高低
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「そろそろ喧嘩飽きないの?他のにしたら良いのに。野球拳とか」
懲りもせず村山さんにタイマンを申し込む轟ちゃんを見て、私はそう溢した。なぜ野球拳なのか。それは昨日テレビのバラエティ番組で芸人と俳優がやっていたから。ようするに、適当である。
「真白ちゃん、それ名案!」
「……へ」
「轟ちゃん聞いたっしょ?今回はタイマンじゃなくて、野球拳で勝負ね」
チラリと轟ちゃんを見ると鬼のような形相でこちらを睨んでる。いやごめんって。私もまさか乗るとは思わなかったんだよ。村山さんはやる気満々のようで、少年のような笑みを浮かべながら両手を組んで回転させ手の中を覗き込む胡散臭いアレ、じゃんけんの必勝法なるものをやっている。アレやってる人見るの小学生の時以来だ。まあ村山さん小学生みたいなもんだしな。アレやって「見えた!」とか言ってる人一体何が見えてるんだろう。胡散臭すぎる。
「断る」
「あれれ~?轟ちゃん、もしかしてじゃんけん弱い?脱ぐの恥ずかしいとか?あ、まさか鍛えてると見せかけて実はお腹ぷよぷよ?」
「んなわけねえだろ」
村山さんのやっすい挑発を食い気味に否定する轟ちゃん。その眉間にはこれでもかと言うくらいしわが寄っている。よっぽどぷよぷよって言われたのが嫌だったんだな。まあ轟ちゃん絶対腹筋割れてるだろうけど。シックスパックならぬエイトパックくらいあるんじゃないか?でもぷよぷよな轟ちゃんか……見てみたい。
そんなこんなで、鬼邪高体育館で行われる行事はタイマンから野球拳に変更となった。
「え~それでは!チキチキ!第38回野球拳大会始めたいと思います!ドンドンドンパフパフ~!」
散らかり放題の体育館には定時、全日関係なく鬼邪高生が集まっていた。
「古いしまだ1回目だろ」
「細かいことは良いんですよ古屋さん」
村山さんと轟ちゃんが真ん中で対面し、その傍らに司会である私が立っていた。そしてその周りを生徒達が囲んでいるという形である。なぜ私が司会なのかというと、こういうのは言い出しっぺがやるもんでしょ、と村山さんに有無を言わせない笑顔で言われたからだ。
「村山さあん!!絶対負けないでくださいよお!!」
「俺が負けるわけないっしょ~」
関ちゃんの声援に余裕の笑みで応える村山さんは、流石鬼邪高の番長という感じで貫禄がある。他の定時の生徒もやっぱり村山さんを応援してるようだ。
「轟、大丈夫かよ……」
「あいつじゃんけんで俺らに勝ったことあったか……?」
「えっ轟じゃんけん弱いんですか!?」
轟一派である辻ちゃんと芝マンがボソッと溢したのをジャム男は聞き逃さなかった。意外だったのか思わず大声で叫ぶと、轟ちゃんがまたも鬼の形相で反論する。
「っうるせえ!そいつらとやる時はたまたま負けが続いただけだ!」
「ひっ」
轟ちゃんの気迫に怯えたジャム男は司の後ろに隠れる。司は呆れ顔でジャム男の背中を撫でてやってる。ずるいぞ司。私もジャム男なでなでしたい。ジャム男、こっちに来ても良いのよ。碓氷のここ、空いてますよ。
「あんまこいつ怖がらせんなよ」
「ドロッキー!全日代表として負けんなよ!」
楓士雄は太陽の様な笑顔で轟ちゃんにプレッシャーをかける。全然悪気ないんだろうなあ。恐ろしい子。
周りの生徒が野次を飛ばす中、村山さんVS轟ちゃんの野球拳が始まった。
野球拳2回目のじゃんけんが終わった。今のところ村山さん全勝の轟ちゃん全敗。どうやら轟ちゃんがじゃんけん弱いという情報は本当だったようで、見事に負け続きだ。最初に学ランを脱ぎ、次にシャツを脱いだ。今回負けると遂にタンクトップまで脱いで上半身裸になってしまう。昨日観たバラエティではイケメン俳優が脱ぐ度に観客の喜びの悲鳴が聞こえていたが、今ここには女は私しかいない。そしてあいにく、私は男の裸なんぞには興味はないのだ。どうせだったらボンキュッボンのお姉さんの裸が見たい。いや嘘ですせめて水着は着てください。
「轟ちゃ~ん、君喧嘩は強いのにじゃんけん弱すぎない?」
「うるせえ無駄口叩くな次は勝つ」
