困り顔で笑う。社員という言葉が指すのは、零さんの会社で働く人のことだろう。
 先程谷崎さんに云われて驚いた。彼女の持つ職業の多さに、だ。
 歌い手、社長、税理士、衣装スタイリスト、小説家。……いや多すぎない!?
 一応税理士を本職としているらしい……が。此れ、年収幾らなんだろう。迚気になる。
 流石に聞く勇気はないので、黙っておくことにしよう。気にはなる。気にはなるが。

「ライブの日程は?」
「二週間後です。ただ、最近ちょっと変な人たちがいるので長期で依頼をお願いしたいんですよね…出来ます?」

 手帳を片手に予定を確認しつつ、国木田さんと零さんは淡々と話を進めていく。

「では、今後の予定はこんなところか。期間が長いからな。複数の社員で交代制にしようと思うが、構わないか?」
「勿論。ずっとこの依頼だけに着手してるわけにはいかないと思いますし」

 紅茶の注がれた陶器からはまだ湯気が立っていて、二人の仕事の早さが伺える。流石だな、国木田さん……。
 話がついたのか、零さんは自分の荷物をまとめ始める。そして、カップに残った紅茶を飲み干してソファから立ち上がった。

「本日はありがとうございました。明日からよろしくお願いしますね」

 大変だと思いますけど頑張ってください、と笑って扉へ向かう零さん。

「敦、見送りを」
「あ、はい!」
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