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◇芽生え

――近隣、滝どころ付近。

「竹千代、近場の滝って言うと、ここだろうな?」

「ああ、そうだな」

家康と忠勝は馬から降り、それぞれ馬をそこで待たせた。

森林の中だからだろうか、朝日がまだ昇っていないからだろうか。

辺りは静まり返っており、少し先の方から清らかな滝の流れ落ちる音が二人の心を穏やかにする。

家康は少しばかり清らかな水の音に耳を傾けていたが、気の早い忠勝は歩き始める。

その後を追うように家康も歩き出した。


大小さまざまな石からなる道をバランスを崩さないよう踏みしめながら少し歩くと、大きな滝が眼前に現れた。

より一層大きな音を傍に感じながら、家康は半蔵の姿を探すため辺りを見回した。

「何だよ、おっさんいねぇじゃねぇか。一体どこで滝に当たってんだか」

腕を組んで、軽く溜息をつく忠勝に家康は少し残念そうな表情でつぶやく。

「ああ、ここではないようだな…」


「――何奴…」

ふとどこからともなく忠勝に向かって最速で手裏剣が飛んでくる。

「っ!?」

不意打ちを食らった忠勝だったが、いざという時にと所持していた槍でそれを弾き返した。

金属音が轟き、幾つもの手裏剣が地に落ちた。

「平八郎…!何故ここにおる。」

濡れた銀髪を揺らしながら、姿を現したのが、半蔵である。

二人の姿を認めた半蔵は警戒心を解いた。

「おっさん!急に何すんだよ」

「半蔵、平八はわたしの護衛にと同行を申し出てくれたのだ」

「…されど若、何故故ここまで」

深い切り傷の跡の残る片目共に双眸を細め、少しばかり驚きの色を滲ませた表情で半蔵は家康に問いかけた。

「半蔵…そなたの鍛錬の姿を一度見てみたかったのだ。さすれば私もより一層励めるのではないかと思ってな」

口元に浮かべていた笑みを深めればまたも素直に答える家康に、半蔵は頬を僅かに緩め一つ頷くと微笑んだ。

「左様でござったか…」

家康が半蔵の姿にいつもと違うと感じたのは、まさに服装だった。

白の行衣が濡れ半蔵の逞しい体が露になっていた。

鍛錬の積み重ねのせいだろうか。体の至る所に古傷がいくつもついている。

服部半蔵…彼がそばを離れずにいてくれたからこそ、今まで生き延びられたのかもしれない。

そう思った家康であったが、普段あまり見慣れぬ忍着の下に隠された

その体に何故か心がざわめき、思わず視線を逸らしてしまった。

家康は自らの頬に熱が灯るのを感じた。
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    感服!