「ドロッキー!まだまだ行けるぞ!応援してっかんなー!」
まだ轟ちゃんの勝利を祈れるのは恐らく楓士雄だけだろう。辻ちゃんと芝マンですら轟ちゃんの負けを予想している。だってもう皆顔が死んでるもん。定時に至っては轟ちゃんの腹筋はいくつに割れてるかで賭けが始まっている。ちなみに今のところ一番多いのは6つ。次に多いのは9つだ。なんで9つっていう選択肢があるんだよ奇数に割れてるとか怖すぎるだろ轟ちゃん何だと思ってんだ。
「は~いじゃあ次行くよ~!」
野次が皆で野球拳お馴染みの曲(と言って良いのかわからないが)を歌う。村山さんは余裕そうに一緒に口ずさんでいるが、轟ちゃんはもう眉間にこれ以上はないんじゃないかというくらいしわを寄せて村山さんを睨み付けている。
「アウト!セーフ!よよいのよい!」
出された手は村山さんがパー。轟ちゃんがグー。
轟ちゃん残念、上半身お披露目です。
「轟ちゃん、どんまい」
己の出したグーを見つめながらわなわなと震えている轟ちゃんに向かって全く思ってもいない励ましを投げ掛けるとまたもや凄い顔で睨まれた。恐らくお前が余計なこと言ってなければ普通にタイマンだったのに、とでも言いたいのだろう。でも喧嘩で怪我するよりこっちの方が平和じゃない?たまにはこういうのも良いと思うんだよね。面白いし。私は。轟ちゃんは犠牲になったのだ……
「はい、轟ちゃん。大人しく上、脱ぎましょ~ね~」
「……くそが」
悪態を吐きながらも言われた通りにタンクトップに手をかける。そして徐々に露になってくる上半身に私は、
「……!?」
思わず目を背ける。露になった腹筋に定時連中が喜んだり喚いたりしているがそんなの耳に入ってこなかった。轟ちゃんの方を全然見ることができない。
「あれ~?真白ちゃんどしたの?お顔、まっかっかだよ」
「へっ!?」
村山さんに指摘されて気づいたが、確かに顔が熱い。それはもうサウナにでも入ってたっけって思うくらい熱い。なんで私こんなに顔赤いんだ?思い当たる節といえば、轟ちゃんの上半身。しかし、私は男の裸にはとてつもなく免疫を持っている。見慣れているから。いや、いやらしい意味じゃなくて、環境的に見慣れざるを得なかったのだ。どうしてかというと、長くなるので省略するが。
「もしかして、轟ちゃんの裸見て恥ずかしくなっちゃった?」
「ちっちが……!」
「あれ?でもこないだ俺達が遊んでた時は普通だったよな?」
そう。楓士雄の言う通り、先日河原で遊んでびしょ濡れになった楓士雄達が脱いだ時は全くもって普通だった。何の感情も抱かず、ただあー脱いだわーくらいにしか思わなかった。
「そっそうだよ!!轟ちゃんの裸見た程度で赤くなんかならないって!!私は!!男の裸に!!免疫がありますから!!」
「じゃあ何で赤いの?」
「それは……」
「それは?」
わからない。何故なのか、全くもってわからない。どうして轟ちゃんの裸を見てからこんなにおかしくなってしまったのか。村山さんならわかるかもしれないと思い、私は村山さんの耳元に口を寄せた。村山さんも大人しく聞いてくれる。何故こんなこそこそ喋るのかは、うん、なんとなくだ。
「真白ちゃん轟ちゃんの裸見ると見てはいけないものを見た気になって恥ずかしいんだって~」
喋り終わった瞬間村山さんは私が行ったことをそのまま大きな声で言ってしまう。驚きすぎて吹き出してしまったではないか。
「ちょい!?何で言うの!?小声で言った意味なくない!?」
「それ、俺のこと好きだからだろ」
「……WHY?」
それまで黙ってた轟ちゃんが突然意味のわからない言葉を発する。私が?轟ちゃんを?好き?いやいやいや待ってくれよジョニー違うじゃん。いや轟ちゃんは好きだよ?でもそれは、友達的な意味、要するにLoveではなくLikeであって。むしろ私は、
「他の奴のの裸は大丈夫なのに俺の裸は無理なんだろ?つまりそういうこと」
「え……?これ、アレルギー症状じゃないの?」
「は?」
「だって私……その……本人には言いづらいけど、轟ちゃんアレルギーで……」
そこまで言うと体育館にいる全員に何故か爆笑される。なんだよちくしょう笑い事じゃないんだぞ!
