第三章 オルレアン
貴方のお名前は?
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手のひらの中で、聖杯だったものが私の姿を映す。
私はあの時から、歳をとっていない。爪も伸びる、髪も伸びる。不老ではあるが、不死ではない。悠久と彼は言ったが、ベースは人間の身体なので、叩けば折れる脆さだった。
トランクの中身は、私の空想が具現化したもの。薬品は尊敬する彼に倣ったもの。短剣は護身用。指輪は決戦時に防具として作ったものの一つ。写真は彼との記憶を念写した。全て思い出深い品だ。
そして唯一覚えのない赤い石は鍵のようで、ずっとペンダントとして首から下げていた。
中身の確認を終えて小屋を出ても、人がやってくる気配はない。彼の言い方からして革命のどさくさに紛れて何かあったと思うのだが、随分と肩透かしだ。
「そういえば、告白紛いのアレ……答えもらってないな」
小さく溜息を吐く。そもそも告白として受け取って貰えてない可能性の方が高いだろう。どうあがいても、彼にとって私はそういう対象ではない。妻子持ちに何を夢見ていると自嘲する。
サーヴァントとマスターでは、市議と人間の彼と主従以上に行けない。であれば生前、と思ったのだが記憶を失くしていても本能的に無理だと悟った。彼はマリーと居るべきだ。
あとはもう、彼が息を引き取るまで側に居られればよかった。その後はどうなっても構わないと、本気で考えていたのに。往生を見守る前にこちらが死にそうだ。
魔女らしく厄災でも起こしてみれば面白いが、このフランス革命こそが厄災のようなものだろう。いくら後世の人間たちに必要なことだったとしても、今を生きる人間たちにとっては地獄にすぎる。
扉の前で、膝を抱えて座り込む。空の茜色が、硝煙で鈍色に陰る。視界が一瞬歪み、空にはいつの間にか、不思議な光の帯ができていた。
そのままぼんやり陽が沈む様を見ていると、不意に視界の端に人影が映った。お迎えが来たのだろうか。殴りたければ殴ればいい。顔を膝に埋めて、なるべく身を硬くして、次に来るだろう衝撃に備える。
「Is a person having Holy Grail this person?」
投げられた言葉は、フランス語ではなかった。ここでは絶対に聞くことのない、ぎこちない英語。少々東洋訛りの残るその声は、今まで散々浴びせられた敵意は微塵も無い。一体誰だ。
「Excusez-moi, ou sommes-nous ?」
次に聞こえたのは、無駄に流暢に聞こえるフランス語。先程と声の主は同じなのに、東洋訛りは不自然なほどに感じられない。
トントン、と優しく肩を叩かれて顔を上げると、そこには海のような青い瞳の少年が立っていた。
「えっと、言葉通じてますか?」
青い瞳がこちらを見つめる。肌の色と髪の色、それと顔立ちは東洋人のそれだ。肉体はほぼ完成に近いのに、顔立ちが随分と幼い。彼は固まった私の眼前で手を振りながら、首を傾げている。
「あ、ああ……通じてます。すいません、見慣れない顔立ちだったもので」
ハッと我に返ったところで、頭を下げる。少なくとも、彼は私のことを知らないのだろう。しかし、旅の人間にしては服装が現代的だ。
そこで初めて、自分のいる場所の異常に気がついた。そこに森はなく、平原が広がっている。くるりと後ろを見ると、後ろにあったはずの小屋がない。
「ここ……どこです?」
「えっと……」
首を傾げて問いかけても、彼も困ったように笑うだけ。お互い数秒見つめあって、周りに人がいることに気がついた。
大きな盾を持った紫の瞳の少女。大きな杖を持った青い長髪の男。大きな旗を持つ金髪の少女。そして何より、服装も国籍もバラバラそうな彼らの影に隠れていたのは。
「あ、貴方……」
「……記憶はあんのか」
そう、かつて聖杯戦争で唯一戦闘らしい戦闘をした、緑衣のアーチャー 。私が彼を認識するなり、彼は忌々しそうに顔を歪めた。少年はますます困惑した表情を浮かべた。
「知り合い?」
「ええ、あまり関わらない方がいいですぜマスター」
「酷い言われよう。私を殺したいならそうすればいい」
