第一章 カルデアス
貴方のお名前は?
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しんしんと降り積もる雪を踏んで、カンカンと音の鳴る床を踏んで、どこもかしこも真白な空間に私は立っていた。
かれこれ数十分は廊下を練り歩いているのだが、人っ子一人会う気配はなく、入館時に渡された説明書に書かれた場所は見つからない。時計なども持ち込んではいなかったため、今から規定の時間に間に合うのかもわからない。
典型的な迷子だということは、誰が見てもわかるだろう。できるならば、その誰かが通りかかりでもして、私を所定の場所に案内してくれればいいのだが。何故だか人生そう上手くはいかない。
ゆらりゆらり、覚束ない足をなんとか動かす。迷子の鉄則はその場から動かないことだ、なんて小説で読んだ文言も忘れて、悴んで感覚の無い足を前へ。
不意に、鼓膜が揺れた。
次に、世界が揺れた。
最後に、身体が崩れた。
壁だか床だかわからない真白の板に、したたかに顔を打ち付けた。脳がドラムで叩かれた時のような音を立て、徐々に赤くなる世界を他人事のように見つめていた。ジンジンと痛む頬に構っている余裕などなく、轟々と燃え盛る廊下を見やる。
視界の端には自動で付いたらしいスプリンクラーと、瓦礫の下敷きを辛うじて避けたらしい複数の怪我人。追いつかない頭を動かして、なんとか全身に水を被ってから彼らに近づいた。
「……大丈夫ですか?」
「あ、ああ……よかった。マスター候補か、いや、レイシフトは……?」
「すみません。迷子になってしまって詳しいことは何も知らないのです」
受け答えが思ったよりはっきりしていることに安堵しつつ、軽く全身の怪我の具合を視診する。全員衣服は焼けているものの皮膚が爛れている様子もなく、このまま煙を吸う方が問題だろう。
「立ち上がれるなら、どうか私の手を取ってください。あちらはまだ煙が行っていないようですから」
彼らはゆっくりと立ち上がり、一人の女性が私の手を掴む。どうやら捻挫をしているらしい男性は、隣にいた男性に背負われた。
「皆さん布で口を抑えて」
火事での死因の多くは、焼けるより先に煙を吸うことによる一酸化炭素中毒だという。なるべく体勢を低くしつつ、数名を引き連れてなんとか煙の少ない場所まで移動する。なにやらコードを打って入った先には、乾鮭色の髪を一つ纏めにした青年が慌ただしく指示を出していた。
「ロマニ! 無事だったか……!」
「ああ、その子はマスター候補かい? そうか、まだ生き残りが……とにかくこちらに来て待機してくれ」
乾鮭色の青年は、ロマニというらしい。彼は何やら画面の向こうにいる何かと話しながら、先程私が連れてきた人間にまで指示を出し始めた。
流石に怪我人を酷使するわけにはいかないと、口を挟もうとして、そこで気づいた。ここに怪我人ではない人間の方が少ないのだ。
皆同じような制服を着ているため、ここの職員なのだろう。であるならば私がここで出来ることなど皆無に近く、せめて重傷者が運ばれてきた場合、止血帯になりそうなものでも探しておく他にすることがない。
目まぐるしく動く人間たちの中で、自分だけが動けないでいる。それは、とてもストレスのかかることだ。
轟々と燃え盛る街が映し出される画面の向こうで、私と同じ制服を着た少年少女が走り回る。その子たちは私と同じくらいの年齢か、もしくはそれよりも低い男女だった。
かれこれ数十分は廊下を練り歩いているのだが、人っ子一人会う気配はなく、入館時に渡された説明書に書かれた場所は見つからない。時計なども持ち込んではいなかったため、今から規定の時間に間に合うのかもわからない。
典型的な迷子だということは、誰が見てもわかるだろう。できるならば、その誰かが通りかかりでもして、私を所定の場所に案内してくれればいいのだが。何故だか人生そう上手くはいかない。
ゆらりゆらり、覚束ない足をなんとか動かす。迷子の鉄則はその場から動かないことだ、なんて小説で読んだ文言も忘れて、悴んで感覚の無い足を前へ。
不意に、鼓膜が揺れた。
次に、世界が揺れた。
最後に、身体が崩れた。
壁だか床だかわからない真白の板に、したたかに顔を打ち付けた。脳がドラムで叩かれた時のような音を立て、徐々に赤くなる世界を他人事のように見つめていた。ジンジンと痛む頬に構っている余裕などなく、轟々と燃え盛る廊下を見やる。
視界の端には自動で付いたらしいスプリンクラーと、瓦礫の下敷きを辛うじて避けたらしい複数の怪我人。追いつかない頭を動かして、なんとか全身に水を被ってから彼らに近づいた。
「……大丈夫ですか?」
「あ、ああ……よかった。マスター候補か、いや、レイシフトは……?」
「すみません。迷子になってしまって詳しいことは何も知らないのです」
受け答えが思ったよりはっきりしていることに安堵しつつ、軽く全身の怪我の具合を視診する。全員衣服は焼けているものの皮膚が爛れている様子もなく、このまま煙を吸う方が問題だろう。
「立ち上がれるなら、どうか私の手を取ってください。あちらはまだ煙が行っていないようですから」
彼らはゆっくりと立ち上がり、一人の女性が私の手を掴む。どうやら捻挫をしているらしい男性は、隣にいた男性に背負われた。
「皆さん布で口を抑えて」
火事での死因の多くは、焼けるより先に煙を吸うことによる一酸化炭素中毒だという。なるべく体勢を低くしつつ、数名を引き連れてなんとか煙の少ない場所まで移動する。なにやらコードを打って入った先には、乾鮭色の髪を一つ纏めにした青年が慌ただしく指示を出していた。
「ロマニ! 無事だったか……!」
「ああ、その子はマスター候補かい? そうか、まだ生き残りが……とにかくこちらに来て待機してくれ」
乾鮭色の青年は、ロマニというらしい。彼は何やら画面の向こうにいる何かと話しながら、先程私が連れてきた人間にまで指示を出し始めた。
流石に怪我人を酷使するわけにはいかないと、口を挟もうとして、そこで気づいた。ここに怪我人ではない人間の方が少ないのだ。
皆同じような制服を着ているため、ここの職員なのだろう。であるならば私がここで出来ることなど皆無に近く、せめて重傷者が運ばれてきた場合、止血帯になりそうなものでも探しておく他にすることがない。
目まぐるしく動く人間たちの中で、自分だけが動けないでいる。それは、とてもストレスのかかることだ。
轟々と燃え盛る街が映し出される画面の向こうで、私と同じ制服を着た少年少女が走り回る。その子たちは私と同じくらいの年齢か、もしくはそれよりも低い男女だった。
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