☆136号線遊戯☆柳宿×翼宿

#2




国道1号線の旧道と合流のあたりで、カーステレオから懐メロが流れ、
翼宿はなんとなくそれを口ずさむ。ウィンカーを出しながら。

「…Hey Hey Hey 時には起こせよムーヴメンッ♪
がっかりさせない期待に応えて素敵 で 楽しい…♪」

「ん?違う。そこは、素敵 に 楽しい♪でしょ」

「おー、せやった」

リテイク。

「がっかりさせへん…♪」

「なんで関西弁になるのよ」

リテイク2。

「がっかりさせない こたえに きたえて…♪」

「やり直し」

リテイク3。

「…がっかりさせない♪…期待に応えて♪
…素敵に楽しい俺らを捨てるよ~♪」

一小節<ワンパート>ずつ、歌録りしてゆく。

「自分で動き出さなきゃ~♪
何も起こらない夜に~♪何かを叫んで自分を壊せっ♪♪」

順調に、サビに突入する。

「Wow WowWar WowWar tonigh~♪
Wow WowWar WowWar forever~♪
Wow WowWar WowWar tonight~♪
Wow WowWar WowWar forever~♪」

順調に、サビを終える。

「ゲティンベタ~♪……レディ…ふふん…ゴ~…♪」

「…あんた、英語がわからないんでしょ」

「思えばラブソンッなんて歌ぁてみるときぃ~♪
必ず目当ての誰かがいたぁよ~おなっ♪
それでも何かの役にはたってる~♪じんっせいの~ぉ♪」

「そ~じゃなくってぇ!」

「なにがやねんッ!?」

「なんでスタッカートになるのよっ!」

「どこがやねんッ!」

「そこは歌詞カードでも、『人生の…。』って、なってるでしょお!」

「知らんがなっ!」

「もっと、歌に、人生の刹那に切なる切なさを込めなさいよね!?」

「浜ちゃんは、4テイクでOKやったって聞いたで!?」

「あんた、浜ちゃんじゃないでしょ」

「お前もコムロやないやん」

「はい、頭<さいしょ>から」

「…たまにはこうして…♪」

なかなかムーヴメントを起こせない翼宿。

翼宿が眠くならないようになのか、
名プロデューサー(?)の血がそうさせるのか、
真夜中の車内で、レコーディングは、続く。

「どやっ!?」

何度もNGテイクを出した後の何度目かのリテイクで、
曲を一曲、歌いきり、黙って聴いていた、コム…柳宿に訊く。

「……OK。ダブルミリオンからの紅白出場の夢も、夢じゃないわよ。……」

自分が眠くなったらしい。

夢見がちにしたタレ目がちの瞳が、
対向車に照らされ、睫毛の長い影を、
泣きボクロのある顔に落としていた。

丁字の標識を目に、翼宿は柳宿に話しかけた。

「さっきのドラマ、醤油味の焼うどん食うとったけど、
焼うどん言うたらソースやんなぁ!?」

「……ううん」

頷かない、柳宿。

「でも、アジフライにはソースやんなぁ!?」

「……うん」

こくん、と、頷く。

「……寝ててええで」

「ん……」

コクン、と、頷き、瞳を閉じる。

翼宿は、カーステレオのヴォリュームを下げる。

青信号が黄色に変わり、赤信号になるのに合わせ、
ゆっくりとスピードを下げるように、ブレーキを踏む。 

他に、人も車もいない信号待ちで、
助手席の反対側に手を伸ばす。
レバーを引いて、シートを倒し、ひざ掛けにしていた、いつものブランケットを、胸まで掛ける。

信号が、青に変わる。

ゆっくりとアクセルを踏む。車は次第に、山道へ。



to be continued
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