状況はよくわかっていないが、そろそろ死ぬ予定だったのだ。サーヴァントを持たない私を殺すことなんて容易いだろう。恨みを持っていてもおかしくない彼の前で両手を広げれば、少年が慌てて私を庇った。
「え、駄目だよ、駄目だよロビン!」
「いや、殺しませんて。大事な目撃者」
「……ん?」
彼は今、確かに名前を呼んだ。イギリスの弓の名手でロビンといえば、ジョン失地王に抗ったあのロビン・フッドだろうか。
「真名の検討ついちゃったんだけど、大丈夫なの貴方のマスター」
「ほう、お嬢ちゃんは聖杯戦争出身の魔術師か? ちょうどいいや、知ってること全部話しな」
杖を持った青い髪の男が、一歩私に近づいてくる。というより、もしかして彼もサーヴァントか。令呪が見えるのは黒髪の男の子ただ一人——一人でこれだけの人数と契約できるなんて聞いたことがない。
それに知っていることも何も、私は何も知らない。どう返せばいいのかわからず、無言で彼の赤い瞳を見る。どう話したものかと考えていれば、今度は姿の見えない声が響いた。
『——話の途中ですまない! 敵性反応だ!』
「え、あ、わかった! 全員戦闘準備!」
後ろを向くと、そこにいたのは巨大な飛竜。青年が令呪の描かれた手を振り上げると、彼らは各々の武器を持ち一斉に飛びかかった。
拙いなりに、大切な場所での的確な指示。飛竜は十分も経たないうちに、ただの肉片になる。
「おー、すごい」
緊張感のカケラもなく、ペチペチと拍手を送る。こんなものがうろついているだなんて、なんの冗談だ。ここは私の知っているフランスではない。
一息ついたとばかりに少年は、こちらをじいっと見つめてきた。周りのサーヴァントたちも同様だ。
「……とりあえず、お互い情報交換しましょうか。そちらも切羽詰まってるみたいだし」
複数の視線に耐えきれず、パン、と一つ手を叩いて仰ぎ見る。少年は無邪気に笑い、手を差し出してきた。
「よろしくお願いします」
「よろしくね」
しっかりと握り返すと、その手がまだ柔らかい子どもの手であることがわかる。アカギレも手荒れも無い、怪我の知らない綺麗な手だ。
——それから語られたこの世界の実情は、とても信じ難いものだった。
魔術師の藤丸くん、ここにいるサーヴァントの真名、聖杯を求める理由……これは大丈夫。人理焼却、タイムスリップ……これも、突拍子がないがまあ理解できる。しかしカルデア、レイシフト、特異点となるとお手上げだ。
その中でもサーヴァントと複数契約できる理由が、電力というのは中々面白かった。魔術師と科学は相容れないと思っていたが、そんなことが出来る機関があっただなんて。
一方私が話したのは、自分の人間としての出生と、ここに行き着いた大まかな経緯。特に言う必要もなかったので、アサシンについては伏せた。緑衣のアーチャー も、何も言ってはこなかった。
この話を照らし合わせると、私は迷子らしい。持っていた聖杯の残り滓のお陰で、人理焼却から免れた。——否、寧ろ巻き込まれたと言っていい。
私という存在はこの特異点に固定されず、聖杯の力だ残っている限り渡り続ける。いくつもの消えゆく世界を見ながら、ただ一人消えることはない存在。そして最後の特異点が消えた時が、私の最期になる。
「つまり、どう足掻いても私は死ぬと」
「そ、そんな……! 何とかならないんですか、ドクター!」
私の乾いた笑いに、少年は姿なき声に縋る。旗を持つ聖女と盾の少女は、痛ましそうに私を見る。男二人はフードで顔が見えない。
『一応、手がないわけじゃないよ』
「……生き残れるんです?」
『つまり君の聖杯は、生き続けることを軸として動く。なら、立香君戻ってくる時に、一緒にこちらに来ればいい』
どうする、と投げられた視線に私は一も二もなく頷いた。即答した私に、驚いたのは緑衣のアーチャーだったようだ。
話も終わり迷いなく道を進む少年たちの後ろで、私と彼は並んで歩く。彼らの興味が外へと向けられたあたりで、くいと襟を引かれた。そのまま耳元に唇が寄せられ、木々の匂いが鼻をくすぐった。ここで初めて、彼の顔が見える。稲穂色の髪に白い肌、薄く散ったそばかすが霞むほどの整ったパーツ。タレ目につり眉は人を威嚇させず、草色の瞳はこちらを真っ直ぐに見ていた。
