◇芽生え
――寅の刻。三河のとある城内。
「ん…」
床で目を覚ました家康はゆっくりと体を起こした。
いつ命を狙われるか分からないだろうと、家康の傍らで用心棒をすると名乗りを上げた忠勝が壁に寄りかかり眠っていた。
その涎を垂らし眠っている忠勝の姿に思わず家康は微笑ってしまいながら小さくつぶやく。
「…用心棒をすると言ったのは平八だろう…」
家康は忠勝を起こさないようにゆっくりと立ち上がると、少し乱れている寝間着を直し、踏みなれた畳を踏み、障子を開けると廊下へと出た。
まだ辺りは薄暗く、朝日が昇るにはまだ少しばかり時間がありそうだと、空を眺めた家康は思った。
「半蔵…」
いつもならば、自分の姿を見たら目前の庭にある、大木上から降りてくるのだが、その気配はない。
家康はふと思い出した。用心棒に名乗り出た忠勝だったが、その理由の一つとしていつも傍にいる半蔵は今日、滝行に出る日だからである。
「半蔵はいつ眠っているのだろうか…」
片時も傍を離れない半蔵に対して以前から疑問視している事の一つだった。
(確か近場の滝に出向くと言っていたな…)
自らも日々鍛錬を怠らないが、半蔵はそれ以上に鍛えているのだろうと思うと、どのような事をしているのか気になってきた。
(少しばかり様子を見に行こう…)
「おい、竹千代、どこ行くんだ?」
起こさないように気を付けてはいたものの、武士の一人である忠勝に気付かれてしまった。
「平八、起こしてしまってすまない。少しばかり半蔵の様子を見に行きたくてな」
「いや、俺も眠っちまって悪かったな。あ?おっさんの様子をか?また何でだよ、急に」
眉を潜めて問いかける忠勝に、家康はまっすぐに忠勝を見つめ素直に答える。
「半蔵はいつもそつがない。一人の武士としてどのように鍛錬をしているのか見に行ってみたいのだ。」
「分ったぜ、竹千代。だったら俺も行く。お前を一人で行かせたら、それこそおっさんに小言を言われかねねえしな。」
忠勝が再度名乗りを上げると、家康はふと微笑んだ。
「ああ。頼むぞ。」
「ん…」
床で目を覚ました家康はゆっくりと体を起こした。
いつ命を狙われるか分からないだろうと、家康の傍らで用心棒をすると名乗りを上げた忠勝が壁に寄りかかり眠っていた。
その涎を垂らし眠っている忠勝の姿に思わず家康は微笑ってしまいながら小さくつぶやく。
「…用心棒をすると言ったのは平八だろう…」
家康は忠勝を起こさないようにゆっくりと立ち上がると、少し乱れている寝間着を直し、踏みなれた畳を踏み、障子を開けると廊下へと出た。
まだ辺りは薄暗く、朝日が昇るにはまだ少しばかり時間がありそうだと、空を眺めた家康は思った。
「半蔵…」
いつもならば、自分の姿を見たら目前の庭にある、大木上から降りてくるのだが、その気配はない。
家康はふと思い出した。用心棒に名乗り出た忠勝だったが、その理由の一つとしていつも傍にいる半蔵は今日、滝行に出る日だからである。
「半蔵はいつ眠っているのだろうか…」
片時も傍を離れない半蔵に対して以前から疑問視している事の一つだった。
(確か近場の滝に出向くと言っていたな…)
自らも日々鍛錬を怠らないが、半蔵はそれ以上に鍛えているのだろうと思うと、どのような事をしているのか気になってきた。
(少しばかり様子を見に行こう…)
「おい、竹千代、どこ行くんだ?」
起こさないように気を付けてはいたものの、武士の一人である忠勝に気付かれてしまった。
「平八、起こしてしまってすまない。少しばかり半蔵の様子を見に行きたくてな」
「いや、俺も眠っちまって悪かったな。あ?おっさんの様子をか?また何でだよ、急に」
眉を潜めて問いかける忠勝に、家康はまっすぐに忠勝を見つめ素直に答える。
「半蔵はいつもそつがない。一人の武士としてどのように鍛錬をしているのか見に行ってみたいのだ。」
「分ったぜ、竹千代。だったら俺も行く。お前を一人で行かせたら、それこそおっさんに小言を言われかねねえしな。」
忠勝が再度名乗りを上げると、家康はふと微笑んだ。
「ああ。頼むぞ。」
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