☆お飯事遊戯(おままごとゆうぎ)☆

-2-



園舎と園庭を区切るウッドデッキで、
白い上履きから、ピンク色の靴紐の運動靴に履き替える。
ルンルンルン~♪と、鼻歌交じりに。

「……お前、それでええんか?」

「かわいーでしょ♡キラキラのピンク色の靴紐♡
今、世界中の幼稚園の女の子たちの間で流行ってンの♡」

「でも、お前、男やん」

翼宿も、靴を履き替え靴紐を結ぶ。縦結びに。

「靴紐はな、どーでもええねん」

なによ?と、
左目の下に黒子のある、タレ目がちな目をさせる。

「人に意地悪しよると自分がイタイ目に遭うで。

って、オカンがゆうとったで」

それが?と、目をさせる。
そして、慈悲も、愛情も、思慮もない、
瞳と声と微笑みで、悪びれた様子もなく、言う。

「あたし、悪くないもーん♡
汝、騙されることなかれ♡愛の為なら手法はいとわないわ、ア・タ・シ♡
騙される、あのコが悪いのよ♡あたし、絶対に、謝らないもーん♡」

「ふ~ん。あ、UFO」

「さ~て、愛しのマイダーリンはどこかしらぁ♡」

キョロキョロと、園庭を見渡す。

「お砂場かしら。それとも、アスレチックかしら」

砂場を通り越し、アスレチックを通り過ぎる。

「木の下で読書かしら。それとも、僧侶と将棋かしら」

大きな栗の木の下を通り過ぎ、
先生と将棋を打つ、僧侶の前を通り越す。

「登り棒にも、ブランコにも、すべり台にもいない」

登り棒を過ぎ、ブランコを過ぎ、すべり台を過ぎる。

「変ねぇ。どこにも彩貴帝クンの姿がない」

「なあなあ、見てみぃ!UFO、おるでっ!
なぁ!?なぁって!?
翼がないからUFOやんなぁ!?」

「UFOは、どうだっていーのよッ!」

園庭を四方八方に行き来し辿り着いたのは、─────裏庭。
底なし沼のほとりに、赤いリボンをした、おだんご頭が見える。

「あのコもバカよね。ココにある、園章バッジを探しにゆくなんて(笑)
あたしが、この学校法人朱雀幼稚園の生徒の証を、なくすはずがないじゃない(笑)



─────って、なんで、彩貴帝クンも一緒に探してンのよッ!?」

「あっ、柳宿」


ぎくぅ─────


「ごめんね!彩貴帝クンにも手伝ってもらって探してるんだけど、
見つからなくて。お名前のチューリップバッチ」

「お名前のチューリップバッジじゃなくって、幼稚園の園章バッジよっ!」

「ん?園章バッジならしているではないか。
左胸の、お名前のチューリップバッチの左上に」


ぎくぅ─────


「あ、本当だ」

慌てて、左胸を隠すように、ぎゅっと、クッキーの包みを抱え直す。

「なんだ、お父さんとお母さんに書いてもらった、
大事なお名前のチューリップバッチ、なくしちゃったんじゃなかったんだ」


─────が、時すでに、遅し。


「なぜ、我、学校法人朱雀幼稚園の生徒の証である園章バッジをなくしたと?」

「…いえっ、これはぁ……、そのぉ……」

「美朱に嘘をついたのか?」

軽蔑と蔑みの瞳で、柳宿を見る。

左目の下に小さな泣き黒子のある、ややタレ目がちな大きな瞳に、
後悔と反省を滲ませ潤ませている柳宿を見て、

「シールや」

と、翼宿は、言った。

「こいつがなくしたんは、
クッキーの包みを封するのにしとった、赤いハート型のシールや」

美朱と星宿様は、ぎゅっと、その胸に、大事そうに、
柳宿が抱えているクッキーの包みを見た。

可愛くラッピングしたであろう、その包みの口は封がされておらず、
三つ折りが、半開きになってしまっている。

それを見た美朱は、
しゅるり、と、右のおだんご頭の、赤いリボンをほどいた。

「はい。このリボン、ふう するのに使って」

リボンを差し出す美朱。
それを、受け取った柳宿。ふるふる、と、肩を震わせる。

「う、う、うわーーーーーん!!美朱のバカーーーーーーッ!!」

ぽかん、と、する美朱。

「う、う、うえーーーーーん!!
美朱、意地悪してごめんなさーーーーーーい!!」

えーん、えん、えん、と、泣く柳宿に、美朱は、

「うん!」

と、素直に真っ直ぐな瞳で、頷いた。

紳士な星宿様が差し出したハンカチで涙を拭くと、
クッキーの包みの口の三つ折りを伸ばし、
蛇腹状(じゃばらじょう)に縦に折り直して、
リボンで結んだ。蝶々結びに。

「このクッキー、ママに作り方教えてもらいながら、昨日焼いたの。
たくさんあるから、みんなで食べましょ♡」

しゅるり、と、リボンをほどいた柳宿。

「ほどくんなら、リボンする意味ないやん」

底なし沼のほとりに、ピンク色のピクニックシートを広げ、
柳宿と翼宿と美朱と星宿様。
4人で囲む真ん中に、クッキーの包みを広げた。

「い~え~♡お母様の味にそっくりだ、なんて♡
まだ花嫁修業中の身ですわ♡」

「まだ、なにも言っていないが」

「美朱も翼宿も食べていーわよ♡
さ♡どーぞ、彩貴帝クンも召し上がってくださいな♡
ささ♡遠慮なさらずにっ♡
(未来の)ダーリンのため(だけ)にっ、
愛(と、秘密の薬)を込めてっ♡焼いてきたんですのよ♡」

「カラだが」

「キャーーーーーー!!?」

と、心からの心の叫び声を上げる柳宿。

「美朱っ!?あんたっ、全部食べちゃったの!?」

「うん♡美味しかった♡」

「1枚だけだって言ったでしょーーーーー!?」

「えへへ、美味しくってつい…、ゴメン」

「ゴメン、ってねぇ!?
美朱っ、あんたねェ、ごめんで済んだら、警察いらないのよっ!
ごめんで済んだらっ!」

キッ、と、美朱を睨む柳宿。

「まあ、よかったではないか。そんなに美朱が美味しかったのなら」

「なにひとつよかないですわよッ!」

キッ、と、星宿様を睨む。

「ちょっと、翼宿っ、あんたの分、彩貴帝クンによこしなさいよッ!?」

「オレ、1枚も食うてへんがな!?ヒトデ型のクッキー!」

「星型よッ!」

ピンク色のピクニックシートの上で、

赤いリボンで、おだんご頭を作り直す美朱。

美朱に差し出そうと取り出した手鏡で、自分の姿に見惚れる星宿様。

ヒトデ型のクッキーを、一口で頬張った翼宿。

わなわな、と、肩を震わせる柳宿。

「やっぱ、美朱のバカーーーーーーッ!!」

愛の為なら手法をいとわない乙女の叫び声だけが、
底なし沼の底の底の底へと吸い込まれていった。


☆お飯事遊戯(おままごとゆうぎ)2☆おわり☆
6/6ページ
スキ