「ひー、ひー、腹痛い……真白ちゃん、轟ちゃんアレルギーって、具体的にはどんな症状なの?」
さっきまで笑い転げてた村山さんは少し落ち着いたのか、涙目になりながら問いかけてきた。周りも興味津々といった表情でこちらを見る。
「えっと……轟ちゃんを見てると体温が上昇したり動悸がしたりするのと、轟ちゃんのことを考えると食欲不振になるのと、轟ちゃんのこと考えすぎてちょっとしたミスが多くなったり不眠気味になったり……」
「いや、それ恋じゃん」
「へ?」
「しかも結構重症な」
こい?KOI?恋?いやいやどう考えてもアレルギー症状でしょ。何言ってんの村山さんバカだなあハハハ。あり得ないあり得ないと笑ってはみるものの、本当にアレルギーなのかと自分でも疑ったことがある。知り合いの医者に特定の人間に対してアレルギー症状が現れることはあるのかと聞いたところ、今のところそういった症例はないらしい。そして、轟ちゃんの側にいるとアレルギー症状が出はするものの、それとは別にすごく安心するのだ。何故か。
「1回さ、アレルギーってのは忘れて、それは恋だと思って思い返してみたら?」
そうしたら、そのよくわからない感情にきっちりハマるかもよ。
ぐるぐる、考える。今までアレルギーだと思っていたものを、恋という単語に変換して。そして、ひとつの結論に辿り着く。
私めちゃくちゃ轟ちゃんのこと好きじゃーーーーん!!!!
混乱して頭の中がぐちゃぐちゃになる。好きだ。私は間違いなく轟ちゃんが好きだ。これでもかと言うくらいに。どうして私はアレルギーとか思ってたんだバカか。知ってるよ。
「で、結論は?」
いつの間にか轟ちゃんが目の前に立っていた。上半身裸で近づくんじゃない。心拍数が轟ちゃんに届いていないか心配しながら、私は上半身を見ないように無駄に整った顔に視線を合わせる。あ、これダメだ。気付いちゃったからかまともに顔見れない。めちゃくちゃ意識しちゃう。
「まあ、その顔見ればわかるけど」
周りが静かだと思ったらいつの間にか生徒は皆居なくなっていた。え、あの人数がいなくなってもわからないくらい混乱してたのか私。しん、と静まり返った体育館に轟ちゃんの声だけが響く。
「ていうか、お前が俺のこと好き、なんて前から知ってたし」
「え!?は!?どういうこと!?」
「お前顔に出すぎ。たまに俺のこと好きで好きで堪らないって顔してた。鬼邪高で気づいてないのお前だけだと思うけど」
爆発したい気絶したい穴があったら入りたい。確かに顔に出やすいタイプであることは自覚していたがまさかそこまでとは。というか、本人が気付いてないのに周りが気付いてるってなんだよ漫画かよめちゃくちゃ恥ずかしい。
「もひとつ言うと、」
轟ちゃんの方に顔を向けると、ゼロ距離のところに轟ちゃんの顔があった。唇に柔らかいものが当たっている感触。それはすぐに離れていき、触れていた部分が熱くなっていく。
「俺がお前のこと好きってのもお前以外皆知ってる」
「へ、」
「お前のこと離すつもりないから、覚悟しとけよ?」
そう言って轟ちゃんはまた唇を重ねた。言葉とは裏腹にとても優しく。ああ、これは、逃げられないな。
懲りもせず村山さんにタイマンを申し込む轟ちゃんを見て、私はそう溢した。なぜ野球拳なのか。それは昨日テレビのバラエティ番組で芸人と俳優がやっていたから。ようするに、適当である。
「真白ちゃん、それ名案!」
「……へ」
「轟ちゃん聞いたっしょ?今回はタイマンじゃなくて、野球拳で勝負ね」
チラリと轟ちゃんを見ると鬼のような形相でこちらを睨んでる。いやごめんって。私もまさか乗るとは思わなかったんだよ。村山さんはやる気満々のようで、少年のような笑みを浮かべながら両手を組んで回転させ手の中を覗き込む胡散臭いアレ、じゃんけんの必勝法なるものをやっている。アレやってる人見るの小学生の時以来だ。まあ村山さん小学生みたいなもんだしな。アレやって「見えた!」とか言ってる人一体何が見えてるんだろう。胡散臭すぎる。
