ふしゆとお馬☆彡


「まったく、エルメスのバーキンだなんて。どこで覚えてくるのかしら」

「エルメスはもともと馬具メーカーだし、馬好きなら通る道だよ。遅かれ早かれ」

「遅かれ早かれ、ね。あのコ、そのうちエルメス本店で、オーダーメイドのくら、ねだるわよ?」

「いいんじゃないかな。エルメスは一流だし、一点ものオーダーメイドは愛着がわくし大切にすると思うよ。反対かい?」

「買ってあげないなんて言ってないわよ。反対なんてしてないわ。けど、もう乗馬倶楽部にお支払いしたものの内訳に、馬具一式、含まれてるのよ」

「末娘だけ、みんなとはちがうエルメスの鞍なんて付けてたら、同じ乗馬倶楽部の子たちになにか言われるかな─────それはないか。末娘に文句を言うような子がいたら次男が黙ってないから。…はっ、もしかして、君がなんか言われるかな…、末娘を甘やかして、とか…」

「いいえ」

と、妻。

「我が子が、『したい』ってしたことなら、他人ひと[[rb:他所 > ひと]]あと、一言一句、あなたに返すわ。そうじゃなくて───── エルメス一流ブランドの鞍じゃなきゃ馬に乗れないんじゃ、本末転倒、本末から落馬よ」

「本末落馬かっ!!」

と、うれしそうな夫。

「まずは、乗馬倶楽部の方に揃えて頂いた馬具で十分。あとは、あのコの馬術の成長次第。遅かれ早かれ、よ」

「遅かれ早かれ、か」

「そ、遅かれ早かれ」

「ああ、遅かれ早かれ、だね」

「ええ、遅かれ早かれ、よ」

「そうだね─────もう買っておこうか?」

「買いません」

「なんだ。遅かれ早かれ買うのなら、もう買っておいていいって意味かと思った」

「遅かれ早かれ買うんだから、時が来たら買えばいいって意味よ」


おわり(つづく)
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