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かぐら先輩

「「「かぐらセンパーイ」」」

 完璧な三重唱。

 かぐらが振り向くと、そこには同じ顔がみっつ並んでいた。
「ああ、お前らかっ……わっ!!」
 にっこり微笑んだかぐらに三人は、試合中のタックルの勢いで飛び付いてきた。

「先輩、会いたかったー♡」
 見えるか見えないかの絶対領域の首に両腕を回す。

「先輩、最近オレ達と全然会ってくれないから」
 細腕にしがみつき、顔をグリグリ寄せる。

「とっても寂しかったですよ♡」
 くびれた腰にギュッと抱きつく。

「ははは、すまない。色々忙しくて……あっん」
 思わず変な声が漏れてしまい、とっさに自分の口を押さえた。そんなかぐらを見て、三人はニヤリと顔を見合わせる。


 撰歌三兄弟。

 アカデミーの頃から、かぐらに大変懐いている三つ子ちゃんである。ちっちゃく子犬のようにじゃれる姿は、ひとりっ子のかぐらにとって可愛い弟達に映った。
 しかし、月日が経ち背は伸び体格もガッシリしてきた三兄弟に、かぐらは危機感を感じはじめていた。スキンシップの仕方がちょっと変なんじゃないか? と。
 こう考えている今だって、凄くボディタッチをされている。これは当たり前の事なのか?
 友達という友達を作らなかったアカデミー時代。なので距離の感覚が分からない。
 三人に囲まれ、密着されている。六本の腕が同時に伸び、好き放題に蠢いている。
 偶然触れてしまっただけなのか、それとも意図してまさぐっているのか……。
 ピンポイントに胸の突起を弄られたと思えば、一瞬尻を揉まれた感じがする。確認しようと振り返れば、突き出た唇が間近に現れた。触れそうな距離にギョッと驚き顔を引く。その時、チッと舌打ちが聞こえた気がした。

「お前達……もう少し離れないか」
 また変な声が出てしまう前に、かぐらは三人を剥がしにかかった。

「えーー、かぐら先輩はオレ達が邪魔なの?」
 末っ子の巻波が唇を尖らせた。

「先輩に会えたのが久しぶりだったから、嬉しくてついはしゃぎ過ぎたのですね。兄上、どうしよう。先輩に迷惑をかけてしまった」
 次男の細波が瞳を潤ませた。

「そうだな。いつも兄の立場であるオレが、かぐら先輩の前では甘えられると、行き過ぎた行動をとってしまったのかもしれない。すみません、先輩」
 常識人っぽく長男の高波が頭をたれた。

 肩を落としながら三人はかぐらに背を向けトボトボ歩き出す。
 シュンとなった三人の後ろ姿を見ていると、かぐらは自分が意地悪で、後輩を疑うちっぽけな先輩に思えてしまった。慌てて呼び止める。

「待って! 違うんだ。迷惑とかそういうのではなくて、その、少しばかり近い……」
まだ話の途中なのに、三人は素早く反応した。

「もお、びっくりした♡」
「嫌われたかと思ったじゃないですか♡」
「よかったー! やっぱりかぐら先輩は、オレ達の憧れの先輩でーす♡」

 またもや派手に抱きつく三人。
 三人に笑顔が戻ったのは良いのだが、今度は激しく股間を擦り付けられている気がする。
 しかしかぐらは、気のせいだ、コイツらは純粋に慕ってくれているだけ……と話題を変える事にした。

「そう言えば、中忍試験を受けに木の葉隠れの里に行くんだろ?」
「はいっ!」
「もちろん先輩も水影様と同行されるんですよね?」
「楽しみだなぁ♡」
「残念だが、オレは里で留守番だ」
「「「えーーー?!」」」

 今回はじめて行われる、五里合同中忍試験。水影側近のかぐらは、当然木の葉に向かうと三兄弟は踏んでいた。それが留守番だなんて! 期待していた分ショックは大きい。
「せっかく一緒に大浴場に入れると思ったのに!」
「せっかく一緒の布団で寝れると思ったのに!」
「せっかく一緒にあーんな事やこーんな事が出来ると思ったのに!」

 三人同時に喋られたので何を言っているのか正確には聞き取れなかったが、本能的にかぐらは身の危険を感じた。が、これも多分自分の思い違いだろうとやり過ごす事にした。

 ヤル気がでない! とブーブー文句を垂れる三人にかぐらは激を飛ばす。
「そんな事を言うな。お前達は霧隠れの代表なんだから。里で待つオレに良い報告を聞かせてくれよ。期待している」
「……かぐら先輩がそう言うなら」
「まっ、オレ達の実力を持ってすれば楽勝でしょうね」
「他里のヤツらをコテンパにしてやるぜ!」
「お前達、気を抜くんじゃない」
 浮かれる三人にかぐらは声のトーンを落とし、真剣な面持ちになる。
「もちろんお前達の実力は十分知っている。だが、木の葉の忍びは強い。舐めてかかると痛い目に遭うぞ」
 三人の顔付きも変わる。
「木の葉の忍び?」
「そんなに強いのですか」
「けれど、所詮はオレ達と同じ下忍ですよね」
「いや、ボルトは強い……」
 呟くようにその名を呼んだ。

 修学旅行で霧隠れの里に訪れたボルトとの出会いを、かぐらはひとり思い起こした。

 水影の孫という呪縛から解き放ってくれた火影の息子。忍バウトが得意で、いつも太陽のように笑っていた少年。危険を顧みず、弱い自分を最後まで見捨てないで共に闘ってくれた、親友 ダ チ
 ボルトと過ごした数日は、かぐらには大切な時間、宝物となっていた。

 かぐらは知らず頬を染める。
 三兄弟はその変化を見逃さなかった。

「先輩、そのボルトってヤツのこと好きなの?」
「えっ?」
「だって、凄く幸せそうな顔をしてますよ」
「お、お前達なにを言ってるんだっ。ボルトは、とっ、友達で……」
 ますます顔を赤くしてしどろもどろになるかぐら。そんな姿を見て、三人は声を荒らげた。

「ダメ! かぐら先輩はオレ達の先輩なんですから!」
「そうだそうだ! 大事な先輩を他里のヤツに取られてたまるかっ! 絶対ギッタギタにしてやる!!」
「ボルト、許しまじ……先輩は渡さん。お前ら! ボルトからかぐら先輩を守るぞ! 打倒、木の葉! 打倒、ボルトだ!!」
「「おおーーーっ!!」」
「おい、ちょっと……」
 戸惑うかぐらを他所目に、三人は円陣を組んで気合をいれる。

「かぐら先輩! オレ達、全力を尽くします!」
「やってやりますよ!!」
「だからオレ達がボルトに勝ったあかつきには……」
「「「ご褒美くださいねっ!」」」

 呆然とするかぐらに三人はもう一度念を押す。

「「「ご褒美くださいね。ねっ!!」」」

 その迫力に負け、訳も分からずかぐらはコクコクと頷いた。

「やったぁーー♡」
「よっしゃーー♡」
「うひゃぁーー♡」

 狂喜乱舞の三人。
 そして拳を掲げ、今から特訓だーーと叫びながら走って行った。


 嵐が去り静まり返った中、ひとり取り残され立ち尽くすかぐら。目をパチクリさせる。

 ご褒美って……何???


 ブルっと全身に悪寒が走った。


 兎にも角にも、ボルトには頑張って貰わないと。

 そう願わずにはいられないかぐらであった。




終わり
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