☆聖母遊戯☆

1



部屋でひとり。無言で、何か言いたげに、寝台に寝転んだ鬼宿。


(………)


ごろん、と、右に寝がえりを打ち、


(………)


ごろん、と、左へ寝返りを打ち、


「………」


もう一度、仰向けになったところへ、
ぬっ、と、現れた それ に、
がっ、と、寝台の隣の机を掴むと、
ガンッ、と、力任せに投げつけた。

ガンッ、と、力任せに投げつけられた机の下から、
むくっ、と起き上がると、
つー、と、流れた鼻血をハンカチで押さえ、柳宿は言った。


「失礼ねぇ!!人を新手の妖怪みたいに」


「なんだよっ!!?エッチ<本番>がダメでも、
他のヤリ方があるだろなんて言ってねーだろ!!?ひっと言もっ!?」

「そんなこと、誰も言ってないわよ。ひっと言も」

呆れた顔で言う柳宿。流した鼻血も乾く。

「エッチのこと、<挿入>だなんてぇ、たまちゃんのえっちぃ。
でも、たまちゃんが、そこまで言うなら、手伝ってあげましょっか?
他のヤリ方で♡」

「言ってねえっつーのっ!!」

呆れた顔で言う、鬼宿。寝台の上で、あぐらをかく。

「あら?エッチするなら、知ってるオンナの方がいいでしょ?」

ぴょん、と、三つ編みを弾ませ、
ギッ、と、軋ませ、寝台に乗ると、
鬼宿の横に、足を崩して座る。

「はぁ?何言ってんだよ!?なんだよ、お前とエッチするって。
それに、お前はオカ……」

「知らない間に、知らないオンナと寝た<ヤッた>って知ったら、
み~ちゃん、怒るわよ~?」

ぎゅうっ、と、力任せに頬をつねられながら、

(たしかに……)

と、鬼宿は思う。

世界最強の右ストレートは食らうだろう。─────死ぬまで。

(だからって……)

と、鬼宿は思う。



(何が悲しゅうて、こんな指先まで馬鹿力のヤツに……)



鬼宿は、横目で、横にいる柳宿の手を見る。

色の白い肌に線の細い体をして、
しなやかに膝の上に置かれた白魚のような手は、
指の先まで、白く細かった。



(言ってることは、勝手だしよー)



鬼宿は、横目で、横にいる柳宿の口を見た。

赤く形のよい小さな口は、小さく微笑みをたたえ、
小さな女の子が遊ぶ、愛らしい人形のようだった。



(第一好みじゃねーよ)



その姿は、れっきとした男なのに、見た目もコトバも女みたいだった。



(………)



その男なのか女なのかよくわからないヤツに、
部屋でふたりきり、寝台の上で、横にいられると、
本命の恋人と、部屋でふたりきり、寝台の上で、
一緒にいるのとは、何かが、違った。



(…これが、天性の色気ってヤツか……)



「で、どーするの?」

と、鬼宿が心の声を言い終わるのを待って、柳宿は訊ねた。



「………」



鬼宿は、黙って手を伸ばし、柳宿のその頬に触れた。


本命の恋人にはない、
抑えようと思えば抑えられる欲望とは違い、
抑えようと思っても抑えられない欲情に、

顔を近づけようとしたのを、柳宿は、意外にも、制した。



「─────キスは、やめときましょ。
一度、してるから……」


「…あ、ああ」



子供みたいに従順に、体をはなした鬼宿に、
くすり、と、笑い、ふっと、頬を寄せるように、
体を近づけようとした柳宿を、今度は、鬼宿が、制した。


「…コホン、ちなみに~、金は取らね~よな?」

「そこらの娼婦じゃないわよ(怒)」

「新手の娼婦かと思ったぜ☆」


力任せに頬をつねられるかと思ったが、
その指先は、意外にも、服の上から、優しくそこに触れた。



「…アッ、、…ッ……」



思わず、上ずった声を上げ、
もう一度上げそうになった声を、押し殺した。



「……ッ……、、ンッ……」



二度、三度と、服の上から、優しくそこを、撫でるように触れると、
今度は、その輪郭をなぞるように、服の上から、優しく触れる。



「……柳宿ッ…」

「…気持ちいい?」

「………あァ…」



返事とも吐息とも喘ぎ声ともつかない声を、上げるとも漏らす。

服の上から、その筋をたどるように、優しく指先を滑らせた柳宿に、


「…アアッッ!!」


と、思わず、抑えきれずに声を上げ、
ビクンッ、と、体をのけぞらせ、
ギシッ、と、寝台を軋ませた、鬼宿。



「……ココ、気持ちいい?」

「……ッ……」



手で口を覆いながら、ハァハァと肩で呼吸をし、答えない鬼宿に、
柳宿はすべらせた指先を、そのまま服の中へ、すべり込ませた。




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