☆同室遊戯☆

☆同室遊戯2☆


ー2ー



「くしゅん!」

窓全開の部屋で、柳宿がくしゃみをした。

「ん」

翼宿は毛布を手に取ると、それを柳宿にわたした。

「ありがとー♡」

(コイツ、寒がりのくせに、いっつも薄着やな)

毛布にくるまると、柳宿は、窓辺に頬杖を付いて、月を眺めた。

「星宿様も、今頃、この月を、ご覧あそばされているのかしら」

酒の味が変わった気がして、
翼宿はむせそうになった。

「今頃、えっろい後宮の、本物の女の胸の中や!」

思わず、意地悪な言い方をしてしまったことに、
はっとし、横目で、ちらりと、柳宿のことを気にするが、
柳宿はまるで、意に介した様子もなく、
窓辺に頬杖をついたまま、
翼宿に、その泣きボクロのある横顔を見せていた。

「たまちゃんとは、Aまで、してるんだけど」

今度は、本当に口に含んでいた酒を吹き出す。

「まー、あのキスはー、
美朱からたまちゃんを奪ってやろうっていう、
宣戦布告みたいなキスだったしぃ」

「お前、そんなことしてたんかっ!?」

「いわば、ご挨拶みたいなキスよ」

「どんな挨拶やねん」

「アタシが本気出してたら、
今頃、鬼宿は、コッチ側だったわね!」

「なら、強引にしてみたらえーやん。こーてーはんにも」

シラフで、こんな話きいてられるか、と、
翼宿は、ぐいっと、酒をあおる。

(いつまで、このハナシ、聞かされなアカンねん!?)

「それはできないわっ!乙女ですものっ」

急に、乙女になる。

「はーあっ」

柳宿は、男らしいのか、女らしいのか、
一気に、ぐいっと、お酒を飲み干し、
これ見よがしに、大きなため息を吐く。

「もおっ!翼宿、ぜんっぜん、わかってなーい!乙女心のこと」

空になった、柳宿のグラスに酒を注ぐ。

「わかるかぁ!オカマ心のことなんて!」

「キスが、乙女にとって、いかに大切で、
重要な意味を持つかってことがっ!

翼宿ってば、ぜんっぜーん、わかってなーい!」

柳宿は、相変わらず、月を眺めている。

「キスはね、乙女の宣戦布告にして最終通告なのよ」

と、カラダは男、ココロは乙女が申す。

「もしアタシが、カラダも本物の女だったら、
間違いなくっ、星宿様は、アタシの口づけにイチコロね♪♪」

「その自信は一体どこからくんねん。殺しの接吻の」

「試してみる?」

ずっと、横顔だけを見せていると思っていた。

あけすけのようでいて、
かぐや姫のように、
どこか得体のしれない、
美しい顔が、気が付いた時に、
真正面から、翼宿の顔を見据えていた。

長いまつげと、閉じられた瞳が、ふっと、近くなる。

「………っ!?」

やわらかく、濡れた唇が、
翼宿の下唇の真ん中に押し当てられる。

(………ん?!)

しかし、意外にも、その唇は、かすかに震えていた。

しばらくそのまま、翼宿は動かなかった。……動けなかった。
次第に、脳がくらくらと痺れるような感覚
身体が、芯から焦がれるような快感。

テクニックなのか。天性のそれなのか。

(よーわからん)

それが、殺しの接吻によるものなのか。

今度は翼宿が、牙で、
その唇を傷つけてしまわないように、
優しく、そっと、はむ。

酒の味がする。
この酒は、きっと、極上なのだろう。

「………ン」

息苦しさでか、それ以外でか、
漏れた吐息の切なさに、
翼宿は、名残惜しくも、唇をはなした。

柳宿は、濡れた唇をして、
とろんとした目を、こちらに向けている

それは、自分も同じなのだろう。

酒の力に、より勝ったのは、眠気だった。


「………─────寝るか」

「─────そーね」


柳宿は、ふぁ~あ、とあくびをし、

「おやすみぃ~♡」

と、いうと、毛布を体に巻き付けたまま、
寝台に横になると、すぐに、くーくーと寝息を立て始めた。

翼宿も、自身の寝台に、ごろりと、横になり、
あ~あ、と、あくびをすると、目を閉じる。

(たま へのキスが挨拶やったら、
このキスは、なんの宣戦布告にして最終通告にやねん)

その答えが出る前にはもう、翼宿も眠りに落ちていた。

夢の続きは見ずに眠るふたりの顔を、
満月の光が、遠くから照らす。



おわり
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