「断る」
「あれれ~?轟ちゃん、もしかしてじゃんけん弱い?脱ぐの恥ずかしいとか?あ、まさか鍛えてると見せかけて実はお腹ぷよぷよ?」
「んなわけねえだろ」
村山さんのやっすい挑発を食い気味に否定する轟ちゃん。その眉間にはこれでもかと言うくらいしわが寄っている。よっぽどぷよぷよって言われたのが嫌だったんだな。まあ轟ちゃん絶対腹筋割れてるだろうけど。シックスパックならぬエイトパックくらいあるんじゃないか?でもぷよぷよな轟ちゃんか……見てみたい。
そんなこんなで、鬼邪高体育館で行われる行事はタイマンから野球拳に変更となった。
「え~それでは!チキチキ!第38回野球拳大会始めたいと思います!ドンドンドンパフパフ~!」
散らかり放題の体育館には定時、全日関係なく鬼邪高生が集まっていた。
「古いしまだ1回目だろ」
「細かいことは良いんですよ古屋さん」
村山さんと轟ちゃんが真ん中で対面し、その傍らに司会である私が立っていた。そしてその周りを生徒達が囲んでいるという形である。なぜ私が司会なのかというと、こういうのは言い出しっぺがやるもんでしょ、と村山さんに有無を言わせない笑顔で言われたからだ。
「村山さあん!!絶対負けないでくださいよお!!」
「俺が負けるわけないっしょ~」
関ちゃんの声援に余裕の笑みで応える村山さんは、流石鬼邪高の番長という感じで貫禄がある。他の定時の生徒もやっぱり村山さんを応援してるようだ。
「轟、大丈夫かよ……」
「あいつじゃんけんで俺らに勝ったことあったか……?」
「えっ轟じゃんけん弱いんですか!?」
轟一派である辻ちゃんと芝マンがボソッと溢したのをジャム男は聞き逃さなかった。意外だったのか思わず大声で叫ぶと、轟ちゃんがまたも鬼の形相で反論する。
「っうるせえ!そいつらとやる時はたまたま負けが続いただけだ!」
「ひっ」
轟ちゃんの気迫に怯えたジャム男は司の後ろに隠れる。司は呆れ顔でジャム男の背中を撫でてやってる。ずるいぞ司。私もジャム男なでなでしたい。ジャム男、こっちに来ても良いのよ。碓氷のここ、空いてますよ。
「あんまこいつ怖がらせんなよ」
「ドロッキー!全日代表として負けんなよ!」
楓士雄は太陽の様な笑顔で轟ちゃんにプレッシャーをかける。全然悪気ないんだろうなあ。恐ろしい子。
周りの生徒が野次を飛ばす中、村山さんVS轟ちゃんの野球拳が始まった。
野球拳2回目のじゃんけんが終わった。今のところ村山さん全勝の轟ちゃん全敗。どうやら轟ちゃんがじゃんけん弱いという情報は本当だったようで、見事に負け続きだ。最初に学ランを脱ぎ、次にシャツを脱いだ。今回負けると遂にタンクトップまで脱いで上半身裸になってしまう。昨日観たバラエティではイケメン俳優が脱ぐ度に観客の喜びの悲鳴が聞こえていたが、今ここには女は私しかいない。そしてあいにく、私は男の裸なんぞには興味はないのだ。どうせだったらボンキュッボンのお姉さんの裸が見たい。いや嘘ですせめて水着は着てください。
「轟ちゃ~ん、君喧嘩は強いのにじゃんけん弱すぎない?」
「うるせえ無駄口叩くな次は勝つ」
「ドロッキー!まだまだ行けるぞ!応援してっかんなー!」
まだ轟ちゃんの勝利を祈れるのは恐らく楓士雄だけだろう。辻ちゃんと芝マンですら轟ちゃんの負けを予想している。だってもう皆顔が死んでるもん。定時に至っては轟ちゃんの腹筋はいくつに割れてるかで賭けが始まっている。ちなみに今のところ一番多いのは6つ。次に多いのは9つだ。なんで9つっていう選択肢があるんだよ奇数に割れてるとか怖すぎるだろ轟ちゃん何だと思ってんだ。
