腐向け
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図書館で見つけた1つの戯曲「タイタス・アンドロニカス」作者はかの有名なシェイクスピアだったが、聞いたことのないタイトルだった。
シェイクスピア好きの誉さんあたりなら、概要を知っているだろうか。そう思いつつページを捲ると、すぐにその世界観に飲み込まれていった。
残虐な世界。今まで読んだシェイクスピアのどんな戯曲よりも残酷で、狂おしく、それでいて美しいものにクラクラする。
いったいどれほど読み耽っていたのだろうか。微かにコートが振動する。小刻みに震えるソレは、きっとLIMEのお知らせである。取り出そうと顔を上げると、あたりはすでに闇に包まれていた。
慌てて画面を確認すれば、数回の着信と、数人からのLIME。やってしまったと本を棚に戻し、監督に謝罪と今から帰ることを伝える。
そうして寮の扉を開ければやはり、待っていたのは渋い顔をした幼馴染だった。
「お前な。子どもじゃないから強くは言わないが、連絡くらいしろ……」
「うん、ごめんね」
苦笑いで返せば、深いため息。
「どうせ台本でも読み漁ってたんだろ」
大当たりである。
本日の夕食は、臣くん特製のミートパイ。なんてタイミングの良いメニューだろう。柄にもなくしげしげと見つめて、なんの肉だろうと独り言つ。
「どうしました、紬さん。食べれませんか?」
いつの間にか臣くんが隣にいた。急なことで少々体が跳ねるが、すかさず笑い返す。
「ううん、ちょっと眺めてただけ」
いけない。こんなことで心配をかけてしまうのは忍びなさすぎる。訝しげな視線を振り払うように咀嚼をしても、何の肉かは分からなかった。
丞は客演の練習をするからと稽古場に篭り、暇を持て余した自分は大人しく部屋に戻る。考えるのは今日の戯曲で、登場人物である女王タモーラを自分に当てはめると、胃の中が熱く煮えていく。
大好きな人。ミートパイ。中身を知っていれば、きっと幸せなのだろうか。
暫く物思いに耽っていると、小気味の良いノックの次に、たった今思い浮かべていた人物の、低く安定感のある声。
「紬、いる?」
「至くん……? どうしたの?」
「……入って良い?」
許可なんて取らなくても良いのに、と思わず溢れた笑みをそのままに扉を開ける。目の前の彼を見やれば、少しだけホッと息を吐いたようだった。
「何かあった?」
「いや、夕食の時に考え事してたみたいだから気になっただけ」
「あぁ……大丈夫だよ」
「それならいいんだ、んじゃ俺は部屋にーー」
「待って」
踵を返そうとした彼の腕をとっさに掴む。
「折角来たんだし、少し喋ろう?」
丞は暫く戻ってこないからと繋げば、大人しくされるがままになってくれた。
クッションを敷いた床に座らせて、スマホをいじる彼を後ろから抱きすくめる。ふわふわとした毛並みは、普段の彼からも猫のようである。
首や頬、肩などに触れても抵抗が無いのをいいことに、そっと耳たぶを指先で挟んでみると、右の耳だけしこりがあるのに気がついた。執拗にそこだけを触れていると、さすがに批難の声があがる。
「至くん、ピアスしてた?」
「え? ……学生時代に、ファーストだけね」
「へえ」
「1ヶ月もしないうちに取っちゃったし、特に付け替えとかしてないから塞がってるはずだけど」
「へえ、しこりはまだ残ってるんだ」
「残る時期は人それぞれらしいけど……いや、あんまり触んないでくんない?」
コリコリとした感覚を楽しんでいたのだが、怒られてしまった。ただ、本当の疑問はそこではない。
「何で右に1つ?」
ピタリ、とわかりやすく彼の動きが止まる。僅かに心拍数もあがり、横から少し覗くだけで目を移ろわせていた。少しだけチクリと痛んだ胸を押さえつけるように耳を食んでやれば、小さく悲鳴が上がる。
普段の王子様フェイスで何でも躱す彼らしくない。これでは、学生時代にそういう人がいたのだと認めるようなものだ。全く彼は嘘がうまくない。
「学生時代、か……」
「つ、紬?」
自分は彼の学生時代を知らない。それは向こうにも言えることだけれど、あまりいい気分とは言えなかった。
「面白いね、この感触」
「そう……?」
「うん」
「そう」
「ファーストピアスってどんな感じ?」
「別に、特に痛くもなくて拍子抜け」
「ファーストピアスって普通のピアスと違うの?」
「後のピアスが入れやすいように針が太いの。石は小粒で、紬みたいな髪色だったら、星みたいだったんだろうね」
「……ほし」
これはまたポエミーな言葉が出てきたものだ。馬鹿みたいに口を半開きにして数度繰り返せば、なんだ照れてんの? なんてからかいの声が降ってくる。こちらを向いた表情は、とても穏やかである。
「……至くん」
「んー?」
手触りの良い髪。毛先の色が薄い部分を指に絡めて、耳元に唇を近づける。声が弾んでいるのが、自分でもよくわかる。
「今日読んだ戯曲にね、ミートパイが出てきたんだ」
「あぁ、それで中々口をつけなかったんだ」
「うん、それでね……その肉が食べた人の息子の肉だったんだ」
「……ん?」
腕の中の彼が身じろぐ。
「家族の肉で作られたパイを食べたんだ」
「は?」
「そこで考えてたんだけど」
「紬、待って」
「大切な人の肉を食べた女王は……」
ーーどんな気持ちだったんだろうね?
