☆SとM遊戯☆

1


星に願いを。月にも願いを。
願えば願いは叶うもの。
念願叶って、脱・制服を、叶えた柳宿。

「でね♡」

と、愛しい人の腕を枕に、話を続ける。
それは、蝶のように振舞い、蜜か毒のように甘く、
蜂よりも刺(とげ)のあった、花の後宮時代の話。


「あたしが、『投げた鞠が転がって、このまま陛下のところまで届けばいいのに』って
言ったら、侍女のひとりが、言ったの。

『それでは、月が落ちてきてしまいますわ』って」


鞠はおろか、歌った歌も届かないような、籠の鳥のようだった、
後宮で過ごした1年間は、曲と曲の間奏のよう。


「そしたら、それを聞いた侍女のひとりが、言ったの。

『落ちてくるのは、海の水の方ではないでしょうか?
映す水がなくなったら、月の姿は見えなくなってしまうのではないでしょうか?』って」


しかし、願った願いの、極(きょく)の極(きょく)の極みは、二極。
色の音を、奏でるように、叶えられれば、
3つも、願い事なんて、いらないのかもしれない。


「そうしたら、それを聞いて侍女のひとりが、言ったの。

『月は鞠のようには転がって、どっかに行ってしまったりはしませんわ。
だって、毎晩、丸いわけではありませんもの』って」


愛しい人の腕を枕に、
神話とも寓話とも、ついてもつかない、嘘のように、
地動説とも天動説とも、説くには、問わない、冗談のような、
『偽りの名』から全てはじまった話を話す柳宿には、
もうなにも、願い事は、浮かばなかった。


「ねー!?おっかしーでしょー!?(笑)」


星を見上げるように、愛しい人の美しい顔を見上げる。
しかし、浮かんだ月より上の空な、美しく愛しい人。

思わず、はぁ、と、ハート型のため息をついた柳宿に、
はっ、と、思わず、腕を枕にしている、泣きボクロのある顔を見る。

「…すまない…。(聞いてなかった)」

「ンもぉ、星宿様ったら♡全然、あたしのこと、見てくれな~い♡」

ちらり、と、拗ねた素振りを見せて、
チラリ、と、タレ目がちな大きな瞳をさせて、

「なに考えてたか、当ててさしあげましょっか?」

と、言う。

「今は、色恋より、国を治めることのほうが大事、……でしょ?違う?」

「いや。違う」

「ンもぉ、星宿様ったら♡
あたしといる時は、国のこと考えるの禁止ぃ♡」

「本当に。国のことを考えていたのではない」

「そうなの?」

毛布を引っ張る。

頭一つ分、さがったところで、
愛しい人の腕を枕に、肩まで毛布のかかっている柳宿は、
その分、肩まで毛布のかかっていない、
愛しい人の肩に、それをかける。


……より、寸分早く、

「すまない。……急用を思い出した」

と、毛布をめくり、寝台から、体を起こした星宿様。

「今日は、そこで休むとよい」

めくれた毛布を、柳宿の肩までかけ直す。


姿見に、映した姿の身だしなみを整えると、見返り、

「おやすみ」

と、言われ、

「おやすみなさ~い♡」

と、とてもいいお返事をする。


コトが済んでも、念願叶って、
皇帝陛下の部屋に、一泊することになった、柳宿。


ぱたん、と、閉まった扉に、ぽつん、と、ひとり、
キュン、と、ハート型にした心が、止まる。


(……って、こーゆーことじゃな~~~~~~いッ!!!)


腕枕のなくなった寝台の枕に顔をうずめ、

「えーんえん」

と、くぐもった泣き声を上げる。

(星宿様のバカバカバカバカ~~~~~!!

『おやすみ』より『おはよう』って聞かせてほしい、
乙女心がわからないなんてーーーーーーー!!

急用って、一体、なんなのよ~~~~~~!?)

がばっと、枕から顔を上げる。

(はっ、まさか他の女のところに行ったんじゃないでしょうねェ!?)

「えーんえんえん」

枕に顔をうずめ、泣き声を上げる。

(はっ、まさかっ、美朱のところへ行ったんじゃないでしょうねェ~~~~!!?)

がばっと、枕から顔を上げる。

(そんなことしたらっ、美朱、ぜーーーーーーーーっったい、ゆるさないッ!!!)

「えーんえんえん」

顔を枕にうずめ、また、くぐもった泣き声を上げる。

(急用って、一体、なんなのよ~~~~~~!!?)

その繰り返しで、夜は更けていった。


つづく
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