☆136号線遊戯☆柳宿×翼宿

#4



白いガードレールが続く、海沿いの道を走る。

刻一刻と、山と空の色が変わってゆく。

青い三角の136号線の標識が、
近づいてきて、すれ違うやいなや、遠のいていった。

刻一刻と、海と空の色は変わってゆく。

ガードレールが途切れ、翼宿は、駐車場に車を止めた。

目の前に、夜明け前の冬の海が広がる。


「……着いたで」

翼宿は助手席で寝ている柳宿に声をかけた。

「…見るんやろ、苺色の海。起きいや。なあ?なあ?なあ?なあ?!」

しかし、起きない。

「柳宿、柳宿ォ、柳宿サーーーーン!?」

夜明けは、一瞬だった。


海と空の境目に、銀色の線が引かれ、
金色の光が射し、世界の限りが、苺色に染まる。

苺色に染めた白い頬の、
小さな黒い泣きボクロのある顔を見つめながら、


(あー、キスすれば起きよったかもなァ)


と、翼宿は思った。朝焼けに、頬を赤く染めながら。


「…ン」

その眩しさに、軽く眉間にしわを寄せ、
まるでヴィーナスの目覚めのように、ゆっくりと、目を開けた柳宿。
に、ドキリ、とした翼宿。

「…おはよー」

「…オ、オハヨー」

オウムより、ぎこちなく、朝のあいさつを返す。


なにか夢を見ていた柳宿は、
今が何時で、ここが何処で、何しにきたのか、わからないようだった。

それから、車内をきょろきょろと見渡し、

「キャーーーーーーーッ!!?」

と、大声を上げた。わかったようだった。


「なんで、起こしてくれなかったのよッ!?」


目の前には、白い太陽が照らす、
白い砂と白い波の、水色の海が広がっていた。


「起こしたで」

「サンライズ、終わっちゃってるじゃない!
もうっ!なんで起こしてくンなかったのよぉ~~~~~!!?」

「起こしたーゆうとるやろっ!!」

「あのねぇ!起こした起こしたって、
あたしが起きなきゃ起こしてないのと一緒なのぉ!!」

「あのなぁ!ケツでも叩いて、叩き起こしたらよかったんかっ!?」

「そーよっ!」

ギッ、と、フラットになったシートを元に戻す。

「朝焼けに、イチゴ色の染まる海が見たかったのにぃ~~~!!」

「見たで」

「なんで、あんたが見てンのよッ!」

キッ、と、翼宿を睨む。

それから、白い太陽が照らす、水色の海を見た。

そして、ダイヤモンドをさらったような、
白い砂に寄せては返す波のきらめきを見つめながら、言った。

「キレ~イ♡」

これはこれで、満足のようだった。

「本当に、誰も知らない海みたーい♡」

誰も、犬も、人魚も、いない海。

「真夜中の山道をドライブしてきた甲斐があったわ♡」

「お前、寝取っただけやん」


翼宿は、Rにギアを入れた。

「もう、ええやろ」

と、車をバックさす。

「うん♡」

と、頷いた柳宿。

切り替えし、ギアをDに入れる。

「腹、減ったわ」

「運転、代わろっか?」

「ん?ええ」

翼宿は、サイドミラーを確認しながら断った。車は、再び国道へ。

「もうその辺に、ラブホあるやろ」

眠気のせいか、空腹のせいか、
そもそもデリカシーがないせいで、元々こんなだったが、

「…そおね」

と、柳宿は、ただ頷いた。


看板は、すぐにあった。海沿いのホテル。─────『HOTEL シーサイド』この先800M。


「安直やな」
「安直ね」


2分と走らず、『HOTEL シーサイド』は、あった。空室あり。

海藻のような、ビニール製の のれん をくぐる。

ワンルームワンガレージ型の、何号室に車を止めたかは、誰も知らない。


The END
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