「あんた、死にたかった訳じゃないんだな」
「お生憎様。諦めが良いってだけで、生きる可能性があるならそっちに賭けるわ」
べえっと舌を出せば、彼はムッと眉間にしわを寄せる。しかしすぐに馬鹿にしたように笑い、私の頭を軽く小突いた。
「これだから魔女ってやつは、自分勝手で困りますわ」
「悪かったね。妙なこと望んだせいで、貴方の誇りを汚して」
「誇りなんてモン、最初から持ち合わせてねーよ。あれも星回りだろ」
顔を離した彼が、空を仰ぎ見る。あの時聖杯戦争に参加していた彼は、彼らは、自分たちのマスターが勝てないことを知っていた。聖杯からの知識で、それが運命なのだとわかっていた。
そんな彼らを救ったのは、このアーチャーなのかもしれない。せめて戦いの中で散らせてやろうと、マスターもいない身体で他マスターを討ったのだ。
「優しいね」
「買い被りもほどほどにしてくださいよ。そんな綺麗な動機じゃない」
「優しいよ。それで彼らは救われた。私に殺されるよりずっと良い」
首から下げた赤い石を、強く握りしめる。光にかざすと赤黒くも見えるこれは、きっと彼らの流した血液なのだ。私にとっての、罪の結晶。
私は生きているだけで、罪なのだ。その罪が世界が罰しようとする時、私はアサシンをまた呼ぼう。そして次こそこの首を落としてもらうのだ。そんなことを考えながら、令呪の無くなったうなじを撫でる。
「……あんた、カルデアに戻ったら二人目のマスターになる気ないですか」
「本当は四十数人居るはずだった……ってアレ? 無理かな」
聖杯が使いさしとはいえこちらにある以上、新規のサーヴァントと契約してしまうのは逆に危険だ。聖杯の所持については今の面子のみに話し、その後は厳重に私のトランクに保管することになっている。
「でも安心して、知識はあるからいざとなれば別の道具で応戦できる。そこそこ使えるはずだよ」
「……もし、あの野郎がマスターに召喚されたら?」
「アサシンが? それは、私が一番嬉しい展開かな、それは」
そう、主従関係である限り、彼と私はいつまでもあの聖杯戦争の状態で固定される。
“それでは生き続ける意味がない”
渋い顔をする彼に笑って返す。彼は「似た者同士じゃねーか」と項垂れた。
私はあの時から、歳をとっていない。爪も伸びる、髪も伸びる。不老ではあるが、不死ではない。悠久と彼は言ったが、ベースは人間の身体なので、叩けば折れる脆さだった。
トランクの中身は、私の空想が具現化したもの。薬品は尊敬する彼に倣ったもの。短剣は護身用。指輪は決戦時に防具として作ったものの一つ。写真は彼との記憶を念写した。全て思い出深い品だ。
そして唯一覚えのない赤い石は鍵のようで、ずっとペンダントとして首から下げていた。
中身の確認を終えて小屋を出ても、人がやってくる気配はない。彼の言い方からして革命のどさくさに紛れて何かあったと思うのだが、随分と肩透かしだ。
「そういえば、告白紛いのアレ……答えもらってないな」
小さく溜息を吐く。そもそも告白として受け取って貰えてない可能性の方が高いだろう。どうあがいても、彼にとって私はそういう対象ではない。妻子持ちに何を夢見ていると自嘲する。
サーヴァントとマスターでは、市議と人間の彼と主従以上に行けない。であれば生前、と思ったのだが記憶を失くしていても本能的に無理だと悟った。彼はマリーと居るべきだ。
あとはもう、彼が息を引き取るまで側に居られればよかった。その後はどうなっても構わないと、本気で考えていたのに。往生を見守る前にこちらが死にそうだ。
魔女らしく厄災でも起こしてみれば面白いが、このフランス革命こそが厄災のようなものだろう。いくら後世の人間たちに必要なことだったとしても、今を生きる人間たちにとっては地獄にすぎる。
扉の前で、膝を抱えて座り込む。空の茜色が、硝煙で鈍色に陰る。視界が一瞬歪み、空にはいつの間にか、不思議な光の帯ができていた。
そのままぼんやり陽が沈む様を見ていると、不意に視界の端に人影が映った。お迎えが来たのだろうか。殴りたければ殴ればいい。顔を膝に埋めて、なるべく身を硬くして、次に来るだろう衝撃に備える。
「Is a person having Holy Grail this person?」