「は~いじゃあ次行くよ~!」
野次が皆で野球拳お馴染みの曲(と言って良いのかわからないが)を歌う。村山さんは余裕そうに一緒に口ずさんでいるが、轟ちゃんはもう眉間にこれ以上はないんじゃないかというくらいしわを寄せて村山さんを睨み付けている。
「アウト!セーフ!よよいのよい!」
出された手は村山さんがパー。轟ちゃんがグー。
轟ちゃん残念、上半身お披露目です。
「轟ちゃん、どんまい」
己の出したグーを見つめながらわなわなと震えている轟ちゃんに向かって全く思ってもいない励ましを投げ掛けるとまたもや凄い顔で睨まれた。恐らくお前が余計なこと言ってなければ普通にタイマンだったのに、とでも言いたいのだろう。でも喧嘩で怪我するよりこっちの方が平和じゃない?たまにはこういうのも良いと思うんだよね。面白いし。私は。轟ちゃんは犠牲になったのだ……
「はい、轟ちゃん。大人しく上、脱ぎましょ~ね~」
「……くそが」
悪態を吐きながらも言われた通りにタンクトップに手をかける。そして徐々に露になってくる上半身に私は、
「……!?」
思わず目を背ける。露になった腹筋に定時連中が喜んだり喚いたりしているがそんなの耳に入ってこなかった。轟ちゃんの方を全然見ることができない。
「あれ~?真白ちゃんどしたの?お顔、まっかっかだよ」
「へっ!?」
村山さんに指摘されて気づいたが、確かに顔が熱い。それはもうサウナにでも入ってたっけって思うくらい熱い。なんで私こんなに顔赤いんだ?思い当たる節といえば、轟ちゃんの上半身。しかし、私は男の裸にはとてつもなく免疫を持っている。見慣れているから。いや、いやらしい意味じゃなくて、環境的に見慣れざるを得なかったのだ。どうしてかというと、長くなるので省略するが。
「もしかして、轟ちゃんの裸見て恥ずかしくなっちゃった?」
「ちっちが……!」
「あれ?でもこないだ俺達が遊んでた時は普通だったよな?」
そう。楓士雄の言う通り、先日河原で遊んでびしょ濡れになった楓士雄達が脱いだ時は全くもって普通だった。何の感情も抱かず、ただあー脱いだわーくらいにしか思わなかった。
「そっそうだよ!!轟ちゃんの裸見た程度で赤くなんかならないって!!私は!!男の裸に!!免疫がありますから!!」
「じゃあ何で赤いの?」
「それは……」
「それは?」
わからない。何故なのか、全くもってわからない。どうして轟ちゃんの裸を見てからこんなにおかしくなってしまったのか。村山さんならわかるかもしれないと思い、私は村山さんの耳元に口を寄せた。村山さんも大人しく聞いてくれる。何故こんなこそこそ喋るのかは、うん、なんとなくだ。
「真白ちゃん轟ちゃんの裸見ると見てはいけないものを見た気になって恥ずかしいんだって~」
喋り終わった瞬間村山さんは私が行ったことをそのまま大きな声で言ってしまう。驚きすぎて吹き出してしまったではないか。
「ちょい!?何で言うの!?小声で言った意味なくない!?」
「それ、俺のこと好きだからだろ」
「……WHY?」
それまで黙ってた轟ちゃんが突然意味のわからない言葉を発する。私が?轟ちゃんを?好き?いやいやいや待ってくれよジョニー違うじゃん。いや轟ちゃんは好きだよ?でもそれは、友達的な意味、要するにLoveではなくLikeであって。むしろ私は、
「他の奴のの裸は大丈夫なのに俺の裸は無理なんだろ?つまりそういうこと」
「え……?これ、アレルギー症状じゃないの?」
「は?」
「だって私……その……本人には言いづらいけど、轟ちゃんアレルギーで……」
そこまで言うと体育館にいる全員に何故か爆笑される。なんだよちくしょう笑い事じゃないんだぞ!
