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弐 天才と才人と凡人

「さて、零ちゃん。案内といってもここを全て見て回るには時間が足りない。何処に行くかはもう決めているのかい?」
「そうだなあ⋯⋯とりあえず、君たちが出入りすることになるであろう場所と私がよくいる場所だけ回ろうか」

 彼女はそう言って、ゲートを通るための会員証を中島敦と太宰治に渡す。硬質カードケースに入っており、名前が大きめにプリントされているそれは正社員である零が掲げたものとは少し違う。顔写真が入っているのだ。
 一体どこで撮ったのだろう。そんな中島敦の疑問が見えたのか、ピッと会員証をかざしてゲートをくぐった零は言う。中島敦も太宰治も、まだゲートを通ってはいなかった。

「ああ、その写真? 安心してよ、盗撮とかじゃないから」
「じゃあ、誰にもらったんですか?」
「君たちの社長さんー。逆にそれ以外誰がいるっていうのさ」

 ごく当たり前のことである。だが、どちらかと言えば誰にもらったかよりもなぜわざわざ顔写真を載せているかを聞きたかった。

「いや、まあそれはそうなんですが⋯⋯」
「聞きたいのはなぜ写真が載っているのか、だろう?」

 中島敦の心情を代弁するように太宰治が言葉を発する。
 そうなのだ。この零の行動はあまりにも非生産的である。護衛依頼としてゲートを潜るための会員証など必要はないし、顔見知りかつ受付時に顔パスという形でゲートは通れるはずなのだ。
 なので、太宰治としても気になる点の一つではあった。もちろん、頭脳明晰な彼のことだから確認程度という認識ではあっただろうが。

「あー、それねー。正社員とかだったらこっちも顔をよく見てるけど、君たち武装探偵社の面子はそうはいかなくてさ。だから、なんていうの? いわゆる学生証っぽい感覚で、ここでの身分証明書的な?」

 納得のいく回答。わざわざコストをかけてまで行うべきことだと彼女が判断したかどうかは別として、少なくとも社員は気にするのだろう。護衛とは言えど知らぬ人々を自分たちの頂点である天才の拠点へ招き入れるのだから。

「さて、謎も解けたとこだし。行こうか」

 ゲートの奥。天才の拠点。零は笑って、白い廊下を進んでいった。
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