scene♯1
安堂千世(あんどうちよ)は、最近ほぼ毎日アルバイト先の喫茶店で見かける男のことを不思議に思っていた。
黒のスーツに黒の帽子、顎には髭を生やし毎回同じコーヒーを頼む。
煙草を吸いながら窓の外を眺めるかたまにスマートフォンを見るだけ。
コーヒーを飲み干すと、灰皿に短くなった煙草を押し付けて帰っていくのだ。
「安堂さん、コーヒー喫煙席の三番テーブルによろしくね」
「えー、またですかぁ!?」
厨房から男性のアルバイト店員によって出されるコーヒーカップを受け取り、千世は大きく溜め息をついた。
千世は先輩店員の男性に少しだけ近づき、小声で言う。
「あの人、何日も何日もあの席に座るしコーヒーばかり頼んで煙草吸って帰っていくんですよ。なにかを観察しているみたいで…怖くないですか?」
「なにかの偵察かな?探偵かいや、刑事さん?」
「えー、それよりも怪しすぎません?」
千世はトレイにコーヒーカップを載せ、行ってきまーすと先輩から離れた。
分煙されている喫煙席のある方に入り、三番テーブルの前に立った。
ひどい煙草の匂い。
それに、帽子の隙間からギロリと鋭い目を千世に向けるスーツの男。
その男の異様な雰囲気に千世は恐怖を感じた。
普通の人ではないあえて言うのなら……殺し屋。
「おっ、おまたせいたしました。コーヒーになります」
「……すまねえな」
スーツの男は無表情でコーヒーカップを受け取ると、静かにコーヒーを味わいはじめた。
「……ご、ごゆっくりどうぞっ!」
恐ろしくなった千世は一礼して、真っ先にさっきいた場所に戻った。
先輩は、千世に気づき厨房から顔を覗かせる。
「どうだった、安堂さん」
「すっっっごく怖かったです、殺し屋かと思いましたよ。でも……そんなでもないみたいです」
「……なんだよそりゃあ」
しっし、と先輩は千世に向かって追い払うように手を振る。
すみませーん、とふざけたように千世が明るく先輩に言うと次にオーダーが入った席に彼女は急いで向かう。
だが、なぜか千世の耳にはスーツの男の低い声が残って何時間も消えなかったのだ。
黒のスーツに黒の帽子、顎には髭を生やし毎回同じコーヒーを頼む。
煙草を吸いながら窓の外を眺めるかたまにスマートフォンを見るだけ。
コーヒーを飲み干すと、灰皿に短くなった煙草を押し付けて帰っていくのだ。
「安堂さん、コーヒー喫煙席の三番テーブルによろしくね」
「えー、またですかぁ!?」
厨房から男性のアルバイト店員によって出されるコーヒーカップを受け取り、千世は大きく溜め息をついた。
千世は先輩店員の男性に少しだけ近づき、小声で言う。
「あの人、何日も何日もあの席に座るしコーヒーばかり頼んで煙草吸って帰っていくんですよ。なにかを観察しているみたいで…怖くないですか?」
「なにかの偵察かな?探偵かいや、刑事さん?」
「えー、それよりも怪しすぎません?」
千世はトレイにコーヒーカップを載せ、行ってきまーすと先輩から離れた。
分煙されている喫煙席のある方に入り、三番テーブルの前に立った。
ひどい煙草の匂い。
それに、帽子の隙間からギロリと鋭い目を千世に向けるスーツの男。
その男の異様な雰囲気に千世は恐怖を感じた。
普通の人ではないあえて言うのなら……殺し屋。
「おっ、おまたせいたしました。コーヒーになります」
「……すまねえな」
スーツの男は無表情でコーヒーカップを受け取ると、静かにコーヒーを味わいはじめた。
「……ご、ごゆっくりどうぞっ!」
恐ろしくなった千世は一礼して、真っ先にさっきいた場所に戻った。
先輩は、千世に気づき厨房から顔を覗かせる。
「どうだった、安堂さん」
「すっっっごく怖かったです、殺し屋かと思いましたよ。でも……そんなでもないみたいです」
「……なんだよそりゃあ」
しっし、と先輩は千世に向かって追い払うように手を振る。
すみませーん、とふざけたように千世が明るく先輩に言うと次にオーダーが入った席に彼女は急いで向かう。
だが、なぜか千世の耳にはスーツの男の低い声が残って何時間も消えなかったのだ。