ふしゆとお馬☆彡


亥の刻(午後9時)。

末娘は就寝。
長男は父と、商学・経営学・流通学・意匠デザイン・繊維・織物・仕立服オートクチュール既製品プレタポルテ、等を勉強中。

迢家、次男坊(柳娟)と母の会話─────。



-1-

「母さん、兄さんってば、ポニーで泣いたんだよっ」

「あらあら」

「兄さんも、康琳と一緒にはじめればいいのに、乗馬。ちょっとは泣き虫じゃなくなるかもよ」

「乗馬なら、挑戦させようとしたことあるのよ」

「そうなの?」

「ええ。馬には乗れた方がいいかもって。馬に乗れないと困ることもあるかもしれないわねって、お父様と話して」

「へー」

「それで、お父様がつきっきりで馬の乗り方を教えて、3日かかって、ようやく、馬の鼻にさわれるようになったのよ」

「乗れてないじゃん」

「けど、都だと移動は馬車で十分だし、都なら馬に乗れなくても逆に困らないのよねって、お父様と」

「困るのか困らないのか、どっちだよ」



-2-

「ボクにも父さんが教えてくれればよかったのに」

「お父様は商人だもの。そこまで馬の乗り方が上手いわけじゃないから。あなたには、上手く馬に乗れるようになってほしかったのよ」

「だからって、ボクの友達の父さんの知り合いのおじさんに頼まなくっても」

「アラ、お友達(幼馴染)のお父様(馬主)のお知り合い(現役騎手)に、馬の乗り方を教えてもらうなんて、贅沢なことじゃナイ」

「結構スパルタで、ボクに見せ鞭(※)してきたんだよっ!誘導のレッスンの時、動かなくなっちゃった馬を、持ちあげて馬房に戻したらさァ!?」※鞭をチラつかせること。実際には叩かない。

「あなたが悪いわよ」



-3-

あわせ馬(※)の時、二馬身差で勝利したら、『君、大きくなったら[[rb:騎手 > ジョッキー]]にならないかい?』って、スカウトされちゃった」※2頭以上の馬を競わせて走らせること。

「華奢な分、斤量有利ね」

「だから、『ボク、朱雀七星士だから、大きくなったら、朱雀の巫女に仕える運命で、国のために戦う宿命なんです』って言ったら、『朱雀七星士は、決められた星の巡りからはれることの出来ない定め。騎手は決められたコースからはずれると失格となり、なにかしらの罰則ペナルティが課され、それが他の騎手、他の馬への進路妨害等、悪質な危険行為と判断された場合、騎乗停止、状況次第で、騎手免許剥奪となる定め─────。騎手も朱雀七星士も一緒だね』って、言ってた」

「そうかしら」

「一応、『そうですね』って言っといた。教えてもらってる手前」


ズズーー
ズズーー

二人でお茶をすする。

「このお茶美味しいね。何?」
白茶パイチャ。白牡丹と白菊の茶葉に、白い薔薇の花びら入りですって。この前、康琳ちゃんと市街地まちへ買い物に行った時、買ったの。『コレがイイ♡』って。今、うちのお妃様、白いモノにご執心だから」



-4-

「兄さんも一緒に教えてもらえばよかったのに」

「あの子は、ほら、『知らないおじさんに乗馬教わりなさい』なんて言っても、コワがるし嫌がるだろうから」

「そんな言われ方されたらボクだってコワいし嫌だよっ!」


「母さんも父さんも、ちょっと兄さんに過保護過ぎじゃない?」

「一人目なんてそんなもんよ」

玩具おもちゃも絵本も服も木馬の乗り物も、兄さんのおさがりだったし」

「二人目なんてそんなもんよ。年子のあなたの妹が産まれた時は、玩具も絵本も木馬も乗り物も買い直して、ベビーベッドは天蓋付きのに買い替えて、壁紙も空色から桃色に張り替えて、ベビー服は全部、素材からデザインまでお見立てしたブランド迢衣服問屋初のベビー服ライン小小姐妃リトル・プリンセス―を立ち上げて年商1億円を突破したけど。あなたのお父様のご意向手腕で」

「それはいいけどさァ!ボク、自分が父さんに抱っこされてる記憶より、兄さんがあやされて父さんに抱っこされてる記憶の方があるよ」

「そんなことないのよ?」

「そうなの?」

「ええ。お父様、晩酌時は、必ずあなたを抱っこしてたんだから」

「ふーん」

「あたしがあなたを抱っこして、お父様が長男と末娘を膝に乗せてても、晩酌時になると、あなたを必ずあたしから取り上げて。呂候と康琳をあたしに預けて」

「へー!」

「それで、あなたに胡桃くるみを握らせて─────『次男の割った胡桃をツマミに呑む酒が一番美味いっ!!』って」

「胡桃割り人形じゃないんだから」



-5-

「兄さんがあんな弱虫で臆病で泣き虫で、母さんは心配じゃないのっ!?」

「そうねェ、心配だわっ」

「兄さんがあんな弱虫で泣き虫で、ボク、心配だよ。ボク、朱雀七星士だからさ、ずーっと迢衣服問屋この家にいて、兄さんを助けてあげるコト、できないのに」


(流れ星を見て、お空のお星様がなくなっちゃうーって泣いたり)

(お友達に流鏑馬やぶさめで負けたーって泣いたり)

(馬のウンチ踏んだーって泣いたり)

(肉入り饅頭だと思ってたら、肉入り饅頭じゃなかったーって泣いたり)

(蝶々結びが上手くお結べないーって泣いたり)

(お兄ちゃんのこと泣き虫って言うけど、左目の下に泣きボクロのある誰かさんも、結構、泣き虫よ。クスッ♡)


おわり
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