返事を伝える喉笛に、勢いよく噛み付いた。
シェイクスピア好きの誉さんあたりなら、概要を知っているだろうか。そう思いつつページを捲ると、すぐにその世界観に飲み込まれていった。
残虐な世界。今まで読んだシェイクスピアのどんな戯曲よりも残酷で、狂おしく、それでいて美しいものにクラクラする。
いったいどれほど読み耽っていたのだろうか。微かにコートが振動する。小刻みに震えるソレは、きっとLIMEのお知らせである。取り出そうと顔を上げると、あたりはすでに闇に包まれていた。
慌てて画面を確認すれば、数回の着信と、数人からのLIME。やってしまったと本を棚に戻し、監督に謝罪と今から帰ることを伝える。
そうして寮の扉を開ければやはり、待っていたのは渋い顔をした幼馴染だった。
「お前な。子どもじゃないから強くは言わないが、連絡くらいしろ……」
「うん、ごめんね」
苦笑いで返せば、深いため息。
「どうせ台本でも読み漁ってたんだろ」
大当たりである。
本日の夕食は、臣くん特製のミートパイ。なんてタイミングの良いメニューだろう。柄にもなくしげしげと見つめて、なんの肉だろうと独り言つ。
「どうしました、紬さん。食べれませんか?」
いつの間にか臣くんが隣にいた。急なことで少々体が跳ねるが、すかさず笑い返す。
「ううん、ちょっと眺めてただけ」
いけない。こんなことで心配をかけてしまうのは忍びなさすぎる。訝しげな視線を振り払うように咀嚼をしても、何の肉かは分からなかった。
丞は客演の練習をするからと稽古場に篭り、暇を持て余した自分は大人しく部屋に戻る。考えるのは今日の戯曲で、登場人物である女王タモーラを自分に当てはめると、胃の中が熱く煮えていく。
大好きな人。ミートパイ。中身を知っていれば、きっと幸せなのだろうか。
暫く物思いに耽っていると、小気味の良いノックの次に、たった今思い浮かべていた人物の、低く安定感のある声。
「紬、いる?」
「至くん……? どうしたの?」
「……入って良い?」
許可なんて取らなくても良いのに、と思わず溢れた笑みをそのままに扉を開ける。目の前の彼を見やれば、少しだけホッと息を吐いたようだった。
「何かあった?」
「いや、夕食の時に考え事してたみたいだから気になっただけ」
「あぁ……大丈夫だよ」
「それならいいんだ、んじゃ俺は部屋にーー」
「待って」
踵を返そうとした彼の腕をとっさに掴む。
「折角来たんだし、少し喋ろう?」
丞は暫く戻ってこないからと繋げば、大人しくされるがままになってくれた。
クッションを敷いた床に座らせて、スマホをいじる彼を後ろから抱きすくめる。ふわふわとした毛並みは、普段の彼からも猫のようである。
首や頬、肩などに触れても抵抗が無いのをいいことに、そっと耳たぶを指先で挟んでみると、右の耳だけしこりがあるのに気がついた。執拗にそこだけを触れていると、さすがに批難の声があがる。
「至くん、ピアスしてた?」
「え? ……学生時代に、ファーストだけね」
「へえ」
「1ヶ月もしないうちに取っちゃったし、特に付け替えとかしてないから塞がってるはずだけど」
「へえ、しこりはまだ残ってるんだ」
「残る時期は人それぞれらしいけど……いや、あんまり触んないでくんない?」
コリコリとした感覚を楽しんでいたのだが、怒られてしまった。ただ、本当の疑問はそこではない。
「何で右に1つ?」
ピタリ、とわかりやすく彼の動きが止まる。僅かに心拍数もあがり、横から少し覗くだけで目を移ろわせていた。少しだけチクリと痛んだ胸を押さえつけるように耳を食んでやれば、小さく悲鳴が上がる。
普段の王子様フェイスで何でも躱す彼らしくない。これでは、学生時代にそういう人がいたのだと認めるようなものだ。全く彼は嘘がうまくない。
「学生時代、か……」
「つ、紬?」
自分は彼の学生時代を知らない。それは向こうにも言えることだけれど、あまりいい気分とは言えなかった。
「面白いね、この感触」
「そう……?」
「うん」
「そう」
「ファーストピアスってどんな感じ?」
「別に、特に痛くもなくて拍子抜け」
「ファーストピアスって普通のピアスと違うの?」
「後のピアスが入れやすいように針が太いの。石は小粒で、紬みたいな髪色だったら、星みたいだったんだろうね」
「……ほし」
これはまたポエミーな言葉が出てきたものだ。馬鹿みたいに口を半開きにして数度繰り返せば、なんだ照れてんの? なんてからかいの声が降ってくる。こちらを向いた表情は、とても穏やかである。
「……至くん」
「んー?」
手触りの良い髪。毛先の色が薄い部分を指に絡めて、耳元に唇を近づける。声が弾んでいるのが、自分でもよくわかる。
「今日読んだ戯曲にね、ミートパイが出てきたんだ」
「あぁ、それで中々口をつけなかったんだ」
「うん、それでね……その肉が食べた人の息子の肉だったんだ」
「……ん?」
腕の中の彼が身じろぐ。
「家族の肉で作られたパイを食べたんだ」
「は?」
「そこで考えてたんだけど」
「紬、待って」
「大切な人の肉を食べた女王は……」
ーーどんな気持ちだったんだろうね?
返事を伝える喉笛に、勢いよく噛み付いた。