第三章 オルレアン
貴方のお名前は?
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竜の魔女は倒した。それを生み出した諸悪の根源……ジル・ド・レェも倒した。
味方は勝利に酔い、別れの言葉を口にする。手に入れた聖杯は、私の持っているものよりも大きかった。
今の今まで私と言葉を交わさなかった聖女が、私を呼ぶ。
「マリーから聞きました。貴女もかつて、魔女と呼ばれていたのだと」
「ああ……パリの。やっぱり王妃、私の正体知ってたんですね……」
彼女がフランスに来る前からヴェルサイユに出入りし、何回か見張り見つかっているのだから当たり前だろう。もしかしたら王に宛てた手紙をこっそり見ているかもしれないし、話を聞いたこともあるかもしれない。それほどに、彼女の対応は優しかった。
聖女は少しだけ苦い顔をした私に微笑み、一言「貴女とも、もう少し話してみたかった」と言った。
「私と話したところで、面白いものなんてないですよ」
「いいえ、そんなことはないです。マリーは私に、沢山のことを教えてくれました。貴女にも沢山教わることはあったでしょう」
「……私は、何もしていないんですよ。何も成長せず、何も達成することなく、何も絶望することなく今まで“ただ生きてきた”。だから、貴女の思うような教えは何もない」
真っ直ぐに目を見て言い切った。
それでも笑みを崩さず、彼女は口を開く。
「人は、死にたくないと渇望しても、ただ生きたいとは願わないものです。そこには生きた上で達成したい望みが存在する」
「生きた上で」
「そう、その望みは、きっと私には持ち得ないもの。それをもっと知りたかった」
彼女は、十代でその命を終えた英雄だ。ただ信仰のみで国を変え、その信念を貫いた結果、魔女と断罪された。
「聖女様にそう言われると、小っ恥ずかしいですね。私、人間だった時は貴女のファンだったんですよ?」
首を傾けて笑いかければ、彼女はその瞳を丸くした。
「英雄に恋をするのは人の常です。私はかつて、貴女に恋をしていたこともある。……昔の話ですが」
何かを返そうとする彼女の唇に人差し指を当てて遮る。これ以上の言葉かけは、お互いにとって無用だろう。
「そろそろ……!」
後ろから声が聞こえる。そろそろカルデアに行くらしい。彼から伸ばされた手を握って、レイシフトの衝撃に備える。
——ただ生きていた私の根幹にあったのは、背筋の伸びきった彼の姿だ。彼らの旅に着いていけば、また逢えるだろうか。
それを考えるだけで、胸が高鳴った。
味方は勝利に酔い、別れの言葉を口にする。手に入れた聖杯は、私の持っているものよりも大きかった。
今の今まで私と言葉を交わさなかった聖女が、私を呼ぶ。
「マリーから聞きました。貴女もかつて、魔女と呼ばれていたのだと」
「ああ……パリの。やっぱり王妃、私の正体知ってたんですね……」
彼女がフランスに来る前からヴェルサイユに出入りし、何回か見張り見つかっているのだから当たり前だろう。もしかしたら王に宛てた手紙をこっそり見ているかもしれないし、話を聞いたこともあるかもしれない。それほどに、彼女の対応は優しかった。
聖女は少しだけ苦い顔をした私に微笑み、一言「貴女とも、もう少し話してみたかった」と言った。
「私と話したところで、面白いものなんてないですよ」
「いいえ、そんなことはないです。マリーは私に、沢山のことを教えてくれました。貴女にも沢山教わることはあったでしょう」
「……私は、何もしていないんですよ。何も成長せず、何も達成することなく、何も絶望することなく今まで“ただ生きてきた”。だから、貴女の思うような教えは何もない」
真っ直ぐに目を見て言い切った。
それでも笑みを崩さず、彼女は口を開く。
「人は、死にたくないと渇望しても、ただ生きたいとは願わないものです。そこには生きた上で達成したい望みが存在する」
「生きた上で」
「そう、その望みは、きっと私には持ち得ないもの。それをもっと知りたかった」
彼女は、十代でその命を終えた英雄だ。ただ信仰のみで国を変え、その信念を貫いた結果、魔女と断罪された。
「聖女様にそう言われると、小っ恥ずかしいですね。私、人間だった時は貴女のファンだったんですよ?」
首を傾けて笑いかければ、彼女はその瞳を丸くした。
「英雄に恋をするのは人の常です。私はかつて、貴女に恋をしていたこともある。……昔の話ですが」
何かを返そうとする彼女の唇に人差し指を当てて遮る。これ以上の言葉かけは、お互いにとって無用だろう。
「そろそろ……!」
後ろから声が聞こえる。そろそろカルデアに行くらしい。彼から伸ばされた手を握って、レイシフトの衝撃に備える。
——ただ生きていた私の根幹にあったのは、背筋の伸びきった彼の姿だ。彼らの旅に着いていけば、また逢えるだろうか。
それを考えるだけで、胸が高鳴った。