忍
誰もいない真っ暗な部屋に戻ったカカシは、無造作に外した狐の面を放るようにして机に置いた。
仲間内から亡骸を出す事はなかったが、現状は酷かった。
汚れた身なりは洗い流すべきだろうが、既に体力は限界がきている。
横になりたい……。
投げ出した重い身体は、そのままベッドに深く沈んでいった。
意識の片隅が覚醒し始める。
泥のように眠っていたが、気配を感じれば目が冴えてしまうのは忍の宿命。
ここは敵地ではない。自分の生まれ育った里。それでも片時も油断はできない。身についてしまった悲しき習性。
ただ、それだけではない。
身体の隅々が覚えた気配であれば、自然と反応してしまう。
ベッドが小さく軋んだ。
横向きで寝ていたところを、背後からそっと抱きしめられる。
互いの身体が溶けるように、ピタリと一つに合わさる感覚。
至近距離に一瞬カカシは戸惑ってしまう。己の汚れが気になった。
だが直ぐに、相手もさほど変わらない装いだと気付いた。
里長の象徴である羽織を、今は羽織っていない。
瞼を開ける代わりに、カカシは鼻をスンとさせた。
これは……この里にはない潮の香り?
湿っぽい土埃。
こすれ合った塊鉄。
微かに残る血の匂いは、幾人のモノ……。
自分の知らない、火影自ら赴く極秘の務めがあったのだろうか。
それとも、道中を狙われた?
『オレの右腕となって働いてもらいたい』
未来の行き先を見出せずにいた自分に、明かりを灯してくれた尊敬する師。
力になりたかった。自分の実力では到底役に立つとは思えないが、少しでも手助けをしたかった。
彼が望むように。
そのためには忍でいなければならない。
何故なら……同じ忍であれば、傍にいても許される。
四代目、火影の傍にいる事を。
自分の存在意義はそこにしかない。カカシは確信する。
だから、身も心も、全てを捧げている。
「……先生」
前で組まれた指に、カカシは己の指を重ねてなぞった。
「ん。今夜は、このまま」
静かな低音の、心地よい声が耳元で響く。首筋に軽く唇が触れた。
「大変な任務だったようだね。ゆっくりおやすみ」
その言葉は、まるで魔法のようにカカシに安堵を与えた。
ああ、守られている。
研ぎ澄まされたままだった無意識の緊張。
それが、緩やかにほぐれていく。重い鎧を一つ一つと落としていくように。
守りたい……。
それなのに、それ以上に自分は守られている。
傍にいても許される……。
それだけじゃなく、傍に寄り添って抱きしめてくれる。
二人だけに通じ合う、満たされる逢瀬 。
カカシの意識が再び遠のいていく。
静穏の中で。
朝目覚めれば、きっと隣にはもういないだろう。
でも、繋がっていられる。
二人が忍である限り。
終わり
仲間内から亡骸を出す事はなかったが、現状は酷かった。
汚れた身なりは洗い流すべきだろうが、既に体力は限界がきている。
横になりたい……。
投げ出した重い身体は、そのままベッドに深く沈んでいった。
意識の片隅が覚醒し始める。
泥のように眠っていたが、気配を感じれば目が冴えてしまうのは忍の宿命。
ここは敵地ではない。自分の生まれ育った里。それでも片時も油断はできない。身についてしまった悲しき習性。
ただ、それだけではない。
身体の隅々が覚えた気配であれば、自然と反応してしまう。
ベッドが小さく軋んだ。
横向きで寝ていたところを、背後からそっと抱きしめられる。
互いの身体が溶けるように、ピタリと一つに合わさる感覚。
至近距離に一瞬カカシは戸惑ってしまう。己の汚れが気になった。
だが直ぐに、相手もさほど変わらない装いだと気付いた。
里長の象徴である羽織を、今は羽織っていない。
瞼を開ける代わりに、カカシは鼻をスンとさせた。
これは……この里にはない潮の香り?
湿っぽい土埃。
こすれ合った塊鉄。
微かに残る血の匂いは、幾人のモノ……。
自分の知らない、火影自ら赴く極秘の務めがあったのだろうか。
それとも、道中を狙われた?
『オレの右腕となって働いてもらいたい』
未来の行き先を見出せずにいた自分に、明かりを灯してくれた尊敬する師。
力になりたかった。自分の実力では到底役に立つとは思えないが、少しでも手助けをしたかった。
彼が望むように。
そのためには忍でいなければならない。
何故なら……同じ忍であれば、傍にいても許される。
四代目、火影の傍にいる事を。
自分の存在意義はそこにしかない。カカシは確信する。
だから、身も心も、全てを捧げている。
「……先生」
前で組まれた指に、カカシは己の指を重ねてなぞった。
「ん。今夜は、このまま」
静かな低音の、心地よい声が耳元で響く。首筋に軽く唇が触れた。
「大変な任務だったようだね。ゆっくりおやすみ」
その言葉は、まるで魔法のようにカカシに安堵を与えた。
ああ、守られている。
研ぎ澄まされたままだった無意識の緊張。
それが、緩やかにほぐれていく。重い鎧を一つ一つと落としていくように。
守りたい……。
それなのに、それ以上に自分は守られている。
傍にいても許される……。
それだけじゃなく、傍に寄り添って抱きしめてくれる。
二人だけに通じ合う、満たされる
カカシの意識が再び遠のいていく。
静穏の中で。
朝目覚めれば、きっと隣にはもういないだろう。
でも、繋がっていられる。
二人が忍である限り。
終わり
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