☆お裁縫遊戯☆

-1-


「ん」

と、見られた胸元に、

「ん?」

と、翼宿は視線をやった。

胸元の釦(ボタン)が、ひとつ、取れかかっている。

「付けたげる♡」

と、言われ、断る理由もなく、

(ほな、お言葉に甘えてー)

と、服を脱ごうとした、翼宿。

「あ、いーわよ、着たままで」

柳宿は、小さな裁縫箱を手に、
翼宿の前に座った。

「動いちゃだめよ?危ないから。
針が刺さっちゃうわよ~」

針と黒い糸を手に、
糸の先を、小さく、ぺろり、と舐めると、
針の穴に、それを通した。

「お前、裁縫できるん?」

「当ったり前でしょお?」

二本取りに、糸切狭(ばさみ)で、
ちょん、と、糸を切り、
揃えた糸の先を、玉結びにし、
ぴん、と張った糸を、
ぴんっ、と、指ではじいた。

「アタシを誰だと思ってんのよ♡」

と、問われ、

「んー?」

と、首を傾げた翼宿。

「あ、ほら、動かないのぉ!
針が刺さったら痛いわよ?」

「拾われっ子か?


いだだだだだっっっ!!!???」

「そーそー。
貰われていった先の、意地悪な継母と性悪な姉に
朝から晩まで、針仕事をさせられて────って、
ンもぉ、違うわよっ!ばかっ!
由緒正しき織物問屋の次男坊ぉ!
誰が、身も心もキレイで美しくって
可愛いシンデレラよっ!」

「言うとらんしっ、針、刺さっとるしっ!!
そこ、心臓やぞっ!!」

服と釦(ボタン)を挟むように、
下から通した針を上から通し、
上から通した針を下から通し、
左右の釦の穴に交互に針を通してゆく。

「よし、出来たっ♡」

服と釦の間に、くるくるくる、っと、
糸を巻き付け足を作り、
見えないところで玉止めすると、
ぷちん、と、糸切り歯で、糸を切った。

「はい♡アタシってば、料理も上手だけど、
お裁縫も得意なのよねぇ~♡」

「ちょっと、服の胸んとこ血に赤く染まってもうたけどなっ」

「黒なんだから、わかりゃしないでしょー」

言って、針と糸と糸切狭を、
裁縫箱に戻し、その蓋を閉じた。


(…でも、まー)

「お、おーきにぃ」

「どーいたしまして♡


あ♡」


もう一度、裁縫箱の蓋を開けた。




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