☆136号線遊戯☆柳宿×翼宿

#3



真っ暗な山道を、一定の速度で走る。

星が瞬いているところが、空の黒で、
星がないところは、山の黒だった。

変わりやすい山の空気に、濃い霧が立ち込めはじめる。

真っ白になった山道を、道なりに走りながら、翼宿は思った。

(この道で、合うてるんやろな)

目的地のないカーナビは、喋らない。

三白眼の眼を凝らしながら、
ロービームにしたヘッドライトが照らす、一寸先を進んでゆく。


(ん?)


ふと、バックミラーに目をやり、
翼宿は、凝らした三白眼の眼を、さらに凝らした。


─────バックミラーに、黒い車が一台、映っている。


(なんや!?こない夜更けにっ、こない山道でっ!?)

(なにしとんねんッ!?)

(不審車かっ!?)


バックミラーに映った車を見ながら、心の中で言う翼宿。


(……後ろ、おられんのも、うっとおしいわ)


山の血か、なにか別の血が騒いだのか、
アクセルを踏み、スピードを上げる。


しかし─────


(─────なっ!?)


ブレーキを踏み、急ブレーキをかけた。


助手席で、ぽんっ、と軽く弾んだ体に、

(起こしたかっ!?)

と、翼宿は思ったが、柳宿はまだ、夢の中だった。


(……あっぶなー)


突然、霧の中から飛び出してきた小動物は、
ぴょん、と、また、霧の中へと消えていった。


バックミラーにはまだ、黒い車が映っている。

また、アクセルを踏み、スピードを上げる。

─────が、突然、飛び出してきた、山の主のような大きさの猪に、
また、急ブレーキをかけた。

ぽんっ、と助手席で弾み、う~ん…、と、寝返りを打った柳宿。
しかし、起きない。

山の主は、翼宿に一瞥をくれると、また霧の中へ消えていった。


バックミラーを見る。まだ、さっきの車が映っている。

翼宿はまた、アクセルを踏み、スピードを上げた。

が、突然現れた、山の神のような色の鹿に、
また、急ブレーキを踏んだ。

ぽんっ、と弾み、……う~ん、と、寝返りを打ち返した、柳宿。

(起きろやッ!!)

心の中で、柳宿を叩き起こす翼宿。

山の神は、一瞥を翼宿にくれると、また霧の中へと消えていった。


(なんやねんッ!?あの車はっ!?)


バックミラーの角度を、少し直した翼宿。
バックミラーにはまだ、例の車が、映っていた。
翼宿は、アクセルを、踏み込み込む。

対向車のない国道でスピードを上げる。
直線なのか、曲線なのかもわからない山の道に、スピードが上がる。

しかし、バックミラーに映る車との車間距離は、
広がりもしなければ、縮まりもしない。

(はっ)

一定の車間距離を保ったまま、音もなく、付いてくる。

(まさかっ、おばけちゃんッッ!!?)

まさか、それが、濃い霧をスクリーンに、
車の灯光が自分の車の影を映し出した
自然<ブロッケン>現象だと知らない山の男は、
自分が運転する黄色い車のスピードを、さらに上げる。


「…たっ、たまにはこ~して肩を並べて飲んでぇ~…♪」

自分を鼓舞するように、歌を歌う。

─────ポポン♪

『そろそろ休憩しませんか?』

「今、ゆうなやっ!!」

TKの楽曲を口ずさみながら、KYなカーナビにキレ、
一寸先は霧の、国道の山道をひた走ること、さらに、2時間。

─────くらいの体感で、濃い霧が晴れる。


変わりやすい山の空気に、気が付くと、
ハイビームの向こう側に、山とは違う、海の黒が見えた。

高く昇ってしまった月に、光の道こそ見えないが、
それは、真夜中の山の道を、
ひとり、孤独なドライブをしてきた男を、安心させた。

自販機しかないドライブ・インに車を止め、
微糖の缶コーヒーを片手に休憩する。
何も見えない、夜明け前の冬の海を眺めながら。

空の星をさらったような、風が立たせる波のきらめき以外に。



to be continued
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