投げられた言葉は、フランス語ではなかった。ここでは絶対に聞くことのない、ぎこちない英語。少々東洋訛りの残るその声は、今まで散々浴びせられた敵意は微塵も無い。一体誰だ。
「Excusez-moi, ou sommes-nous ?」
次に聞こえたのは、無駄に流暢に聞こえるフランス語。先程と声の主は同じなのに、東洋訛りは不自然なほどに感じられない。
トントン、と優しく肩を叩かれて顔を上げると、そこには海のような青い瞳の少年が立っていた。
「えっと、言葉通じてますか?」
青い瞳がこちらを見つめる。肌の色と髪の色、それと顔立ちは東洋人のそれだ。肉体はほぼ完成に近いのに、顔立ちが随分と幼い。彼は固まった私の眼前で手を振りながら、首を傾げている。
「あ、ああ……通じてます。すいません、見慣れない顔立ちだったもので」
ハッと我に返ったところで、頭を下げる。少なくとも、彼は私のことを知らないのだろう。しかし、旅の人間にしては服装が現代的だ。
そこで初めて、自分のいる場所の異常に気がついた。そこに森はなく、平原が広がっている。くるりと後ろを見ると、後ろにあったはずの小屋がない。
「ここ……どこです?」
「えっと……」
首を傾げて問いかけても、彼も困ったように笑うだけ。お互い数秒見つめあって、周りに人がいることに気がついた。
大きな盾を持った紫の瞳の少女。大きな杖を持った青い長髪の男。大きな旗を持つ金髪の少女。そして何より、服装も国籍もバラバラそうな彼らの影に隠れていたのは。
「あ、貴方……」
「……記憶はあんのか」
そう、かつて聖杯戦争で唯一戦闘らしい戦闘をした、緑衣のアーチャー 。私が彼を認識するなり、彼は忌々しそうに顔を歪めた。少年はますます困惑した表情を浮かべた。
「知り合い?」
「ええ、あまり関わらない方がいいですぜマスター」
「酷い言われよう。私を殺したいならそうすればいい」
状況はよくわかっていないが、そろそろ死ぬ予定だったのだ。サーヴァントを持たない私を殺すことなんて容易いだろう。恨みを持っていてもおかしくない彼の前で両手を広げれば、少年が慌てて私を庇った。
「え、駄目だよ、駄目だよロビン!」
「いや、殺しませんて。大事な目撃者」
「……ん?」
彼は今、確かに名前を呼んだ。イギリスの弓の名手でロビンといえば、ジョン失地王に抗ったあのロビン・フッドだろうか。
「真名の検討ついちゃったんだけど、大丈夫なの貴方のマスター」
「ほう、お嬢ちゃんは聖杯戦争出身の魔術師か? ちょうどいいや、知ってること全部話しな」
杖を持った青い髪の男が、一歩私に近づいてくる。というより、もしかして彼もサーヴァントか。令呪が見えるのは黒髪の男の子ただ一人——一人でこれだけの人数と契約できるなんて聞いたことがない。
それに知っていることも何も、私は何も知らない。どう返せばいいのかわからず、無言で彼の赤い瞳を見る。どう話したものかと考えていれば、今度は姿の見えない声が響いた。
『——話の途中ですまない! 敵性反応だ!』
「え、あ、わかった! 全員戦闘準備!」
後ろを向くと、そこにいたのは巨大な飛竜。青年が令呪の描かれた手を振り上げると、彼らは各々の武器を持ち一斉に飛びかかった。
拙いなりに、大切な場所での的確な指示。飛竜は十分も経たないうちに、ただの肉片になる。
「おー、すごい」
緊張感のカケラもなく、ペチペチと拍手を送る。こんなものがうろついているだなんて、なんの冗談だ。ここは私の知っているフランスではない。
一息ついたとばかりに少年は、こちらをじいっと見つめてきた。周りのサーヴァントたちも同様だ。
「……とりあえず、お互い情報交換しましょうか。そちらも切羽詰まってるみたいだし」
複数の視線に耐えきれず、パン、と一つ手を叩いて仰ぎ見る。少年は無邪気に笑い、手を差し出してきた。
「よろしくお願いします」
「よろしくね」
しっかりと握り返すと、その手がまだ柔らかい子どもの手であることがわかる。アカギレも手荒れも無い、怪我の知らない綺麗な手だ。
——それから語られたこの世界の実情は、とても信じ難いものだった。
