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歯医者×虫歯菌

「それで、お前は入り浸るのか。歯医者の家に 」

歯医者は、ちょっと呆れたように、自分ちのソファで当たり前のようにくつろぐ虫歯菌を見て少し嫌味っぽく言う

「そう、歯医者の家に。嫌だったら追い出せよ」

虫歯菌は、自作のロリポップを舐めながらニヤニヤしてそう返す。

「ああ、そう……それじゃあ、俺は歯磨きしてくるから」

歯医者はため息をついて、洗面所へ向かう。

「サボればいいのに。お仕事で疲れてるだろー?」

虫歯菌は煽るように首を傾けて歯医者をからかう。実際の不服も込めて。

「乳歯の頃に私の歯は山ほどやっただろう」

洗面所や風呂場特有の反響した声がリビングに返ってくる。歯医者本人も歯ブラシと歯磨き粉、フロスとマウスウオッシュも手鏡を持ってリビングに戻ってくる。虫歯菌は明らかに嫌そうな顔をする。

「おぇ、見るだけで気持ち悪い。」

そう言いつつも、歯医者の三分間の歯磨きと、フロスト、マウスウオッシュを見届けるのは、彼を知らないのが許せないからだろう。虫歯菌は頬杖を着く。

「本当に綺麗なの?歯、アーンして見せてよ。」

「はいはい」

歯医者は虫歯菌の膝の上に頭を乗せて、子供のように大きく口を開ける。虫歯菌は黒い手袋をした手で、歯医者の口の中に指を突っ込んだり口を引っ張ったり、歯をなぞったりする。真白くて、彼にとってはイヤーなミントの香りがして、手袋越しでも分かる、ツルツルとした健全歯がずらりと並んでいる。

「あーあ、歯垢のひとつもないよ。見ても面白いことねぇな」

「だから、私の歯は乳歯の頃に山ほどやっただろう」

虫歯菌は不満にわめきながら言う。

「俺らは永久歯もまとめて虫歯にしなきゃ満足出来ないの。乳歯とか、柔らかいし割と誰でも虫歯にしちゃうし、あんまりほこれねぇよ。まあ、それでもお前は酷かったけど。俺がやったんだけどな!」

虫歯菌は話してるうちに機嫌が良くなってきたようで、悪魔のような三角尻尾をゆっくり横に揺らす。

「なんなら、お前の泣き顔も乳歯が穴ぼこだらけになっていくのも動画で残してるぜ?見る?」

「見ない。」

歯医者は即答した。

「そっか。おやすみ歯医者。ちゅーする?」

「歯磨きしないやつとはキスしない」
そう受け流してベッドに入る歯医者を、やはり虫歯菌は不満げに眺め、武器の手入れをしたら、歯医者のツルピカの歯を名残惜しそうに眺めて、お仕事のために出かける。
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