「ひー、ひー、腹痛い……真白ちゃん、轟ちゃんアレルギーって、具体的にはどんな症状なの?」
さっきまで笑い転げてた村山さんは少し落ち着いたのか、涙目になりながら問いかけてきた。周りも興味津々といった表情でこちらを見る。
「えっと……轟ちゃんを見てると体温が上昇したり動悸がしたりするのと、轟ちゃんのことを考えると食欲不振になるのと、轟ちゃんのこと考えすぎてちょっとしたミスが多くなったり不眠気味になったり……」
「いや、それ恋じゃん」
「へ?」
「しかも結構重症な」
こい?KOI?恋?いやいやどう考えてもアレルギー症状でしょ。何言ってんの村山さんバカだなあハハハ。あり得ないあり得ないと笑ってはみるものの、本当にアレルギーなのかと自分でも疑ったことがある。知り合いの医者に特定の人間に対してアレルギー症状が現れることはあるのかと聞いたところ、今のところそういった症例はないらしい。そして、轟ちゃんの側にいるとアレルギー症状が出はするものの、それとは別にすごく安心するのだ。何故か。
「1回さ、アレルギーってのは忘れて、それは恋だと思って思い返してみたら?」
そうしたら、そのよくわからない感情にきっちりハマるかもよ。
ぐるぐる、考える。今までアレルギーだと思っていたものを、恋という単語に変換して。そして、ひとつの結論に辿り着く。
私めちゃくちゃ轟ちゃんのこと好きじゃーーーーん!!!!
混乱して頭の中がぐちゃぐちゃになる。好きだ。私は間違いなく轟ちゃんが好きだ。これでもかと言うくらいに。どうして私はアレルギーとか思ってたんだバカか。知ってるよ。
「で、結論は?」
いつの間にか轟ちゃんが目の前に立っていた。上半身裸で近づくんじゃない。心拍数が轟ちゃんに届いていないか心配しながら、私は上半身を見ないように無駄に整った顔に視線を合わせる。あ、これダメだ。気付いちゃったからかまともに顔見れない。めちゃくちゃ意識しちゃう。
「まあ、その顔見ればわかるけど」
周りが静かだと思ったらいつの間にか生徒は皆居なくなっていた。え、あの人数がいなくなってもわからないくらい混乱してたのか私。しん、と静まり返った体育館に轟ちゃんの声だけが響く。
「ていうか、お前が俺のこと好き、なんて前から知ってたし」
「え!?は!?どういうこと!?」
「お前顔に出すぎ。たまに俺のこと好きで好きで堪らないって顔してた。鬼邪高で気づいてないのお前だけだと思うけど」
爆発したい気絶したい穴があったら入りたい。確かに顔に出やすいタイプであることは自覚していたがまさかそこまでとは。というか、本人が気付いてないのに周りが気付いてるってなんだよ漫画かよめちゃくちゃ恥ずかしい。
「もひとつ言うと、」
轟ちゃんの方に顔を向けると、ゼロ距離のところに轟ちゃんの顔があった。唇に柔らかいものが当たっている感触。それはすぐに離れていき、触れていた部分が熱くなっていく。
「俺がお前のこと好きってのもお前以外皆知ってる」
「へ、」
「お前のこと離すつもりないから、覚悟しとけよ?」
そう言って轟ちゃんはまた唇を重ねた。言葉とは裏腹にとても優しく。ああ、これは、逃げられないな。
1/1ページ