魔術師の藤丸くん、ここにいるサーヴァントの真名、聖杯を求める理由……これは大丈夫。人理焼却、タイムスリップ……これも、突拍子がないがまあ理解できる。しかしカルデア、レイシフト、特異点となるとお手上げだ。
その中でもサーヴァントと複数契約できる理由が、電力というのは中々面白かった。魔術師と科学は相容れないと思っていたが、そんなことが出来る機関があっただなんて。
一方私が話したのは、自分の人間としての出生と、ここに行き着いた大まかな経緯。特に言う必要もなかったので、アサシンについては伏せた。緑衣のアーチャー も、何も言ってはこなかった。
この話を照らし合わせると、私は迷子らしい。持っていた聖杯の残り滓のお陰で、人理焼却から免れた。——否、寧ろ巻き込まれたと言っていい。
私という存在はこの特異点に固定されず、聖杯の力だ残っている限り渡り続ける。いくつもの消えゆく世界を見ながら、ただ一人消えることはない存在。そして最後の特異点が消えた時が、私の最期になる。
「つまり、どう足掻いても私は死ぬと」
「そ、そんな……! 何とかならないんですか、ドクター!」
私の乾いた笑いに、少年は姿なき声に縋る。旗を持つ聖女と盾の少女は、痛ましそうに私を見る。男二人はフードで顔が見えない。
『一応、手がないわけじゃないよ』
「……生き残れるんです?」
『つまり君の聖杯は、生き続けることを軸として動く。なら、立香君戻ってくる時に、一緒にこちらに来ればいい』
どうする、と投げられた視線に私は一も二もなく頷いた。即答した私に、驚いたのは緑衣のアーチャーだったようだ。
話も終わり迷いなく道を進む少年たちの後ろで、私と彼は並んで歩く。彼らの興味が外へと向けられたあたりで、くいと襟を引かれた。そのまま耳元に唇が寄せられ、木々の匂いが鼻をくすぐった。ここで初めて、彼の顔が見える。稲穂色の髪に白い肌、薄く散ったそばかすが霞むほどの整ったパーツ。タレ目につり眉は人を威嚇させず、草色の瞳はこちらを真っ直ぐに見ていた。
「あんた、死にたかった訳じゃないんだな」
「お生憎様。諦めが良いってだけで、生きる可能性があるならそっちに賭けるわ」
べえっと舌を出せば、彼はムッと眉間にしわを寄せる。しかしすぐに馬鹿にしたように笑い、私の頭を軽く小突いた。
「これだから魔女ってやつは、自分勝手で困りますわ」
「悪かったね。妙なこと望んだせいで、貴方の誇りを汚して」
「誇りなんてモン、最初から持ち合わせてねーよ。あれも星回りだろ」
顔を離した彼が、空を仰ぎ見る。あの時聖杯戦争に参加していた彼は、彼らは、自分たちのマスターが勝てないことを知っていた。聖杯からの知識で、それが運命なのだとわかっていた。
そんな彼らを救ったのは、このアーチャーなのかもしれない。せめて戦いの中で散らせてやろうと、マスターもいない身体で他マスターを討ったのだ。
「優しいね」
「買い被りもほどほどにしてくださいよ。そんな綺麗な動機じゃない」
「優しいよ。それで彼らは救われた。私に殺されるよりずっと良い」
首から下げた赤い石を、強く握りしめる。光にかざすと赤黒くも見えるこれは、きっと彼らの流した血液なのだ。私にとっての、罪の結晶。
私は生きているだけで、罪なのだ。その罪が世界が罰しようとする時、私はアサシンをまた呼ぼう。そして次こそこの首を落としてもらうのだ。そんなことを考えながら、令呪の無くなったうなじを撫でる。
「……あんた、カルデアに戻ったら二人目のマスターになる気ないですか」
「本当は四十数人居るはずだった……ってアレ? 無理かな」
聖杯が使いさしとはいえこちらにある以上、新規のサーヴァントと契約してしまうのは逆に危険だ。聖杯の所持については今の面子のみに話し、その後は厳重に私のトランクに保管することになっている。
「でも安心して、知識はあるからいざとなれば別の道具で応戦できる。そこそこ使えるはずだよ」
「……もし、あの野郎がマスターに召喚されたら?」
「アサシンが? それは、私が一番嬉しい展開かな、それは」
そう、主従関係である限り、彼と私はいつまでもあの聖杯戦争の状態で固定される。
“それでは生き続ける意味がない”
渋い顔をする彼に笑って返す。彼は「似た者同士じゃねーか」と項垂れた。
